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コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 、 マリオネット 【短編集】 ( No.52 )
- 日時: 2011/03/25 18:27
- 名前: そらね ◆ZPJ6YbExoo (ID: qlgcjWKG)
- 参照: もと侑子です。
/ 愛をください
「愛をください」
それは、彼の口癖だった。
出逢ってから、彼が自殺をして命を落とすまで。
私が彼の口から、よく聞いた言葉だった。
彼のお葬式に、彼の両親は来なかった。死んでなど、いないのに。
彼は幼い頃から両親に、虐待を受けていたと聞いていたし、疑問は抱かなかった。
ただ、馬鹿らしいとだけ、思ったものだ。
彼と私の関係は、同じ大学の先輩後輩だった。
趣味や感じ方が似ていて、話の会う相手だった。
お茶をしたりしたものだが、決して仲などよくは無かった。
相対する、考え方も、あったのだから。
私は葬式にも出向き、遺体の入った棺をじっと眺めた。
幸い、まだ蓋を占めていなかったから、彼の姿は見えた。
皺を寄せて、苦しそうな表情のまま、彼は死んでいた。
苦しかったから、自殺したのに、気持ちは晴れぬまま。
愛と縁がなかったから?馬鹿らしい。
私は、唇を噛みながら、彼を見つめる。
「……馬鹿だなあ」
愛なんて、形も無いのに、本当かなんて、分からないのに。
私は、彼の痛いのはいった棺を指先でなぞった。
愛なんてなくたって。人は生きていけるのにね。
それでも、彼は愛が欲しかったのかな。
愛に恵まれて、愛されて死にたかったのかな。
少しの時が経ち、彼の棺の中に花が添えられる。
色取り取りの美しい花の中、彼は眠っている。
それが、私が最後に見た、彼の姿だった。
涙を流す、親族達。ぼうっと立ち尽くす私。
最後に棺が運ばれる姿を、私はただ眺め。
視界から消えると、その場を去った。
(愛される幸福が、痛いほど分かる)
@END
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ハイパー短編。気紛れ降下。
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