コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 3 ‐ 06 ( No.59 )
- 日時: 2010/11/26 21:55
- 名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)
- 参照: 改名。元風無鳥だったりします
◆ 3 ‐ 06
なにがあったのか。ここはどこなのか。今はいつなのか。俺は生きてるのか死んでるのかどうなってるのか。
霧の中に包まれたようなぼんやりとした頭に、そんな数々の疑問を与えたのは、紫音の声と顔。それと、ルーニャだった。
震えた声は、ずっと耳に残っているさっきの紫音の声よりもか細く、色々な感情が混ざっているのか、時々高くなったり低くなったりとにかく不安定で。林檎よりも赤く染まった頬と同じように、目も目元も赤かった。そんな、不安げに焦点が定まらない瞳からはさっきのようにぽろぽろと涙が零れ落ちている。時折俺の腕をその涙が湿らせた。
少し汚れた黒い毛並みから艶を取り戻そうとしてるのか、ルーニャは表情にこそ出ていないが必死に自分の体をなめている。黄金色のつりあがった瞳の陰には、怒りのようなものが潜んでいるようになんとなく感じた。
……で、ここどこなんだよ? あの世……とかだったらどうする。やっぱり俺の努力は虚しく終わったってことなのか。俺も紫音もルーニャも、死んじゃった、と?
まだ正常に働かない思考をなんとか覚めさせて、辺りを見回す。軽々とまではいかないが普通に動くことはできるようで、首を動かすのはなんなくできた。
俺の体が今ついているところ。……柔らかい? それに、体に染み込んでいるというか慣れているというか、ああそうだこれ——俺の部屋のベッド。ということは今体を横にしている状態なわけで、じゃなくて俺は生きているってことなのか。
生きてる。……どうも死んだ感じがしなかったわけだ。生きてるのか、よかった。でもなんで生きていられたんだ。俺は特に大怪我とかを負っているわけでもないし……紫音とルーニャを見ても、外見に大きな変化はない。……いや、紫音のあの〝悪魔の姫〟と呼ぶのが最も相応しい格好が、いつもの制服になっている。どういうことだろう。ああ頭がこんがらがってきた、だいたい情報量が少なすぎるだろ!
「紫音、これはいったい」
「!! ……玲? れい? れ……あーもーバカーっ!」
「な、ちょ、紫音何暴れてんだよ!」
ハッとしたように目を見開き、ゆっくりと瞬きをして俺を見、わなわなと桃色の唇を震わせると急に大声で叫びやがった紫音。
ビックリするじゃねぇか、と言いかけると紫音はぎゅっと俺の手を痛いほどに握りしめた。
「何やってんのよ……! 玲のくせに! 玲のくせに! 玲のくせに何やってんのよもー!!」
どうしたのかよくわからないが、混乱しているのか興奮しているのか紫音からは同じ言葉しか出てこない。とりあえず手を離してくれ。……と言おうと思ったが、なんとなく勿体ないような気がして脳はその命令を下さなかった。いや、俺じゃなく俺の脳がそうさせたんだからな。勿体ないと思ったのは俺の脳であって俺ではない……んだ。
「……紫音様を心配させるなんて、ほんっとに馬鹿だね」
幼い子供のような声。呆れたとでも言わんばかりに溜息を交えながら、ルーニャがこっちをじっと見た。
「ほんとならあんたはあそこで死んでたんだからね」
「じゃ、じゃあなんで今生きてるんだよ? この黒猫」
「ルゥは黒猫って名前じゃない。……別に、ルゥがなんとかあいつを倒したってだけだよ」
……え、たおした。とな?
なぜか視線を逸らして言うルーニャの言葉に戸惑いながら考える。倒した? それは倒せるだけの力がルーニャに残ってたってことなのか? な、なのに俺は……あんなことを……?
