コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

 2 ‐ 02 ( No.23 )
日時: 2010/10/15 23:36
名前: 風無鳥 ◆aeqBHN6isk (ID: yjS9W/Zh)

◆ 2 ‐ 02

 声と同時に、猫の口が動く。つまりそれは、猫が喋った、ということか? ……ありえないな。ありえるわけがない。偶然に決まっている。猫が喋るという世界に俺は行った覚えなんてない。ここは俺が生活しているくだらない世界だ。この世界では猫が喋るということはありえないんだ。と、いうわけで今のは偶然、決定だ。
 と思ってたら紫音が目を今までより数百倍、眩しい宝石ほどにきらきらさせてきゃーきゃー騒いでいた。

「凄い! 玲、聞いた!? 今猫ちゃんが喋ってたわ! ねえ、玲!」

 信じるのかよ。
 おかしいな……紫音はこういうファンタジーなことは信じない性格だった気がするけれど……俺の記憶が間違っているのか、それとも紫音は猫が絡むと全てを信用してしまうのか。多分後者だな。

「んなわけねーだろ。偶然だよ偶然」
「偶然? 何をもって? どんな根拠があるっていうの?」
「常識的に」

 根拠はそれで充分だ。紫音だってわかってるはずだろ。いつもなら「はあ? 動物が喋った? 玲何言ってんのとうとう頭おかしくなっちゃった? さっさと病院行ってきなさいせめてもの情けでお金出してあげるから」とでも言いそうなのになあ。猫への情熱は認めるけれど、このままじゃ簡単に詐欺にあうんじゃ……それはなんとしてでも食い止めなければ。

「……常識常識って、あのねえ」

 すると紫音の表情が少し険しくなった。まるで今にも突っかかりそうな、それでいて——どこか悲しそうな、雰囲気。なんだよ、なんか文句あるかよ。妙に不安になって、その不安を吹き払うためにそう言おうとした時——、

「クレア様に手をだすな、アホ人間」

 視界の隅に何かが映ったかと思うと。
 顔面、ネコパンチ。……をなんとか避け、猫を睨む。何すんだこの野郎。
 というかちょっと待ってくれ、今の台詞的にやっぱりこいつが……違う違う違う、んなことあるわけない。そう言ったのは俺じゃないか。俺は自分の発言をそんな簡単に取り消すような奴じゃないんだ、これだけは断言できる。

「……鬼猫の攻撃をかわせるなんて結構すばしっこいんだね」

 でも、でもな、今目の前にいる猫から声がでているように俺の耳と脳は感じているんだ。
 どういうことだよ。なんだよ。ドッキリ? ああそうか、これドッキリか! へえよくやるな、だけど俺は騙さないからな。どうせそのへんにマイクとカメラがあるんだろ、よしそこだ!
 猫の首輪を掴——もうとすると俺の手は空気を掴んでいた。あれ、これヤバくね? 目の前にアスファルトが迫ってきている。……あ、つ、うぅ。

「人間のくせして鬼猫に手をだすなんて身の程知らずもすぎるよ」

 ちかちかする視界には、まっさらな青い空と心配そうに覗き込む紫音、そして見下しているような目つきで塀に乗っている黒猫が映っていた。誰かの声が頭の中でガンガンに響く。
 意識が、海にまっさかさ。



鬼猫とはなんなのでしょうかー。てとこですね。