コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 巫女の少女と命使いと ようやく更新再開! ( No.72 )
- 日時: 2010/11/20 14:30
- 名前: 山口流 ◆v9R3ODctWg (ID: NhgkHXib)
- 参照: http://ameblo.jp/mekurumekunovel-blog/
間界とは単純に説明すると神が物体に力を与えるための空間である。
そこでは我々の世界である人界の三倍の速度で時間が経過する。つまり、こちらでの一秒は向こうの三秒に相当するのである。
神の力が降臨する時には謎の発光現象が起こり、これは神滅者にしか見えないことが解っている。
原因は全くの不明で、神の後光だと言う人もいれば、神誕生の瞬間に発光現象が起こるのだと言う人もいる。
間界はあの中学校近辺にしか現れず、これも原因は不明。
基本的な情報すらまだ良く分っていない、未開の地なのである。
「説明終了。質問ある?」
啓樹は俺の茶菓子をひったくり、丸呑みした。
「説明っつっても、今は大して喋ってないけどな」と言いかけた。いかん、大したことありまくりの事態の連発で、俺の普通の基準が狂っている。正常に戻せマイブレイン。
「質問……じゃねえがいいか? まあ答えの如何にかかわらずはっきり言わせてもらう。正直バカじゃねえのっていうのが俺の考えだ」
そもそも、俺は一切関与したくない。今でさえ、お前を蹴り飛ばして家路につきたいのを耐えているんだ。こんな意味不明な事に関与させるな。
「拒否権は君にはないんだよ。これはこの世に生を受けたときに必然的に決まった事なんだから。神の思し召しだとでも思っておけばいいさ。いやなら恩恵だと思って」
「悪いな、俺は宗教は信じてない。信者になる気もさらさらない。更に名前を欠片も聞いたことがないような超無名宗教なんざ、まっぴら御免こうむる。恩恵なんていらん。お前らに寄付してやるよ。そうすりゃ、神様とやらも何人か解放してくれるんじゃないか?」
俺は立ち上がり外に出ようとする。すると背後から声が聞こえた。
「『黒楔』」
俺の動きが強制的に止まる。いや、止まるって言うより、動けなくなると言う方が正しいな。全身の動きが止まって、指一本動かせない。
「な、なんだこれは」
啓樹が前に歩いてきた。手にはあの仏典を持っている。
「無駄だよ。本来実力差があったら使えないこの駄目能力でも、君なら眼球と唇程度を動かすのが精一杯だよ。君に拒否権は無い。諦めて、僕らの味方につくことだ」
「……何でそんなにお前は俺を神滅者にさせたがる。俺がいなくとも、大して変わらんだろう」
俺が居ようと居まいと大して変わらんと言うのは間違っていないはずだ。俺がそんなに大それた力を持っているとは思えないからな。啓樹は冷たい目で俺を見ていた。
「いずれ話すことだろうから、今話してあげるよ」
唐突にこう切り出してきた。何のことだ?
「君はおそらく『選ばれた人間』なんだよ」
「……選ばれた人間だと? ハッ、ぬかせ。神滅者とやらになって選ばれた人間だとは思えないな。俺はこんな権利放棄してやりたいよ」
「勿論それもある。それもあるけど、それだけじゃあないんだよ」
啓樹は語りだした。
「神滅者はそもそも骨董品を持たなければ間界に入ることができないんだ。間界はあれで神を誕生させる場だ。それなりの耐性というか、準備というか、そういうのが必要なんだよ。でも君は骨董品無しで間界に入った。それは本来ありえないんだ。君が間界に入ってきたときに彼女が異様に驚いていたのはこのためさ」
確かに一理ある。
俺があの間界の中に入った時に、神之宮は異常なほどの動揺を見せていた。仮に間界へは誰でも入れるのなら、俺があそこに入っても何ら不思議じゃない。
いや、初めは驚くだろうが、別におかしな事ではないはずだから、あそこまで驚くことではないはずだ。
ましてや、相手はあの表情ナッシングな神之宮である。あそこまであからさまなほど驚くわけがない。
……しかし。しかしだ。
俺が、異端的存在だとでも言うのか。
なわけねえだろ。
俺は超常現象なんざないと割り切って、どんなに創作内の世界に憧れたところで叶うことなんかなくて、まして自らが選ばれた存在である、なんてことは絶対にあり得ないととっくの昔に悟った、普遍的な生活に憧れる、一介の一中学生でしかねえんだぜ?
「僕はそんな事は知ってるさ」
啓樹はお得意の「俺の思考読み」で悟ったらしく、思考の中へ返答をよこしてきた。
「だが君がどう思おうと事実は変わらないんだ。『不平等で、不条理で、不都合なのがこの世界の常識』っていうのも君の考えだろう?」
「…………チッ、分かったよ、分かった。状況はきちんと理解したよ。だからその物騒な殺人兵器をしまえ。そしてこの能力とやらを解除しろ」
啓樹はにこりと笑って、仏典を閉じた。仏典は霧のようになって、体内に収まった。啓樹は床に腰にあった俺のお茶までも奪い取って飲み干し、
「よし。じゃあこれから君には自分に合った『骨董品』を探してもらう」
啓樹は再び現れた廊下へつながる扉を指差した。
「この家の中にあるものの中にはいたるところに『骨董品』がある。それを自由に探しまわって、自分に合った骨董品を探してくれ」
「注意点は何かあんのか?」
「注意点は一つだけ、自分の趣味に走っちゃだめだよ。これは自分の波長にあった物を探さなきゃいけない。君の主観を優先せずに、君の本能を優先するんだ。ま、自分に合ったものを見つけたら明らかに分かるから、大丈夫かな」
啓樹は湯呑を全てお盆に乗っけて持ち上げた。
「と言うわけで思う存分探してくれ。見つけたら、外に出てきてくれて構わないよ。僕は外で待ってるから」
それだけ言って、啓樹は廊下へ出て行った。