コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 夜憑物語 − よるのつきものがたり ( No.1 )
- 日時: 2010/10/31 16:46
- 名前: 玖夙友 ◆LuGctVj/.U (ID: Omw3dN6g)
0.
そこは電気屋だかスーパーマーケットだかの、やけに広い駐車場。
電気屋だかスーパーマーケットから離れているせいか、車が止まってるとこを俺は見たことがない。
けど、黒い馬鹿がいるとこなら何度も見てる。正直呆れるくらいに。
そして、これはその黒い馬鹿に馬鹿と言われた、嫌なできごとだ——。
「いやぁー、キミは馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど、まさかここまで馬鹿だとはねぇ」
妖怪風情が偉そうに……。
俺は睨みつけたが、そいつは動じずに自らの拳ほどはあろうシュークリームを丸呑みした。
「ま、契約は契約だ。ちゃんと代償も支払ったし、ま今回はオッケーということにしてやる。——ところでシンジくん」
「なんだよ?」
「キミにアスカ、またはレイなんて名前の友達いない?」
「いねえよ」
——俺、冬郷深染(ふゆさとしんじ)は妖怪の知り合いがいる。
その妖怪の名はトモキ。出会い頭「おれっちは本を食べたりする妖怪じゃねえからな」というわけのわからない自己紹介をしてきた変態……の妖怪だ。
これは俺の自論だったんだが、妖怪ってのは実態のないものだと思ってた。壁すり抜けられたりしそうだと思ったから。あ、いやそれは幽霊なのか?
とりあえず、この自称トモキなる妖怪には実態がある。そしてケーキとかシュークリームとか、チョコレートとかクッキーとか飴とか菓子パンとか、とりあえず甘いものが好きらしい。それらを食う。——ということで、実態があると仮定した。……たまにわけなくぶん殴ってくるし。
そんなことより、さて先ほど俺が食わしてやったシュークリーム。あれは餌付かせてるわけではない……といえなくもない。
妖怪——トモキは大抵のことは知っている。自称情報屋、とのこと。その内新宿や池袋にも行ってみたいとかほざいていたか。
まあ、さっきのシュークリームは、そのための情報料というか、とりあえずそんなものだ。
その他いろいろと元ネタがあるらしいことが好きで、要するにオタク。
オタク妖怪。
汗をかかないのか、汚れないのか、もともと変わらないようになっているのか、いっつも黒いパーカーに黒いズボン、黒い靴に黒いイヤフォンで大抵アニメソングを聴いている。
ほんでもって、いつぞやヘンテコパワーに目覚める寸前のやつを失神させて「おれっちが主人公だぜいぇい」などとふざけたこと抜かすアホだ。
日々チート的なことに関してだけ、頼ってる俺の言えたことじゃないが。
「——んで、何が知りたいんだっけ? シンさんや」
と、ここでトモキがシリアスムードで話しかけてきた。
俺は即座に、こんなやつにシュークリーム代五百円を費やした目的を思い出す。
「……鎖野、鎖野巧夢(さのたくむ)についてだ。血液型とか年齢とか性格とかは省いて、できるだけ詳しく。つか、最近のやつの変化について、だ」
「別にいいけど……そいつ男、だよね? まさか、シンさんそっち系に目覚めたりとか……。ちょっと三十光年くらい離れて」
「別の星に移住しろってか!?」
「ジョークジョーク、いくらカミサマでもホモとかゲイは怖いのさ」
……妖怪の分際で偏見や差別をするか。色眼鏡野郎ならともかく、意外だな。
つか、妖怪のくせに神だと? 図々しいにもほどがあるぜ、全く。
「えと、サノタクムね。……サノタムク……サノタムク……」
途中からサノタクムざなくてサノタムクになっとる……。
トモキは宙を見ながら、まるで俺には見えてない何かを見るようにその言葉を繰り返した。
「あ、シンさんと同じ学校に通ってるやつだね。最近小遣いが入ってぽいよ?」
「そんなこたぁどうだっていいんだよ!? 小遣い? 知るか! なんでそんなことを確認するために妖怪に頼んなきゃいけねーんだよ!?」
「え? だって好きな人の——なことに——で——をしたとこを——するために情報料払ってくれる人いるよ? キミより付き合い長くてね、常連てやつ?」
「どーでもいいわ! つか何? 他にもてめえみたいな妖怪に頼るアホがいるってか? お笑い種だな、クソッ」
「お笑い種なら笑いなよ」
「死ね」
「無理」
まあ冗談はそこら辺に置いといて、と妖怪が手で制す。
「——鎖野巧夢、キミのいっこ下でガンオタ。背が低めで詩的なこと言うがいつも的外れて変わってる。妹がいて——そして、よくコミケとか行ってる」
「うんそれで?」
それがどうかしたのかこの妖怪……ッ!?
俺は肉親を殺した仇でもあるみたいにトモキを睨む。
「で、多分こっからがキミの知りたいことだと思う。——そして、これはキミは知らなくていい事実だと思う」
どうする、聞いちゃうかい深染くん?
妖怪はニヤけつつ尋ねる。詐欺師でも相手にしてるほどの危ない綱渡り気分だ。
——知らなくていい事実。
大人の詭弁。
隠したい何か。
嘘を口にしない騙し。
私はあなたのことを思って言ってるのよ、みたいな?
そーかいそーかい——ふざけるな。
知らなくていい事実なんてのは、知って後悔してから理解するんだよ。——それが、悲しいことだってな。
俺は決心して、言った。
「シュークリーム返せ……」
「やだ。——ってゆうことは知りたいわけね、別に構わないよ」
気持ち悪いほどにっこりと、妖怪は笑った。
「彼、鎖野くんはね——」
「契約違反者だ」
別にお金関係のことじゃないけどね、と妖怪がこれ見よがしにニヤついた——。