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- Re: 夜憑物語 − よるのつきものがたり ( No.6 )
- 日時: 2010/11/08 20:30
- 名前: 玖夙友 ◆LuGctVj/.U (ID: Omw3dN6g)
* * *
——ま、鎖野くん救いたいならいろいろガンバレ。
——このままだと可愛い後輩クンが特殊能力に目覚めてモテモテになっちゃうぞ。
妖怪はそう言って姿を消した。
「いろいろガンバレ、って言われてもなあ……」
精霊……だなんて、現実味のないこと言われてもピンと来ない。
それって要するになんだよ? 俺に特殊能力でもあったら倒せるわけ?
結局シュークリームを食わせてやったのは無駄だった。
が、鎖野がおかしいという決定的な確信には繋がる——
そもそもの理由は、鎖野巧夢(あいつ)が急に変なことをし始めたことだった。
『ブツブツブツブツ…………』
チビ。
どんなやつかと聞かれて二文字で答えるならチビなやつ。
それが鎖野、鎖野巧夢(さのたくむ)というやつである。
『……あー、なんで「ブツブツ」って言ってんの?』
『ブツブツブ——』
『無視かオイ!』
なんか怖い顔してブツブツ……いや「つぶつぶ」って言ってるのか? 果肉入りジュースとかそんな感じだし……
——て、それはないな。うん。
鎖野と俺は同じ高校に通う、いわゆる先輩と後輩という仲だ。
別に、部活は同じじゃないし家が近いなんてこともない。言うなれば、全くと言っていいほど、疎遠でいい関係だった。
高校生活二年目の俺にとって、中学生で培って来た人当たりの良さは伊達じゃない。学年はおろか、先輩後輩にだって数十人の知り合いがいるのだ。
それも、変にコミニュティなんか築いていない、あくまで浅い友人関係。
これほど動き易い立ち居地を築くのにさして苦労はしないというのだから、持って生まれたのは四肢や臓器等だけでなく、いわゆるカリスマ性ってやつもと言っていいだろう。
自慢? 違ぇな。
これが俺だ。
嫌いなものをブチ壊したくなったり——
人を殺すことに官能的な快楽を覚えたり——
甘いものが異様に好きだったり——
寝言をほざいて後悔したり——
虐めになんの疑問も抱かず勝手な正義で人を困らせたり——
他人の理屈なんてどうでもいいからと自分の屁理屈で耳を塞いだり——
卑屈で自虐なことに気づけず他人の普通さに負けていると思い込んだり——
自分の世界こそが正しいのだと決めつけたり——
現実にはありえないからこれは冗談だと言わんばかりにふざけたり——
どうせ、自分なんてその程度なんだと見切りをつけたり、要するに諦めを覚えたり。
そんな知り合いがいて、いや他人がいて自分が変じゃないなんてのは、実におかしい。
醜い面してるから嫌われる、なんてのは人当たりの悪いやつの言いわけだ。
最低で最悪なやつどもはいつものうのうと、いけしゃしゃあと正義を語るのよ。
俺にも自分のルールがある。
必要最低限、他人に合わせたり、いい高校行くためにセンコーにはできるだけ媚売ったり。
……つか、こんな伊達酔狂語りがしたいんじゃなかった。
鎖野とは、観てるアニメが同じで意気投合、といった感じだ。
それ以上でもそれ以下でもない。その程度の関係。
で、鎖野がブツブツと変な呪文の詠唱でもしていて、いい加減それなんなんだと身体を揺さぶると——
『ブッツ……ブツ! ブツブツブツブツ! ブツブツ!? ブツ、ブーツブツブッ!!』
『ぶ、打つ!? つか日本語ちゃんと言えよ!? なぁ?』
何が言いたいのかわからないけど、まあ怒られました。
それから、同じ高校に通ってるやつらに俺まで変な目で見られ、一部、何があったのか不審に思われたか鎖野と同じ一年生が俺に話しかけてきた。
確かいつぞや知り合った、なんとかイズナとか言うやつ。
爽やかな笑みでも浮かべられればそこそこ持てそうな顔をしているが、そいつは恐ろしいほど感情の篭ってない無愛想面だった。
しかし、その声色からは、どこか鎖野を心配しているよう感じがした。
イズナくんは、この鎖野と友達なんだろうか。
『えと、鎖野ぉなんかあったんですか?』
『いや、わかんねえ。ただブツブツと——』
『ブツブツ、ブ——ッ!!」
かめはめはぁー、とでも言わんばかりに叫ぶや、鎖野は手からビーム的なものを放射し、イズナくんにそれを当てた。
まず、ビーム的レーザー的それが日常の、そんじょそこらにいそうなチビから出たのも意外だが——
それを、心配してくれてるイズナくんに当てるとは、その神経を疑いたくなる。
イズナくんは五メートル近く吹っ飛ばされ、何があったのかわからなそうに目をパチクリさせた。
『え? え? ……えぇぇぇえええええええッ!?』
『さ、鎖野てめえ何やってんだよッ!?』
イズナくん友達じゃないの!?
いや、こいつからイズナくんとの仲を聞いたわけじゃないから、本当はいがみ合ってて、イズナくんが嫌味で心配している素振りをしてないとも言えないが……
だからといって、『波』を出すって、どうよ?
『そうか鎖野。お前、そうだったんだな……』
イズナくんは立ち上がってどこか残念そうに俯いた。
どうなんだ? 一体何がどうなんだ? 何これバトルファンタジー?
そう言いたい気分だったが、言える空気ではなかった。
イズナくんはそっと、デコピンでもするような手を前に向けた。
『残念だぜ、鎖野……』
『いや何が!?』
こんどはちゃんと言えた。
『喰らえ、必殺——』
『無視かよ!? つうか必殺って「必ず」「殺す」だよな!? 何知り合いにんなもんぶっ放そうとしてんだよ!?』
『必殺ッ! 「未定」!』
……なんて名前の必殺技だ。
イズナくんは言いつつ、構えたデコピンするような手の中指を弾くように打ち出した。
もっとも、鎖野とイズナくんとの距離は五メートル以上あるので、イズナくんの指が届くはずもなく——
『ツトぅ————————ッ!?』
つ、つとぅ……?
振り向くと、鎖野が数十メートル吹っ飛ぶのが数秒拝めた。
後々も、鎖野がヘンテコにわけのわからないことをしたりと、妖怪に失神させてほしいくらいに変なことをしたあたりで——
ようやく、俺は本気で気づいたんだ。
……鎖野、なんかおかしくないか? って。