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Re: 氷の中の花 ( No.19 )
日時: 2010/11/08 18:35
名前: 九龍 ◆vBcX/EH4b2 (ID: N7y5mtYW)

私の、いいところ?

下校するときにルシファーが私に言った言葉が、ぐるぐると頭の中で回る。
なんなんだろう、私のいいところって。
他の人とは違うのは、いいことなの?

そう思いながら、あいていた窓を閉めて、カーテンも閉める。
そして、布団にもぐりこみ、ゆっくり目を閉じた。


「悠佳」

私に、誰かが話しかける。
ゆっくりと目を開けると、体が凍えるように寒くなっているのに気がついた。
そして、目の前に広がる光景は、いつもと同じ凍った世界。
そして、私の隣には、ルシファーが座っている。

足の感覚が失われかけている。
そのことに気がつき、足元を見ると、私の足の下に見たこともない花の花びらが落ちていた。
黒く、まん丸の、なんだか悲しさを感じさせる花弁。
そして、ルシファーの足元には、色とりどりのうろこをもった魚がいた。
だが、その魚は動かない。沈みもしない。
どうやら、私は凍った湖にあしをつけているようだ。

手元には、凍った黒い花がある。
花弁は、足元にある物と同じようで、茎は細く短い。
この花は凍ってはいないが、何故か悲しさを感じさせる花だ。

「悠佳、寒くはないか? お前がここにきて、しばらく眠っている間に、お前の体は相当冷えているはずだぞ」

ルシファーがそう言って、私の手に手を重ねた。
ルシファーの手は、意外と温かかった。
こんなところにいるくらいだから、凍っていると思えるくらいに冷たいと思っていたのだが、全然冷たさを感じない。
いや、私の体温が下がっているだけなのだろうか。

「ここに来たとして、現実に影響するようなことは起きないが……。毛布はいるか?」
「うん」

私がそう言うと、ルシファーはベージュの毛布を渡してきた。
私はその毛布をはおり、手に息を吹きかけた。

「悠佳、お前は笑えるか?」

ルシファーが、唐突にそう聞いてきた。

「笑える、と思うよ。私、中学校に入学してから、笑ったことないけど」

私がそう言うと、ルシファーは少しだけ考え込む。
私は笑うのが苦手だ。
中学生に入学してから、笑顔なんて作れなくなっていたんだもの。

「お前は人間を無意識に拒絶している。その気持ちは相手にも伝わり、相手もお前を拒絶する」

ルシファーはそう言いながら、何も見えない真っ黒な空を見る。
私が人間を拒絶しているのは、私も解っていた。
虐められてから、自分を虐める人が信じられなくなっていて、他の人も信じられそうになくて。
だから、自分から人を避けていた。

「とりあえず、今のお前に必要なのは、挨拶と笑顔だな」
「あいさつと、笑顔?」

ルシファーの言葉を聞き、私は首を傾げた。
ルシファーはゆっくりうなずき、話を続けた。

「とりあえず、お前から人に近づくんだ。話はそれからだな。それに、お前は人に笑顔を見せない。笑顔は人間の武器とも言ってもいいものだからな」

ルシファーがそう言って、私に微笑みかけた。
私は戸惑いながらも、ルシファーの事を見つめ、考えた。
私は、こんなにきれいに笑えない。笑顔なんて、作ったものしか作れない。
でも、作ったものでもいいなら。

そう思いながら、私はルシファーに微笑んだ。
ルシファーはそれを見て、目を細める。

「よし、笑顔は合格としよう。次は挨拶だな。とりあえず、明日の間に十人の生徒に挨拶をしてこい。話はそれからだ」

ルシファーがそう言って、空を見上げた。


目を開けると、朝だった。
目覚まし時計の高く五月蠅い音が耳に入る。私は目覚まし時計を止めて、カーテンを開けた。
温かい朝日をいっぱいに浴びて、私は微笑んだ。

今日は、私が一歩踏み出してみよう。