「倒せるぐらい元気だったんならそう言えよてめー!」
「無理やり力を振り絞ったんだよ馬鹿! あんたがあんなにも馬鹿なことするから!」
……なんというんだろう。まるで、頑張って良いことをしたのにたいして褒めてもらえず拗ねてしまった小さい子供のような表情をしている。ってことはなんだ。えーと……そうか。
「あー……ありがとな、ルーニャ」
「ふんっ、感謝の言葉ぐらいすぐでてくるようにしなよ」
なかなか機嫌が直りそうにもないようで。仕方ないから頭を下げてもまだルーニャはつーんとしている。何だ? これ以外にも原因があるのか?
真面目に感謝するべき相手でもあるんだし、機嫌は直してもらわないと困る。そういうわけでどうするべきかルーニャを見ていると、小さい口が小さく動いた。
- 3 ‐ 06 続き ( No.60 )
- 日時: 2010/11/26 21:55
- 名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)
「……悔しいけど、見直し……てやったからね。〝玲〟」
玲。
俺の名前なのに、いつも呼ばれているはずなのになぜかそれが新鮮に感じる。なぜだろう。なんで……。
数秒考えた末、結論に行き当たった。
ルーニャには、ずっと『アホ人間』とばかり呼ばれていた。本当に見下されていたのか定かではないが、少なくとも玲と名前で呼ばれたのはこれが初めてなんじゃないだろうか。……見直した、か。ルーニャの中で、昇格したってことかよ、ははっ。
「でも……でも、チェーニにやられてたじゃない。ルゥ、本当に大丈夫だったの?」
すると、もう涙が乾いた(単純な奴だ)紫音が心配そうに問いかけ。それに対しルーニャは、俺への態度とは違い満面の笑顔になった。
「はい! だって鬼猫はもともとちょっとやそっとじゃ死にませんし、ルゥの家系は代々王族ベルナール家の付き猫をしてきたんですよ? あれぐらいの傷、なめれば平気です。チェーニになんとか攻撃した時は、ちょっと痛みましたけど」
……というわりには、まだ腹の一部が腫れているような……だとは、さすがの俺でも言わない。
ルーニャの無理をしてでも紫音に心配をかけたくない、という気持ちはぶち壊すには勿体なさすぎるからな。
「そう? よかったあ、ルゥのこと本当に心配してたんだから」
「ルゥも、紫音様が一番大事ですよ」
俺の存在が無視されているような気がする。のは気のせいなんだろう、うんうん。さすがにそう信じないと俺は哀れすぎるじゃないか……。
まあ、こうして笑っていられるのだから改めて幸せだなあ、などと感慨に浸っていると、ルーニャがふと表情を変え、何かを考えるように瞳をきゅぅっと細くした。
「それに、なぜかあの時——、」
「え? どうしたのルゥ?」
「あっ、いえ、なんでもないです」
紫音が首を傾げ、びくっと一瞬毛を逆立てて不自然に首を横に振るルーニャ。……どうしたんだ? 明らかになにかがあるって顔だが……まあいいか、そんなのはあとで。
「な、とりあえず、今……もう夜だろ? 明日色々と話すことにして、今日は帰った方が良いんじゃないのか」
時計と窓の外から夜だとわかる。
ちなみに、この時は結構無意識に混乱していたのか全く気がつかなかったが、後から聞いたところによると、家族には「すっ転んで気絶した」などというよくわからない理由で説明したらしい。家に帰るまでは、ルゥの魔法でなんとか意識を取り戻した紫音が俺を背負って行った、と……。結構紫音にも感謝しなくちゃいけないな。
「ん、そうねー。あたしもまだわかんないことだらけだけど、それは明日ルゥに説明してもらいましょ!」
紫音も頷くと立ち上がり、ドアノブに手をかける。ルーニャは窓から帰るんだろう、と後ろを振り向くと案の定窓のところにいた。
何か考えているようだし、別にいいよな、と特に声はかけずに紫音と一階への階段を下りていく。
……なんだ、何か重要なことを忘れている気がするが……まあ、大丈夫だよな?
「あいつから、青い光がでてた気がするんだけどな……気のせいかな。それよりも、もっと大変なことが——」
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遅すぎる更新。本当にすみません!
ルゥがデレました。ふはははは。そして重要な問題とは……
皆さま、覚えておりますでしょうか? まだ、あの問題が残っているのですよ、ふはははは。