コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

 2 * 異変の呼び声は甘く ‐ 01 ( No.17 )
日時: 2010/10/15 17:36
名前: 風無鳥 ◆aeqBHN6isk (ID: yjS9W/Zh)

◆ 2 異変の呼び声は甘く ‐ 01

 本日の学校というバカバカしいほど愉快で苦痛な時間が終了した。やったな、俺の中で大歓声が上がる。 けれど学校が終わっただけでは大歓声を上げるのは早かった。ぬか歓びっていうんだっけ。そう、今日は紫音と一緒に帰らなきゃいけない。——いや、逃げれば済むことなんだけどな? 
 なぜだろう、これは本当にわからないのだがこの時間だけは逃げてはいけない気がするんだなあ。謎だ。この謎を解いてくれる奴がいたら白空から貰ったチューインガムをくれてやる。
 それだけじゃダメか、と無意味な考え事をしているとぐいっと腕を掴まれた。

「玲ー、行くわよー」

 今日は偶然にも色々と猫を見れたからか(この学校には陽気な餌やりおばさんがいるので野良猫が多く生息する)、紫音の機嫌は良くなったみたいだ。ほっとする。
 まあ機嫌が良くても良くなくても俺にハリケーンカトリーナ並の迷惑がかかるのは脳内の裁判長が烙印を押したので決定事項だろうな。ああ、いつになったらこいつはまともな人に変わってくれるんだ。こんなに世界は広いのに、どうしてこいつを変えてくれる人がいないんだろう。

「ほら、早く! また猫ちゃんに会えるかもしれないでしょ!」
「は……そうかもな」

 そんっなに偶然が続くものかと一瞬思ったけど紫音はかなりの強運の持ち主。それも有り得るかもしれない。だけど俺は正直どうでもいいのだ。猫が愛らしいとは感じるけれどそのために下校をせかせかしたりするのは俺的にまったくもって無い。行くなら勝手にお前一人で行ってくれ、そう言って俺の襟首を掴んだ紫音の白い手を離そうとし。
 ……きらきらしたいつにもまして美少女オーラがでている紫音を見ると、なぜか口と手に止まれという命令がくだされてしまった。これは……、うんそうだ、バグだろうバグ。人間、バグぐらい起こすことあるさ。いや、むしろ人間バグだらけで生きているようなもんだ。
 そんな社会に対する論文を脳内で執筆していると、いつのまにか俺はまた引きずられていたようだ。勿論、襟首を引っ張られて。これ、地味に痛いぞ。

**

「あ、あ、あーっ!!」

 突然隣で高い声で叫ばれたため耳がびくっとし、おそるおそる紫音の方を見る。何があった。まあだいたい予想はつくけど。どうせ猫でもいたんだろ。

「ねえ玲、あの子よ、可愛い黒猫ちゃんよ!」

 ほらな、俺の予想は大当たり。だてに長年こいつと一緒にいるわけではない。だけどあまり当たってほしくなかった。なぜならそんな俺にとってはあまり関係ないことに気を取られたのがなんだか虚しいような気がするからだ。
 しっかし、あの黒猫といったらあの黒猫か? あの妙に頭に残ってた? ふうん、あいつが。

 ミャオ、とそれはまあ可愛らしい鳴き声をあげると紫音の足にちょっと紫がかった頭をすりすりする。うーん、愛くるしい動作だ。確かに猫は可愛い。紫音がネコバカになるのもよくわかる。俺もネコバカにはならなくてもそのうち紫音に影響を受け猫好きになってしまうのではないだろうか、という可愛さだ。

「やーん、すっごい良い子ー。女の子なのよね」
「ニャーオ」

 まるで二人(一人と一匹)は会話をしているようだ。って待て、紫音。

「どーして雌だってわかるんだよ」

 いや、まあこいつの答えは容易に想像できるが……。

「何言ってるの、普通見ればわかるわよ」

 わからないから、普通。お前の普通は普通じゃないから。お前のやることが常識にあっているとすれば俺が今まで築き上げてきた常識の城は砂の城のように虚しく崩れ落ちく。それだけは絶対に避けたい。
 そんなことをでれでれな紫音を観察しながら考えていると。


「——こんな奴がクレア様の僕」

 え、と紫音の顔を見てから辺りを見まわす。今声が聞こえたよな? 紫音もきょとんとしているからこいつのじゃないし。……気のせいか? ああ、気のせいだな。

「ルゥ、悲しいです」

 ……俺、耳大丈夫か。そういや最近耳鼻科とかに行ってないなあ、あそこのヒゲオヤジ元気かなあと思い返しながら今の声をもう一回確かめる。ルゥって誰だ、おい。
 視線。あれ、既視感。デジャヴュっていうんだっけか。とにかくどっかでこんな感覚、味わった気がする。つい最近。誰の、誰の視線? なんで?

「アホみたいな顔してクレア様の傍にいるとは」

 クレアって誰か知らんが俺をアホだといったのか? 誰だ。誰——、
 気がつけばさっきまで休むことなく聞こえていた猫の鳴き声が聞こえない。変な、静寂。……まさかな。
 俺はそう簡単に物事を信じられる性格じゃない。だから今目を移したのも、信じようとしているのではなく確かめるためだ。簡単な確かめ。そう、それにそんなことがこの世にあったらおかしいだろ。おかしいんだ。そんなん俺の辞書には載ってねーぞ!

 黒猫を見る。あの時と変わらない黄金色の瞳には俺が映っている。何も、何も変わってなんかない。
 そうどこか不安な自分に言い聞かせて、でも視線を外すことがなぜかできない。

「何がおかしいの、〝人間〟」

 猫の口が、その幼いような声と同時に動いた。