コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re:   、 マリオネット  【短編集】 ( No.37 )
日時: 2010/12/17 21:10
名前: そらね ◆ZPJ6YbExoo (ID: Ot.qag7u)
参照:  小説が、3000文字しか入らないのが苦しい…超えるのに…苦しい


 ▼ 俺という存在 

 ただ、ただただ、ぼんやりと。歩いていたのだ。
 放課後、南校舎3階廊下。夕暮れの日差しがキラキラと光って見えたり、鋭いくらいに眩かったり。そんなどこにでもあるような放課後。部活は、部長に早退しますと言って抜けてきた後、学校の校門を抜けた辺りの時、俺は忘れ物をした事に気付いて、教室へと戻ろうとしていた。
 6時間の授業に疲れたように、重たい足をのっそりのっそりと動かして、俺は教室へ向かう。今日も、何も無い一日だった。
 ふと、窓の外をみると沈みかけの濃厚な色の夕日。オレンジジュースを何倍にも濃くした色だと、ふと考え、その味は強烈に酸っぱいんだろうなと考えて、一人苦笑する。ただ、そんな事をしていても少しばかり虚しいと思い、さっさと取りに行って引き上げようと考えた。
 すぐに、教室の前に辿り着いた。もともと、気付いた時が早かったのだ。でも、部活の時間が始まったからか、教室からは物音や声さえ聞こえない。教室にただ一人か、と悪くないなと思いつつ、俺はがらりと教室のドアを開けた。
 すぐさま、廊下側の自分の席に行って忘れ物である、音も無くペンケースを机の中から取り出してバックに入れようとした。その時、ふと俺の鼓膜を揺らした音があった。
 それは、人の泣き声だった。幼げの残る少女の泣く声。教室の端っこから聞こえた。俺は、ホラー小説によくある場面に出くわしたのかとばかりに、声のする方を見つめた。自分の顔は見えないけど、血の気を失って蒼白であろうと分かる。恐怖に奥歯がカチカチと鳴る。
 俺は恐る恐る、その声の持ち主に近寄った。ふと視界に入ったのは、ゆったりとした烏羽色のショートヘアだった。ショートヘアの少女は教室の端っこに蹲って、息を殺して泣いていた。幽霊じゃない…。
 そう分かった後、ふと俺の脳裏を過ぎったのは同じクラスで烏羽色のショートヘアの少女の姿だった。知っている、俺はこの人物を知っている——。俺は、震えた声で名前を呼ぶ。俺が知っている名前を。
 烏羽色のショートヘアをしていて、幼げの残る声をしている。俺の幼馴染の名前を。

「 とう…か?…桃花だよ、な? 」
「 ——え? 」

 唐突に名前を呼ばれ、驚く少女の顔を見て、俺はその少女より驚愕の表情を浮かべたことだろう。頬には大粒の涙が伝っていたのだから。俺は思わず息を呑み込んだ。目の前で泣いているのは、俺がよく知っている桃花だったから。
 でも、それとは少し違う。俺の知っている桃花は、気が強くて我侭で手を終えない奴だったけど、時より優しい奴だった。明るくて皆を引っ張っていくリーダーシップがあって、クラスの人気者。そんな幼馴染に昔から俺も好意を、ずっとずっと抱いていた。でも、彼女には彼氏がいたのだ。
 彼女が彼氏を語る瞳は輝いていたのだから。彼女はその男を誰よりも慕って、憧れていたのだろうと伺えていた。自分から告白したとの噂も一時期立っていたのだから。明るい性格の彼女。どこか乱暴だけど優しい幼馴染の姿はいなかった。
 すると、彼女は俺を虚ろな瞳で捉え、きゅっとまぶたを閉じた後、抱きついてきた。かあっと体中が熱くなった。心中で、やっぱり諦め切れなかったんだという考えが浮かんで、俺も涙を零しそうになる。
 俺は自分でも驚くくらい震えた声で、彼女に問い掛けた。

「 何があったんだ? 」

 彼女は何にも言わず、ただ俺の抱きついていた。彼女の長いまつげに涙の粒がたまっていた。

「 ……振られ、ちゃったの 」
「 ——え? 」

少女の形いい唇から洩れた、声は酷く掠れていた。彼女の声と言葉に俺は自分の耳を疑う。

「 大好きだったのに、振られちゃったの…大好きなあまりね、毎日一緒に帰ろうって言って、手を繋いでキスをして…求めて… 」

 俺は絶句しながらも、俺は彼女の話を聞いていた。キスしたんだ、と傷口を深める一方、俺は何を話したら良いのか分からなかった。でも、分かれたということに俺はどこか安心感と嬉しさの気持ちがあった。

「 鬱陶しい、てさ。恋していて、苦しかったり悲しかったりするのに耐えたのに。終わっちゃった・・・辛かったのにな、凄く。頑張ったのにな・・・ 」

 彼女は全部を言い切った後、ぼろぼろ大粒の涙を零した。俺はまだ絶句していた。それから、やっと慰めの言葉を見つけて、言おうとした。まだ、俺が居るよ、俺が守ってやるよ。そういおうとした次の瞬間。
 彼女はただ悲しそうな瞳で、ぼそりと呟いた。それは、俺にとってあまりにも残酷で、全て崩壊させてしまう一言を。

「 こんなに苦しいなら、〝もう二度と恋なんてしない〟 」

 俺は彼女の言い放った言葉を聞いて、絶句して何もいえなかった。俺の中には彼女が居て。でも、彼女の中に、元彼がいる。ただ俺の一方通行の恋は、永遠に閉ざされてしまったのだ。好きだとも何も言えず。
 その場には時というものが流れていく。俺とっては、ただ残酷に。

  ( 彼女の中に、俺という存在は居ないのだ。 )