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- Re: 、 マリオネット 【短編集】 ( No.11 )
- 日時: 2011/04/03 11:17
- 名前: そらね ◆ZPJ6YbExoo (ID: n6vtxjnq)
- 参照: そらね、必死に活動中、
▼さよならの種類
ガラリ、と横にドアをスライドするとそこには真っ白な世界であった。クリーム色のカーテンが風で揺れていた。私は病室の中で四つに区切られた中の一つの部屋、カーテンを掴み、横に引っ張った。カーテンは引っかかることも無く、スライドしてゆき、一つのベットに棚、小さな冷蔵庫にテレビが見えた。ベッドの上には顔立ちの良い一人の少女が寝ていた。そっと近づくと小さな寝息が聞こえて安心感がどっと溢れる。真っ白な陶器のような肌で死んでいるかと思ったからだ。俺はベッドの横にあった椅子に座り、暫くその少女の寝顔を伺っていた。そして、立ち上がり棚の上に先程花屋で買った一本の向日葵をそっと置くと、ベッドの上に寝ていた少女はゆっくりとまぶたを開いた。
「 ・・・・学? 」
人の気配を感じたのか、彼女は俺の名前を小さな声で呟いた。俺はあぁ、と応えると少女は小さな溜め息を吐いた。何だろうと様子を伺っていると、少女はばっと勢いよく起き上がった。俺は驚愕の表情をすると同時にどっと冷や汗が流れた。彼女は病人であんな風に、勢いよく起き上がって良いものなのだろうか、と心配になり、病室では大きな声を出してはいけないが思わず叫んでしまう。
「 紫苑! 」
すると、彼女は驚いたように体をビクッと震わせた。彼女は何よと小さく呟いて唇を尖らせていた。俺は彼女に駆け寄る形で近寄った。今にも心臓が爆発しそうな勢いだった。心拍数が落ち着く何処ろから高くなってゆく、俺は取り乱したようになっていた。彼女はそんな俺を見て、ほんの少しだけ寂しそうな表情をした、気がした。
「 そんな風にしたら駄目だろ! 」
俺がそんな風に怒鳴り気味で言うと彼女はぷいとそっぽを向いた。普段なら小動物らしくて可愛いなと思う所だが彼女は今、病気であってとても危ない状況である。そんな状況で変に苦しむ形は俺には耐えられなかった。俺は少女をもういちど、ベッドの寝込ませようとすると、彼女は以前見たときよりも格段に細くやせ細った短く小さな腕と手で弱弱しく俺を叩いた。
「 やめてよ 」
掠れた声だった。今にも消えてしまいそうな掠れ声に、俺は一瞬恐怖を覚えた。もう彼女は長くないと告げられた気がして。それでも、彼女は平常心を保って俺を冷たい視線で見つめていた。彼女の体と病気の深刻さは彼女自身が一番知っているはずだが、俺の為にか彼女はその表情を一つも変えなかった。それが何とも情けなくて涙があふれそうだった。
「 なあにしらけてんのよ 」
彼女はそう吐き捨てると俺の心配する意味が分かったのか、ベッドに寝転がりふんと鼻を鳴らした。俺はその光景にどこか安心し、溜め息を吐いた。暫く沈黙の時間が続き、先に口を開いたのは彼女だった。それは、何しに来たの、ということだった。お見舞いと言う意外にあまり大きな選択は内容に感じながらも俺はそっと呟いた。遊びに来ただけだ、とそういうと仄かに彼女の耳が桃色に染まっていた。熱でもあるのかと近づくと彼女はその気配に気付いたのか、近づくなっと言われた。それから彼女は阿呆らしい、と呟いていた。俺はその日常的な会話にただ黙って目の前の少女に、微笑みかけることしか出来ない無力さを感じさせられた。
「 なあ紫苑。今日何の日か知ってるか 」
