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Re:   、 マリオネット  【短編集】 ( No.38 )
日時: 2010/12/18 11:11
名前: そらね ◆ZPJ6YbExoo (ID: B/p47WjD)
参照:  小説が、3000文字しか入らないのが苦しい…超えるのに…苦しい


 ▼ 瞳を閉じてしまったよ 


真っ白な壁が、吐き気を催した総合病院の一室で僕は、ポツリと一人で過ごしていた。少しの風で揺れるカーテンは夕日の色を帯びてオレンジ色だった。そしてもう一つ、白くなかったのは目の前のテーブルの上には、昼食。味の薄い味噌汁に、おかゆのようなどろどろと、煮詰めたような気持ち悪い食感のご飯。こちらもまたどろどろに煮込んだ煮物。じゃが芋がベタベタとした食感で吐き気のするものだった。僕はやる気の失せたようにごろりとベッドに寝転ぶ。硬いベットに身を沈めると僕は一つ溜め息を吐いた。嫌だ、もうこんな生活。柔らかい枕に顔を埋める。こんな真っ白な場所なんてもう見たくないよ。ぎゅっと拳を握り締める。・・生きる意味って僕にあるの?すると、音も無くドアは横にスライドされた。ごくりと僕は唾を飲んだ。きっと看護婦さんだ、また僕がご飯食べてないからって僕のほっぺた突付いて怒るんだ。きゅっと枕を握り、下唇を噛む。全然力が入らないのに。コツン、と靴の音。それが聞こえるたびにびくっと震える僕の肩。足音が消えた。僕は薄々と気がついた、看護婦さんじゃないの?振り向こうとした時、聞こえた綺麗な声が耳に通った。

「 こんにちわ!智くん、お土産持って来たよ 」

その声につられる様に僕はゆっくりと振り向くと、黒い濃厚な髪の毛が魅力的なセミロングの髪を揺らした少女がいた。見覚えのある幼さが残る顔立ちに、僕は瞳を揺らしてその少女のほうに体を向ける。

「 緑お姉ちゃん?緑お姉ちゃんなんだよね!? 」

僕がそう問い掛ける少女はうんっと微笑みながら頷いた。

「 久しぶりだね、智くん。えぇっと、二年ぶりだね 」

えへへ、と笑い出す少女の名は、山戸緑。僕の従姉弟。優しくて暖かくて、いつも頭を撫でてくれた。お姉ちゃんみたいな人。大好きだった。大好きだった。年頃は、僕より3歳はうえで、ついこの前。僕の母から中学1年生になったと聞いていた。よく話には聞いていたのだが、実際見るとよく見ると美人にだ。黒い髪は艶々していて、柔らかく。睫毛はうっとりするほど、綺麗だった。瞳もくりくりとしていて、特徴的だった。2年ぶりに会ったからか、より美しさが際立っていた。学校の帰りなのか制服だった。紺色のスカートに赤いネクタイが彼女ににあっていたが、ただ僕はこの一室と同じ真っ白なワイシャツだけは、あまり好きにはなれなかった。僕が彼女に見つめていると、彼女はそれに気付いたのか、頬を紅潮させていた。そうして、スカートの裾をいそいそと弄くっていた。これが彼女の照れているという仕草だった。その仕草さえも昔のままで、何一つ変わらなかった。僕は安心したように安堵の溜め息を短く吐いて、彼女をにこやかに迎えた。

「 久しぶりだね。そうだ、お土産って何? 」
「 うん、智くんの好きなカスタードプリン!コンビニのだけどね・・あ。カスタードプリン食べても平気?病院からなんか言われない? 」
「 ヘーキ平気・・・ばれなきゃ良いんだって 」

そうかなあと言って口元に微笑を浮かべる少女を僕は見つめていた。元気そうで良いなあ。僕も緑お姉ちゃんみたいに体が強かった良かったのに。僕は生まれつき体が弱かった。だからすぐに病気になった。確か、6歳くらいだから一度も小学校に入った事無い。もう体力も衰えてる。今こうして元気に喋っているのも、緑お姉ちゃんに心配させないためだ。先程もご飯を食べたくないのは味やいや以前に、もう食べたいと思えなくなったから。食欲と言うものを忘れたかのように。気付いてる。自分の体がボロボロになっていくことくらい、毎日見てても分かるんだ自分の腕が細くなっていって、血管がみるみる浮き上がってきていることくらい。久しぶりにもあり、心配させないようもあり。大きな声で喋っていると喉が裂けそうなくらい痛さが走る。すると、彼女はテーブルのほうに視線を変えた。見ているのは一つも口につけていない昼食。ぼくはそれをみて、はっとする。いけない、心配かけちゃだめだよ!彼女はどこか瞳を震わせて僕に問い掛けた。

「 ・・・智くん?どしたの、ご飯一つも口につけてないけれど 」
「 あ、え・・と。い、今さっきご飯届いたからさ。ま、まだ口つけてないんだ。だからその。今から食べるよ 」

嘘を付いた。それは本当はもう1時間も放っといていたご飯なんだ。看護婦さんが取りに来るけれど、僕は食べるの遅くしているから取りに来るのは検温の時なんだ。でも、食欲が湧かない、食欲を忘れちゃったんだよ僕。もうかれこれ、朝から何一つ食べてない。昨日は食べれたんだ。無理でも3口くらい。でも、今日はスプーンを持てる力こそ湧かない。彼女は酷く心配そうな表情を浮かべて僕に問う。

「 ・・本当に?嘘でしょ?だってこのご飯。表面が乾燥してるよ 」
「 っ!! 」 

僕は何もいえなかった。ただ俯いて彼女を心配させないように、言い訳を必死に探す。血の気が引いた。その様子に薄々時がついてきた彼女はゆっくりと微笑んだ後、何かを悟ったように、ベットのそばに置かれている椅子に腰を降ろして、ゆっくりと僕の頭を撫でてくれた。昔のように優しく撫でてくれた。なでてもらえることが何より嬉しくて、幸せだったあの頃の記憶を頭に浮かべて、僕はぽたりと涙を零す。僕はただ彼女を見つめて、ごめんねと掠れた声で呟くと彼女は撫でていた手をびくんと震わせてから止めて、ベットの毛布に顔を埋めて、体を震わせていた。泣いてるの?と僕が聞くと彼女は何も答えなかった。僕は震える少女を見つめてそっと細くて折れそうな腕を精一杯動かして、逆に彼女の頭を撫でた。柔らかく艶やかな黒髪を僕は撫でてからぱたりと力を無くし、腕をベットの上に落とした。もう力は入らない。彼女はふっと顔をあげた。彼女の頬を伝う涙を見て、僕は泣かないでと消えてしまいそうな声で呟いた。彼女はぼろぼろと涙を流しながら僕の小さくて細い腕をつかむ。そうして、また頭を撫でてくれた。嗚呼、彼女のおかげで幸せだ。懐かしい優しさと暖かさに包まれて、僕は彼女に縋る様にゆっくりと瞼を閉じた。


  ( ああ、瞳を閉じてしまったよ )


      ⇒END