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- Re: 、 マリオネット 【短編集】 ( No.9 )
- 日時: 2011/04/03 11:16
- 名前: そらね ◆ZPJ6YbExoo (ID: n6vtxjnq)
- 参照: そらね、必死に活動中、
▼ 記憶喪失
叶わない恋だって分かってるから、貴方と貴方への思いを忘れたくて。でも、忘れられなくて。
私はただ記憶喪失を望んだ、のにな。何だかその先が、同じ道を辿る気がしたんだ。
——
私には、どうしても諦め切れない恋があった。
それは、失恋だって知っているのにどうしても、貴方と一緒に歩いていたいとか笑いたいとかそんな感情が溢れてくる。
そんな思い、溢れてくるだけ無駄なのにな。
かたん、と靴箱の中に外履きを入れて、上履きを取り出そうとするとき、ふと人の影が視界の中に入ってきた。
私は誰だろうと左を見ると、あどけない横顔の貴方がいた。
「おはよ、青沢」
優しく微笑んでくる、貴方を私は見つめてただ制服のスカートの裾を掴んで、
どこか苦しくも嬉しいと思った笑顔を作り出して、笑う。
「おはよう。間野くん」
私の好きな人で、とても親近感のあるクラスメイトの間野くんだ。
私がそう返すと、くりくりとした女の子っぽい、彼の黒い瞳が揺らぐ。
その瞳を見つめていると、私はほんの少しずつ、胸の鼓動が早くなることを感じて、
彼から視線を外して、上履きを靴箱から取り出した。
「今日は確か、理科の小テストだよな、嫌になるよな」
露骨に嫌そうな表情をする彼を見て、私はくすりと笑った後そうだねと呟いた。
彼は唸りながら靴箱に外履きを入れて上履きを取り出した後、
ぽんと手を叩いて、理科の時限の前に早退しようかなと呟いていた。
その言葉を聞いて、どこかドクンと跳ねる心臓。
早退なんかして、欲しくないと思い少しばかり俯いていると。
彼は、きょとんとした表情で私の頭に掌を乗せていった。
早くなる鼓動を感じて、私はぎゅっと瞼を閉じた。
「俺ピンピンしてて、保健の先生に仮病でしょって毎回言われるのな。まぁ、そうなんだけどさ」
私は愛想笑いをしながら、やっぱり駄目だよ、と彼に言いつけた。
それを聞いてどこか落ち着く私がいるが私はどうしても許せなかった。
私が俯きかけるその時、背後からおはよう、と高い声が響いた。
私の知っている声で、多分、一番嫌いな声で、人。ゆっくり振り向くと、黄色の髪に黄色の瞳の少女。
私は控え目に手を振っていると、隣で笑っていた彼は瞳を輝かせてどこか嬉しそうに彼女に近づいていく。
私の鼓動は冷めたように働く。彼は彼女のことが好きなのだ、そう川崎さんの事が。
私は二人が仲良く話している光景を見るのが嫌で、その場を立ち去った。
「あ、おはよう。間野くん」
「はよ!川崎」
楽しそうな声が背後から聞こえる。
私はそんな声をただの音楽として聞き流して歩き始める。
こんな事なら、こんなに苦しむなら諦めたいのに、諦められないんだ。忘れたいのに、忘れられないんだ。
こんなに哀しくなるなら、彼に恋心をいたか無ければよかったのにな。
そんなことを考えつつ、私は階段のぼり、教室を目指した。
今、記憶喪失になれるのなら、どれだけ私は救われるのかな、楽になれるのかな。
貴方を思う気持ちを全て消してリセットして。また新しい恋をしたい。
分かってる、自分が傷つかないように逃げてるってことも。それでも、私は記憶喪失して、忘れたいな。
教室のある階数の階段を上り終えて、私は溜め息を吐く。
でも、何となく記憶喪失したってすると思う行動がある。
もしかしたら、また貴方に惹かれて恋をするんだろうって、どこか薄っすらと感じているんだ。
( それでも、やっぱり記憶喪失したいな )
→End