そう尋ねるとパジャマ姿の少女は知らないとだけ消えそうな掠れ声で呟いた。俺は少し残念に思ったが、彼女はその俺の表情に気付かないだろう。俺はそっと携帯のtop画面のカレンダーを見てから間を空けてこう言った。
「 俺らが付き合ってから2ヶ月ってこと 」
そう伝えると彼女の体がここ一番にびくりと大きく震えた、その後もずっと彼女の体は、小刻みに揺れ続けている。暫し沈黙の空気が流れる。彼女からの返事は止まって俺もいうことも無く、椅子に座って彼女を見つめ続けていた。それから、数十分経ったであろうか。彼女の体の震えが止まった。俺はその様子に気付いただけで何もいわなかった。それからまた暫しの沈黙。先ほどまでクリーム色だったカーテンは俄かに夕焼け色を含み始めていた。すると、彼女が唐突に口を開いた。
「 何よそれ・・・2ヶ月とかちっぽけな数字じゃなくてもっと、一年とかになってから、言いなさいよ 」
声は掠れて涙声だった。聞き取りづらかったが、聞こえた部分をすべて俺の心に染み付かせる。それから俺は黙って少しばかり俯いた。結構長いと思った自分は馬鹿らしい。彼女に答えを返そうと、辛くてもそうだな、と小さく呟くと不意にパンフレットの様なものが顔面を直撃する。何だあ?と間抜けな声を出すと彼女の方からくすくすと笑い声が聞こえた。俺はほっとして安堵のため息をすると彼女俺の方を振り向いていて、とても愉しそうな表情をしていた。
「 それね、看護婦さんに貰ったの。いいでしょう? 」
俺はそれを聞いて投げ出された神をじっと見つめると、とある遊園地のパンフレットだった。開かれていたページは、丁度アトラクションの所。小さな写真に短いコメントが書かれていて、そこには赤いペンに丸印がされている。丸印のされているのはメリーゴーランドにジェットコースター。お化け屋敷にゴーカート。一番大きく丸印をつけられ【最後!】と書かれていたのは観覧車だった。一周10分程度と言う短い時間にも丸がついていた。そして、俺はそれをみてかあっと顔が赤くなるのが分かった。紫苑はそれに気付いたのか、ニヤニヤと面白そうな笑みをしている。それから。
「 病気、治ったらそこで遊ぶから、学も付き合ってよ 」
とびきりの笑顔を見てきた。その笑顔に押し負けるように承知する俺につまらなそうな表情をする彼女。何だと聞いてみると彼女は指きりげんまんだと怒鳴る様にいって小指を差し出してきた。今時、中学生がそんなことするかよ、と呟くと彼女はそこにあった、飲み終わった天然水のペットボトルが、見事に俺の額に命中した。痛さはほんの少しで元気そうな彼女をみたら、とても愉しく胸が躍っている。完全に俺は彼女にほの字だなとしみじみ思った。それから、俺も小指を差し出すと彼女と指きりげんまんをした。少女と少年は互いに微笑みあって、微笑みあって微笑みあった。そしてその一時は流れ、俺はふと時計を見ると6時だった。家からここに自転車でおよそ1時間。ここも早くに消灯してしまうのでこれ以上残っても、病院と彼女の迷惑になるだろうと俺は考え、彼女にもう帰るよと呟いた。その時、彼女の露骨に嫌がる表情を俺は見ていなかった。そっとカーテンを開けて振り返り彼女に微笑むと、彼女は冷たい視線でいた。安堵の溜め息を吐きながらカーテンを閉める直前で彼女は、何か呟いていた。
「 さようなら、学 」
彼女の掠れていた声に俺は気付くことなく病室を去った。その後に彼女が息を殺して涙を流していたのに、俺は気付かなかった。俺は最低だ。彼女のさよならをちゃんと聞いてやれなかった。さよならの種類をちゃんと知っていなかった。
( 俺はただ、顔の上に白い布が乗っている彼女の冷たい体を見つめて、涙を零す )