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Re: 巫女の少女と命使いと キャラ人気投票結果発表! ( No.84 )
日時: 2010/12/14 16:11
名前: 山口流 ◆v9R3ODctWg (ID: NhgkHXib)
参照: http://ameblo.jp/mekurumekunovel-blog/

「私の質問は『もしも生命力を分ける力があり、瀕死の人に会ったらどうするか?』だ」
「ファンタジックなお題だな。そんなのを聞いてどうするんだ?」
 命使いは自らの右手のひらをこちらに開いて向け、顔の前にやった。
「私の力は右手で触れたものへの、生命力の投与だ。人間に使えば傷は癒え、無機物に使えば命を吹き込む。本当に使いこなせる者にしか私はこの力を託す気は無い」
 なるほどね。お前は要するに俺を試しているわけだ。
 信用に足る人間なら快く譲渡してやる、だが信用できないと判断したら私が自ら出て行ってやると、そういうことね。面白い、やってやろうじゃないか。
 と、気合いを入れてみたはいいものの、これは考えてどうにかなる類のものではなく、結局は自分の本心を言うか、自分を偽るしかない。
 さあ、どうする。時間制限があるわけではないから、思案タイムはたっぷりある。偽りを言うか、本心を言うか。
「…………」
 命使いは無表情でこちらを見てくる。
 感情の起伏がなさそうで、でも引き込まれる真っ黒な目だ。その目は俺を凝視していた。まるで、俺の心を見透かしているかのように。
 ……俺の勘違いでしかないんだが、そう思うと、なんとなく気になる。風呂で背後に誰かいると思うと、途端に振り返りづらくなる、あれと同じだ。
 やっぱり変に気を衒うより、本心を言うのが一番だ。
 そもそもこれは俺とこいつとの勝負だ。俺以外の何かが勝っても、俺が勝ったことになるわけがないんだからな。
 俺は決心し、俺の考えをそのまま、全て、素直に吐露した。
「俺の考えは、『絶対にしない』だ」
「……ほう。気を衒おうとも衒わなくとも、その返答が来るとは思わなかったな。何故だ?」
 首をはねられることは無かった。
「理由は二つある。お前の能力の生命力の投与とやらは俺の生命力を使うわけだろ? その人が生きることができるだけ生命力を与えたら、今度は俺が瀕死の状態になるわけだ」
「そうだな」
 どうやら合っているらしい。
「なら、俺がその人を助けたら、その人の中にはおそらくこういう思いが芽生えるはずだ、『私のために一人の人間が死んでしまった』という思いが」
「…………」
 命使いは返事をしない。
「その人がそれをどう思うかは違うだろう。感謝したり、自らを蔑んだり、そうだな、様を見ろとか思うやつもいるかもしれん」
 ここ最近は女子からも男子らかも羨まれる人間が俺の周囲には多いからな。茜とか、啓樹とか、神之宮とか。
「だが、その人の人生には『人が一人死んだ』という気持ちが付きまとい続ける。そんなの嫌だろ? 自分が望んだわけでもなく、殺したわけでもないのに、自分の命が人を殺しているんだ。これでも、流石に殺人衝動まで発展させるようなことはしてないと自負できるからな」
 望んだわけじゃない、殺しもしていない、死んでほしいと思ったことはない。なのにその人が死んだ。どう感じるか。想像に難くない。
「なら、俺はその人に無駄な想いを背負わせたくない。これが第一の理由だ」
「……第二の理由とやらを言ってみろ」
 まだ首をはねられる事は無さそうだ。
「第二の理由は、俺がそんな事をしたくないからだ」
「…………」
「人間なんて、結局エゴイスティックの塊だ。欲求にも忠実だし、自らを犠牲にするなんてことはありえない。聖人君子でも食欲、睡眠欲、性欲という人間の三大欲求は存在するだろ。だから俺は、自らの命と引き換えに誰かを助けようなんて思わない。そんなことしたくもない。御免こうむる。それに、そんなのは結局自己満足だ。ある意味、最高のエゴだ。後に助けられた人がどんな気持ちで人生を歩んでいくかも知らずに助けて、本懐を遂げた気になるなんて、おこがましいにも程がある。自らを美化しすぎだ、自己陶酔だ」
 自己陶酔で相手を追いつめるなんてことはしたくない。
「助けたなら、最後の最後まで責任を持つ。そうしないといけないだろ? 自己陶酔で終わることはしない」

「困ったことに、俺は面倒くさがりだが、責任感だけは無駄にあるんだよ」

 命使いは「そうか」と目を伏せて呟いた。
「貴様の考えはそれでいいのか?」
「ああ」
 覚悟は決めた。これでどうなろうとも、それは俺の天命だ。俺は目を閉じた。

「合格だ」

「……は?」
「合格だと言っている。私はお前に素直に取り込まれてやる」
 命使いは俺の方に歩み寄り、左肩に右手を乗せてきた。
「先刻の発言に嘘偽りは無いな?」
「……ああ、一応な」
 命使いはだんだんと煙が消えるように気化して暗闇に混ざっていく。俺の意識はそれと比例するように薄れていく。
「偽りだったら貴様の命は無いと思え。私はいつでも貴様を見ているからな」
 ストーカーみたい事を言うやつだ。
「やはり、持ち主は変わらないという事か」
「は? 何を言って——」
 そういうと同時に命使いは消え、俺の意識は消し飛んだ。