コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 変人でっとひーとっ! ( No.1 )
日時: 2010/10/29 21:47
名前: 遮犬 (ID: cLZL9WsW)

(…どうする…!!)

非常に目の前にある扉に向かって悩み続けてる、少年。
ドアノブをさっきから握ったり、離したり、握ったり、離したりしている。
季節はまだ涼しい春だというのに何故か少年の顔は汗ばんでいた。

(どうする…! どうするんだ! 俺ぇえ!!)

ドアの上側にある表札に書かれた文字。明朝体でしっかりと書かれた文字は

【探偵部】

少年は大きく深呼吸する。落ち着け、そう自分に何度も言い聞かせる。
そして、いざ目の前の扉を開こうとしたその時

『おっそいっ!』

思い切りよく、後頭部をぶん殴られる。

「いっ…! な、何すんだよっ!」

出来るだけ小さい声で後ろに"浮いている美少女"に向けて叱った。

『遅いっ! 開けるなら開けろっ! てか、私の"本体"さっさと見つけなさいっ! 呪うわよ!?」

目の前で少年に向けてこれでもかと文句を言う、空中に浮いている少女。

そう、この少女は紛れもなく、幽体であった。

「今開けようとしただろうがっ! タイミングが悪いんだよっ!」

小さな声で叱り付けるも全く少女は余裕の表情をしながら

『ふんっ! あんたをこれまで守ってやってるのはどこの誰でしょうね?』

「くっ…! この性格の悪い"守護霊"め…!」

それもこの少女、ただの幽体ではなく、この少年の守護霊なのである。

「なんでこんなことに…」

ため息混じりに再びドアの方へと向き直る。後ろの方へまだ何かガヤガヤ聞こえるが気のせいだろう。
少年は、決心をつけて目の前の扉を開いた。

——にしても、なんでこんなことになったのだろうか。どうして俺の守護霊が美少女なのか。

もう一度よく、思い返した。それは遡ること、一昨日のことであった。




俺の名前は藤沢 新(ふじさわ あらた)。ごく一般の高校生である。
といっても、少し前に高校に入学したばかりの初々しい感じのする高校生。
まだ慣れない制服を着て、眠い目を擦りながらも一日を迎えることが日課みたいなもんだ。
それがごく普通だと思ってた。そのごく普通が目が覚めた時に始まるのだろうと。

だが、この日だけは違った。

聞き慣れているいつもの目覚まし時計が鳴り、いつものように体起こそうとする…ん?何か重い?
眠い目を擦ろうと手を目に持っていく…以前に、手が全く動かない。

(ちょっと待てよ…これって何か聞いたことあるな…)

まだ眠っている頭で状況を確認する。目は光の変わりようにまだ酔っていて視界はボヤけている。
そんな中、必死で思い当たろうと考えを交錯した結果。

(あぁ、そうそう。こういう動けない状態のことを、金縛りっていうんだったか)

——ん?待て待て、金縛り?自分が?今?

そんなはずない、そう思って眠い眼をゆっくりと開けたその先には

「…女の子?」

あ、なんだ。普通に喋れたんじゃないか。とか思う前にまず目の前の状況理解しようと頑張る。

目の前の光景は自分の丁度腹の辺りに可愛い目と顔をした女の子がまたがっていたのだった。

『…目が覚めた?』

可愛らしい声で俺に声をかけてくる。いやいや、なんで?
実のところかなりパニくっている。誰かこの状況を説明できないか?

目が覚めたら美少女がツンデレ顔で自分の腹の上にまたがって自分の顔を覗き込んでいる。

…シャレにならん。ていうか…腹だけにのっかってるだけなのになんで手足も動かない?

「あの…どちら様ですか?」

『…は? なんて?』

「いや、だから…どちら様ですか——ぶへっ!!」

いきなり殴られた。それもグーで思い切り。何か俺、悪いことしたか?

「な、何すんだよっ!」

『何言ってるか聞こえないのよっ!』

あぁ、多分まだ鳴りっぱなしの目覚まし時計のせいでしょうね。手足が動かないのでどうにもならない。

『あんた(ジリリリリ)よく落ち着いてられるわね? (ジリリリリ)今あんた、金縛りに…(ジリリリリ)

 あぁもううるさいっ!! 静かにしろっ!』

すごい勢いで少女は俺の愛用の目覚まし時計をチョップした。
壊す気か、俺の目覚めのために5年は働いてきたこの目覚まし時計を。

「…ていうか、手足が動かないってのはどういうこった? 病気か?」

俺がいくら頑張ろうとも手足は言うことを聞いてくれない。
そんな俺に余裕の表情で少女は

「だからいったでしょ? 私が金縛りかけてるんだから動けないに決まってるわよ」

当たり前のように金縛りを貴方にかけましたっていう幽霊がどこにいる。
それに、幽霊じゃないだろ。物や俺に触れていられるんだから。

「…じゃあ言うが、金縛りをといてくれないか? もう飯の時間なんだ」

時刻はいつも自分が眠たい目を擦りながらも慣れない制服を着て一階に降りている時刻。

『はぁ? 何様のつもり? アンタを今まで守ってやってるのは誰のおかげだと思ってんの?」

「…何いってんだ、お前——ぶはっ!」

また殴られた。てかかなり痛い。女子の筋力じゃねぇ…。

『いい? 私はあんたを守ってる守護霊! 今まで守ってやってたんだからツケを返しなさい!』

「…いやだから、わけがわからな——ひぶふっ!」

ちょ、こいつ。ますます力を入れてきてやがるっ!

『とにかく、一つ約束するならこの金縛り、解いてやってもいいわよ?』

そんなことよりまずこの上からどいてくれ、といいたいところだったがまた殴られそうなのでやめておく。
代わりにその約束を聞くことにした。

「約束? 何のだよ」

すると少女は余裕の笑みを浮かべ、かなりムカつく表情でこう言い放った。


『私の本体を探しなさい』


「…は?」



目覚めた時、この美少女守護霊と出会ってしまったこの瞬間から

俺の平穏だと思われた日常は非日常へと変わってしまったのだった。