コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

 1 ‐ 05 ( No.8 )
日時: 2010/10/14 17:22
名前: 風無鳥 ◆aeqBHN6isk (ID: yjS9W/Zh)

◆ 1 ‐ 05

「ねえ聞いてよ玲! 昨日すっごい可愛い黒猫がいたのよ!」

 朝、いつもの曲がり角で待っていた俺に、喜々とした表情で紫音が最初に投げかけた言葉がそれだ。俺は色々な点で不思議に感じた。
 その一。偶然にも同じ猫が俺と紫音の前に現れたこと。「綺麗な金色の瞳で〜」とか横で言ってるから同じ猫だろう。
 その二。俺は可愛いというよりもどちらかといえばカッコいいと感じた。これはわりとどうでもいいことだな。
 その三。朝一番でいう言葉がそれだろうか。これはかなりどうでもいいことだが俺にとってはとても疑問に感じた点だ。

「ふうん、俺んとこにもその猫来たけどな。横切ってった」
「え、嘘っ、横切られるなんて羨ましい……。可愛かったでしょ?」

 予想通り羨ましいという答えが返ってくる。そしててれってれな表情で、ビデオのように早送りしたいほどどうでもいい猫話を機関銃のように凄い勢いで喋り始める。こうなるともう止まらない、気がする。

「……縁起悪いとはこれっぽっちも思ってねーんだよな」

 一人できゃあとかうふふとかよくわからん奇声を発しているので、聞こえないよな、と安心して呟いてみた。声に出したわけ? なんとなく。
 というのはまあどうでもいい。

「思うわけないでしょあんたホンット馬鹿ね」

 どうやら聞こえていたみたいだ。紫音の長く白い足が疾風ほどの速さで動いた一瞬のコマが俺の視界に飛び込んでくると、鈍い音と共に腹になんともいえない激痛が走った。

**

 学校に着き、教室に入ってクラスの連中と軽い挨拶を交わしてから自分の机に向かう。因みに非情に残念なことに、俺の前の席は紫音だった。つまり、一日中紫音と顔を突き合わせていることになる。まだイラついたような顔をしているこいつと一日中……。
 ああ、今日はストレスで大変なことになるだろう。具体的な例を挙げるとすれば宿題を放棄しゲームをやりまくるとか、姉への八つ当たりとか(大抵成功しない)、枕をサンドバックの代わりにするとか。
 しっかし腹の痛みが治まらない。痛みさん、早くどっかにいってください。消滅してください。二度と俺の体のチャイムを鳴らさないでください、鍵開けませんからね絶対。まあ痛みさんは鍵を簡単に開けて入ってくるんだけれども……うん、くだらない妄想をしすぎたな。
 どこか骨折してたらどうしてくれるんだ乱暴女め。いや、もうそろそろするな。これ以上ダメージが蓄積されたら本気で折れてしまうぞ俺の骨。お前の力に何度も何度も耐えられるほど屈強な骨と体じゃない。精神はだいぶ耐えられるようになったけど。しかしなんでどうでもいいような理由でいちいち俺を蹴るんだ……。パンチラを時々拝めるとかは内緒だ絶対に。

「猫のこと侮辱するとかあっりえない! 万死に値するわよ! ぜーったいあんた地獄に落ちるからね、いや、あたしが落としたげるわ」

 椅子に座ってぶつぶつぶつぶつと俺を貶しまくる紫音。座り方がさりげにお嬢様らしいのが妙に違和感を感じる。
 それにしても三十分も前のことだろ、本当に猫好きなんだなあ。……あれ? もう紫音の言っていることは俺への侮辱でしかない気がするけどこれは気のせいか? 気のせいと思いたい。
 うーん、それに人間の(そりゃあ俺と同じ人間とは思えない頭脳と身体能力を持ってはいるけど)紫音がどうやって俺を地獄に落とすっていうんだろう。そういう発言は悪魔になってからしよう。勿論悪魔になられてもされたくないけど。……あれ、こいつの性格はもう悪魔だよな……。

「違う、悪魔以上だ」
「なんか言った、玲」

 俺がそう呟いてしまった直後じろりと赤い瞳で睨まれた。素直に、怖い。紫音に睨まれると本気で動けなくなるんだよなあ。
 やっぱりこいつ正真正銘の悪魔かも。んなわけあっか。悪魔とかいうファンタズゥィックな生物はこの宇宙に存在しているわけがない。宇宙外には存在しているかもしれないけどそれは俺と関わることは絶対ないと決まっているのでどうでもいい。とにかく俺は悪魔とか天使とか妖精とか神とかそのへんのは全く信じていない。この世で生きていくためには自分を信じるのが一番だ。
 ではなく、待て待て待て待てもう一発とかやめろちょっと待て本気で折れる内臓潰れる待て待て待て待て待て待ておいおいおいおいおいおいお!

「い……」

 腹どころか急所にきそうだった蹴りはぴたりと止まった。
 そんな馬鹿な、俺から未知の光がッ……。
 なんてアホすぎることが起きるわけもない。どうやら紫音の猫センサー(俺命名、詳細は聞いちゃダメだ)が反応したみたいで、一瞬紫音の動きが全て静止すると反射神経のような速さで窓際に寄った。
 きらきらーっと、さっきまでのじとっとした目とは違い幸せいっぱいな目になっている。その目線の先には……小さくてよく見えないけど校庭に物体があるのはわかった。

「あああ、あの子ミルクちゃん! この前ミルクのこと撫でさせてもらったの。可愛かったのよ本当に! これまでで一番! まあ猫にどの子が一番いいかなんて順位をつけることはできないけど。でも「はいストップ」

 お前の猫話はもうこの一週間で四回ほど聞いた。聞き飽きた。だから、

「まずなんでこの三階から地面にいる小さい猫を判別できるのか話していただこうか」
「何言ってるの普通わかるわよ? 玲、眼鏡かけた方が良いんじゃない、その様子じゃ視力悪いでしょ」

 ……うん、どうやら紫音は猫のことになるといつも以上に神的な力を発揮するみたいだな。それはいいけど俺にその価値観を押し付けるのはやめて欲しい、いっておくけど俺の視力は両方1.5なんだぞ。

「……あ、そうだ、ミルクちゃんに夢中になって罰するの忘れてたわ。さっき何て言ったんだっけなあ」

 ちょ、待て。あどけない表情でそんなことを言うな。そうだった、こいつは記憶力もヤバかったんだ。くそっ瑞原玲絶体絶命のピンチ! もう体力は赤色だ、某人気RPGで例えれば。ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい。ちょ、こら……!

「ホームルーム始めっぞー」

 紫音の風を切る音はドアを乱暴に開けた音で遮られ。
 命の恩人、松田のゴリラ。いや、松田広茂大先生。……名前、広茂であってるっけ?



 だいたい2500文字か……。
 やっぱり担任はおじさんで。私のクラスもおじさんです。