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- Re: 、 マリオネット 【短編集】 ( No.19 )
- 日時: 2011/04/03 12:05
- 名前: そらね ◆ZPJ6YbExoo (ID: n6vtxjnq)
▼ 真っ赤なスイカ
——ミーンミンミンミン。
ああ、なんて鬱陶しい鳴き声だろう。私はそう考えたあと、苛立ち雑じりに溜め息を吐いた。
そして、ふっと気紛れに家の花壇に咲くヒマワリの方を向いてみると、蝉の羽根が転がっていた。私はうえっ、と舌を出して、気持ち悪がった。
だから、この季節は大嫌いなのだ。暑苦しいし、蒸し暑いし、すっきりすることなんて数少ない。
プールは別だ、楽しいし清々しい、でも日焼けの痕がとっても嫌。海だって、日焼けもしょっぱい潮が大の苦手。
「憂鬱だなあ」と私は唇を尖らせて、ふんっと鼻を鳴らす。
私は縁側で足をぶらつかせて、手で団扇代わりをしてパタパタと扇ぐ。
雀の涙ほどした届かない風、それも生暖かくて気持ち悪い。私はぶすりと頬を膨らませる。
足を振り上げて、履いていたビーチサンダルを庭に放り出した。
ぽすっと軟質な音が投げた先から聞こえた。つまらない、とばかりに私は肩をくすめる。
すると、奥からガチャリとかぎの開く音が聞こえて、ふっと振り向く。でも、此処からは玄関は見えない。
誰か、出かけていただろうか。弟は夏休みだからと。
溜まったゲームをあさってプレイしている筈なので、部屋に閉じこもっているはず。
父は未だに寝てる、もう正午だというのにだ。すると、4人家族である我が家に残るのは母だ。
私はおかえり、とポツリと呟いた後、振り向いて庭を見つめた。
庭の端っこに佇む向日葵の黄色い色が輝いて見えた。
「ただいま……ああ、家の中暑いわね」
疲れ気味な母の声が、家の奥から聞こえてきた。私は、興味の失せたように足をぶらつかせる。
じりじりと照り焼ける日差しに対して、頬を擽るようなくらいの微風に、私は酷く苛立ちを覚える。
ばたり、と後ろに倒れる。ちょっぴり、床が冷たいような気もする。
私は思い切り背伸びをして、だる気に溜め息を吐いた。嗚呼、夏なんて終わっちゃえばいいのにな。
「幸乃」
「なあに、母さん」
私は振り返りもせず、足をぶらつかせてだる気に答えておく。
どうせ母さんの言うことは、スーパーの野菜が高いんだとかの愚痴が4割を占めて、あとは世間話が6割を占めている。
「今朝ねえ」
この始まり方は、世間話の可能性、大。
「お隣さんに、小ぶりなスイカ貰ったの。食べきれないからって、冷やして置いたけど、食べる?」
「……スイカ」
ばっと振り向くと、微笑む母の姿。蝉の鳴き声が夏の正午に響き渡る。
シャク、と一口齧り付いただけで、どこか爽快な音が聞こえ、苛立だっていた私は消えてしまっていた。
瑞々しい真っ赤なスイカに、私は頬を緩ませてもう一口、齧り付いた。種が数個、口の中にある。
ぷっと一つ種を吐いてみてから、ふっとにやけて次は何個かぷっと吐いてみて、『 タネマシンガン! 』と呟いた。
もういちど、真っ赤な真っ赤なスイカに齧り付いた。前言撤回、夏はいいものである。
( かと言って、食べ終わった後は憂鬱なのだ。……私って現金? )