コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Monochrome Wing ( No.58 )
- 日時: 2010/11/12 16:10
- 名前: 美純 ◆dWCUS.kIT. (ID: kQLROmjL)
- 参照: 握りしめた手をひらいても、刹那の幻だった。
▼015
「星也っ何で言ってくれなかったんだよっ!?」
「そうだよ、言ってくれたらお別れ会したのに」
放課後、案の定星也はクラスのほとんどに囲まれていた。皆、分かってない。星也はお別れムードになるのが嫌だから、言わなかったんだよ。
みんなの為であり、自分の為だったんだね。揺らがない決意を、いちいち引き留められたくないもんね。
「矢野。黒川のこと知って……?」
湯坂が隣から身を乗り出して聞いてきた。湯坂なりに心配、してくれてるのかな。
「んー、知らなかったけど、知ってた」
「なんじゃそりゃ、まあ矢野らしいけど」
引っ越すことは知ってたけど、夏休み中ってことは知らなかった。って意味なんだけど。
「単細胞バカには分かんなくていいし」
「うわウゼー。……まあ、お前の気持ちを知ったら俺がしんどいだけだし」
くったくなく笑う湯坂は、もう私が知ってる湯坂じゃない。多分、時間が彼を大人に変えたんだろう。
「ありがと」
聞こえないように、呟いた。きっと聞こえてるって信じて。
決意が固まっている星也の気持ちに押されたのか、「なんで?」っていう疑問の声はなくなった。代わりに「頑張れ」っていう激励の言葉に変わった。
頑張れ、ってもう星也は頑張ってると思うんだけど。そんなこと言ったら、同情だって言われるからやめとこ。
「何か、ね」
「……ん」
星也と帰れるのはこれが最後なんだと思うと寂しい。なんて私には言えないけど。
「色々話したいことはあるんだけど」
ありすぎて、思い浮かばない。変だけど、何から話せば後悔しないか、全然分からない。
「頑張れとか、応援してるとか言った方がいいんだろうけど。そんなの私っぽくないよね」
ただ、あなたが傍に居ることがこんなに大事だったなんて、知らなかったから。だからこんなにも、泣きそうになるのかな。
思うだけでこの気持ちが全部伝わるわけでもないのに。
「別に俺、帰ってこないわけじゃないんだけど」
「でも、気持ちに区切りを付けたいんでしょ」
まあな、と笑う星也の横顔が、たまらなく愛しくって。だけど、おいて行かれたって気持ちはもう微塵も感じない。
彼を追いかけるのではなく、前に歩き続ける。
抜かすのではなく、ただひたすらに未来だけを追う。
「星也。ありがと、またね」
もう、これ以上の言葉は要らない。
飾らない気持ちが、どれほどの思いを背負っているか知ってるから。
( ドレスや宝石などは要らない、其処にある素朴な石でいいの )