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Re: 妖怪 と チョコレート ( No.15 )
日時: 2010/12/23 21:00
名前: 玖夙友 ◆LuGctVj/.U (ID: Omw3dN6g)

   *  *  *

 ——どういうことだ……?
 少年、東伊織(あずまいおり)は首を傾げた。
 学校中の皆の目が、据わっている。
 一点を見つめたまま視線が動かない、それが何人も何人も。おぞましいと形容して誰が否定できようか。
 廊下を行く生徒たちの誰一人として、“正常”と言えそうな者はいなかった。
 様子が変といえばそうだが——
「な、なあ、どうした?」
 同級生に話しかけても「……もうすぐ終わる」などと呟くだけ。
 洗脳されたような人々に、伊織はある種の恐怖を抱いていた。
 高慢で怠慢。
 極度のゲーム好き。
 そして普通に人見知り。
 探せば、似たのような人間なぞ五万といよう、そういう人種。
 憎めない顔つき、ということだけでなんとかクラスでは孤立せずにすみ、一応礼儀などには気をつけているせいか特に教師たちに目をつけられることはなかった。
 だからこそ、集団行動から抜け出したいま、どうすればいいのかわからない。
 そんなときだった。
「おーい、お前か? その、アズマとか言うのは」
「……あー」
 背後から声。
 何やら“まだまとも”な人に絡まれたようである。
 伊織は心中で「めんどくさいな」と悪態を吐きつつ、初対面ではあまり不快にさせない、いわゆる営業スマイルで振り返った。
「はい、そうですけど何か?」
「えぁ、いや何かっつか、お前の知り合いのサトウだかヤマダだかスズキだか、そんなやつにな、お前が俺に会いたい、とか言ってな……もわけわかんね」
「それはこっちもですよ」
 サトウ? ヤマダ? スズキ? そんなどこにいても全然不思議じゃない名前を挙げられてもな……。
 伊織はわけがわからなかった。
 目の前の人——上履きを見るとどうやら上級生のようである——は中肉中背、いや背は少しばかり高いようである。
 顔はどことなく柔和な印象を受けるが、表情で焦りが覗えた。
「だったら別にいいんだ。じゃな——」
 そう言って、その人は駆け足でどこかへ行ってしまった。


 さて。
 しばらくして昼休みも終わり、午後の授業が始まった。
 そして、教室はどうにも——
 伊織以外、世界の終わりと言わんばかりに目が据わっていた。

 ——なんだ、これ……。

 首の備え付けヘッドフォンからは、兄に貸してもらった某ゲームのファミコン音源曲がむなしく鳴っていた。