コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Monochrome Wing ( No.66 )
- 日時: 2010/11/12 20:34
- 名前: 美純 ◆dWCUS.kIT. (ID: kQLROmjL)
001
俺の恋は、一歩踏み出せばすぐに壊れてしまうような、そんな恋だった。
始まりは中一の春。
「やっべーっ、遅刻するっ!」
入学式だというのに目覚まし時計が鳴らなかったという運の無さ。くそっ、何でこんな時に……!
——ドンッ!
「きゃっ!」
「あ、ごめん……!」
滑り込みで正門を抜けてすぐに、横から歩いてきた女子とぶつかった。俺はふらついただけだったが、その女子はズサッと痛い音を立ててこけた。
「悪いっ。ほ、保健室っ……!」
痛そうに歯を食いしばっていた女子だったけど、俺が慌てているのを見てか、無理してにっと笑った。
「大丈夫っ、それよりあなたこそ遅刻するよ?」
「っだから、遅刻とかそういう問題じゃないだろ」
「でも、入学式」
なんて女、自分より人を優先するとか。
何でか知らないけど、ほんとに、何でか知らない。
「そんなもんいいからっ。行くぞ」
「えっ、ちょ、ちょっと!?」
——いつの間にか、女子を背負って保健室に走っていた。そして、
いつの間にか、女子……矢野白羽に恋をしていた。
「ん。タオル」
「ありがと、……えっと、あなたの名前は?」
素っ気なくタオルを渡すと、そう返された。俺の名前に興味湧く奴なんかいるんだ。名前知らなくても不便だしな。
「湯坂那岐。中一でクラスは……ヤべッ見てなかった」
「湯坂、ね。多分私と同じクラスだよ。しかも隣の席」
って何で知ってんだ? 隣の席だから調べたんだろうか。うん、その方が確率高そう。
「あんたは?」
「私? 矢野白羽。弓矢の矢と野原の野で矢野。白い羽で白羽」
矢野白羽。何かそのままだなって思った。そんなことを思った自分が恥ずかしくて、思わず
「あっそ。白羽とか似合わねーな」
……毒をはいていた。言ってしまってからはっとする。
小学校の頃、俺の毒舌で泣いてきた奴はいっぱいいた。いつも孤立してた。だからきっと、こいつも泣くんだろうな——?
「あっそ……って。あんたが聞いてきたんじゃない。て言うか、あんた結構毒舌ね」
けろっとした顔で言い返してきた。なんかつまんねー。でもこれ以上言ったらさすがに嫌われるからやめとこ。
——ガラッ
「白羽、怪我したって聞いたけど大丈夫か?」
「あ、星也っ!」
保健室に入ってきた男子を見るなり顔が明るくなった矢野。何だよ……ずいぶん態度違うじゃねーか?
心がモヤモヤしたけど、それよりまた毒をはきそうで怖かった。
って、何で怖がる必要があんだよ?
「あ、えーっと湯坂だっけ? 白羽を運んでくれてありがとな」
その星也という奴は、にっと笑って首の後ろに手をやった。何か、この笑顔どっかで見たことある……?
ああ、矢野に似てるんだ。
「いや、大丈夫。じゃ、俺帰るわ」
「あっ、湯坂ありがとっ」
バイバイ、と手を振る矢野に手を振りかえすことができなかった。どしたんだ俺、らしくない。
思ったよりも、顔が熱いのに気が付いたのはすぐ後の事だった。
……一目ぼれ?
( 何で君の傍に居るだけで、気持ちが揺れ動くんだろう )