コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 妖怪とチョコレート オリキャラ募集中!! ( No.11 )
- 日時: 2010/10/31 16:43
- 名前: 玖夙友 ◆LuGctVj/.U (ID: Omw3dN6g)
* * *
「あー、クソッ、どうすりゃいいんだよ……」
俺は呟いて、そして背後の視線に気づいた。
視線を感じる、というのは普通に人にとっては錯覚に他ならないし、気配を感じるというのは結局は微妙に伝わる空気の揺れや聴覚で捕らえた音などからわかるもので、感じるという曖昧な言葉は適していない。
しかし、俺の場合は特殊なので、そういう『感じる』などといった、第六感が備わっている。
だから、背後の気配の——その異様さには心底身震いした。
足が竦み、振り返ることが怖くなる。
あいつ——妖怪が本気で起こったときもこんな感じだったか。
苦痛を予想した恐怖でなく、もっと別な、全てを台無しにされた後で縋るものを一つ残らず消されそうな、そんなわけのわからない怖さだ。
それがいま、俺の背後にいる。
「……」
「……!! き、キミ、もしかして……」
話しかけられた。
まずい、どうする俺!?
この「気」は常人のものでないことは確かだ。
万が一にも安いラノベみたいななんちゃってバトルに巻き込まれたらただじゃすまない。生憎と俺はまだ特殊能力に目覚めてないんだ。
……まずい、この状況はかなりまずい。
「猫耳大好きファンクラブの——」
「違ぇよッ!!」
振り向く。
「……人の話は最後まで聞くものだよ、キミ」
「絶っ対に違ぇよ、俺チャイナドレス萌えなんだよ!! チャイナドレスに猫耳なんて装飾物ぁいらねえ! チャイナドレスこそ、身体のラインが浮き出る女性の着物だ。貧乳だろうが巨乳だろうがそのよさを存分に引き立ててくれる——」
「……そうか、それはよかったな」
あ……。
振り向くと、そこにいたのは少女だった。
おかっぱ頭で、健康そうな肌色。
清楚な佇まいで、どことなく可愛らしい印象を受ける。
顔には無表情というか、そんな気持ちの篭ってない無愛想な感じがあり、かつやはりこの異様な「気」はこの少女から発せられていることを実感させられる。
いや、そんなことはさして気にかける必要はないんだ。
重要視すべき部分は、他にある。
——どうして、髪の毛が紫色なのか、ということだ。
落ち着け……。
俺もあんまトモキとか妖怪に詳しいわけじゃないんだ。髪の毛が紫色の妖怪だっていてもいいんじゃね? つかこんなに可愛いんだから別にいんじゃね?
……つか、こういうことって本人にとってはコンプレックスなんじゃないだろうか。
髪の毛が紫色。
どういった経由でそうなったのかは皆目見当がつかない。色素の問題でそうなったのならある種の病気とも考えられるが、そんな突拍子もないことがあるものだろうか。
アニメなどではそういった不可解なところは普通に素通りしているが、本人にとってはやはり、辛いことなのだろうか。
周りと違う。
浮く。
端に追いやられる。
そういったことは、なかったのだろうか。
——いや、そんなことはいま、どうでもいいはずだ。
詮索するのは勝手だが、勝手な妄想は気に障るというもの。
「まあ、俺がチャイナドレス好きなのは置いといてだな……」
「……その通り。ワタシはそんなことのためにキミに会いに来たわけじゃない——
——ワタシは小山餡子(こやまあんこ)。
よければ、しばらくワタシと付き合ってくれ。
鎖野巧夢を、助けたいんだろう?」
……。
……はい?
* * *
今日ほど、俺は安いラノベみたくおかしなことを言われたことはなかった。
妖怪と話すのはとても奇怪だし謎だけど、それでも十分、俺の中では日常の一つといえる。
しかしまあ、このとき俺はもう既に感付いていたわけだ。
いままでの十七年間全部が、きっと「これからある一件」のプロローグ、序章ともいえる長ったらしい前置きだったということに。
さて。
何やら、とても面倒なことになりそうだ——。