コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

 3 ‐ 05 ( No.55 )
日時: 2010/11/12 18:09
名前: 風無鳥 ◆aeqBHN6isk (ID: yjS9W/Zh)

◆ 3 ‐ 05

 まだ生きていやがったのかよ。しつこい野郎だ。

 そんな苛々の募る思いが沸々と湧いてくる。
 紫音が熱をだしてまで使ったあんな魔法でも倒せなかった? なんでだよ。あの威力なら、倒せるとばかり思っていたのに……そういえば、ルーニャが何か言っていた気が。核、だっけ?
 ごちゃごちゃになってきた記憶の中を探ることに熱中していると、ある大変なことに気がついた。いや、気がついてしまった。

 紫音は今熱をだして倒れている。
 ルーニャは怪我をして倒れている。
 俺はまったくもって元気。 

 でも、俺には奴を倒せる力なんてない。

 ……さて、どうしようか。
 俺はどんなに力を込めても何もおきないし、やっぱり魔法みたいなものは使えない。俺は普通の人間のままだ。それに、チェーニの倒し方もよくわかっていない。これは……もしや絶体絶命と言うんじゃないか?
 チェーニの炎のような目がぼう、と赤く光った。俺に第六感が「来る」と伝えている。……逃げることはできる。俺一人、逃げることなら。でも——

 チェーニに殺されるより、二人を見捨てて生きる方が俺は絶対に嫌だ。

 だから、俺に出来る唯一のことをしよう。どうなるかなんて容易に想像はつく。俺はもっと普通の人生を最後まで送りたかったけど、今更取り返せやしない。それならもういいんだ。
 震えている体。心の奥底では俺は怯えていることがわかる。そんな体をなんとか動かして、紫音の前に立った。
 きっと奴は俺を切り裂いた後紫音のことも殺すだろう。それじゃ結局同じかもしれない。でも、俺にとっては全然違う。
 本当は気づいていた。俺は紫音がいたからこの生活を送れていた。うざったい、っていうのが嘘なわけじゃないけど、紫音が隣にいてくれることを望んでいた。それが当たり前だともどこかで思っていて。
 その〝当たり前〟はこんなにも簡単に崩れてしまう。運命ってよくわからないものだ。そう、よくわからないから、こんな俺だってこういうことできるんだ。

「……れ、い?」

 不安そうなか細い声が下から聞こえる。赤い瞳は、いつもとは違い簡単に涙を流していた。小さい口が震えながら、何かを必死に呟いている。
 こんな奴のために、俺らしくもないことするなんて——なんか、馬鹿みたいだな、俺。まあそんなことはまた今度考えればいい。死んだ、後で。
 未練がないわけない。俺だってもっと色々したかったけど。それは紫音がいなくちゃ何の意味も持たないんだ。

 チェーニが飛んだ。黒い物体が視界の中で大きくなってくる。
 おわりだ、な。







「……ばか、ばかあ」

 そんな声で、目が覚めた。