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Re: 私達の図書館紛争 ( No.1 )
日時: 2010/12/17 18:21
名前: 九龍 ◆vBcX/EH4b2 (ID: nE04Zw/f)

寒い、寒い。手が、麻痺しそうだ。

これも、私、いや、僕の日常なんだろうな。
そう思いながら、小さくため息をつくと、あぁ、その息さえも白い。
そういえば、昨日は雪が降った。
そして、僕は仕事と宿題のことで、疲労がたまっている。
あぁ、昨日、ガンコナーさんと一緒に本を読んでいたのが悪かったかな。
僕はそう思いながら、苦笑した。

「……おや、クロウじゃないか」
「おや、じゃないんですよ。誰のために僕が来たか、考えたことってあります?」

僕がそう聞くと、黒いマントで身を包んだ男性は、喉を震わせて笑った。
その男性の嘲笑が、あまりにも鮮明に、頭に浮かぶものだから。
とても、気分が悪くなってしまって。
いや、『男性』というより、『館長』としてみているから、気分が悪くなるのかもしれない。
……こんな人が館長なんて、僕は絶対認めない。

「それは、俺に対する皮肉かな?」
「さぁ? 僕は知りませんよ。自分で考えなさい」
「君はいつも、そればっかりだ。ねぇ、クロウ?」

あぁ、そうですね。と、僕は本棚の本を一冊取り、どうでもいいように答えた。
館長がこんな人なんて、絶対認めたくない。
毎日毎日、シルクハットで顔も隠してるし、白い手袋はめてて、時々マントの下が見えたと思ったら、タキシード来てるし。
まず、その場相応の服装というものを教えないと、この人はだめらしい。
……前に抗議した時は、拗ねてパーカー着てきたけど。
それでも、マントだけは外そうとしないこの人は、どうかしてる。

「ほんと、貴方は館長には向いてませんよ……」

僕がわざと館長に聞こえるよう、そうつぶやくと、館長は口元を押さえる。
その手の下には、いつもの余裕の表情。そして、人を馬鹿にしたような笑い。
『笑う』事は出来るのに、『微笑み』なんて優しいものは見せてくれない。それがあなただ。

「それは、僕のことが嫌い、ということかい?」
「おや、そういうふうに聞こえました?」

僕が館長と一度も目を合わせずにそう言うんだから、館長も少しの間、口を閉じた。

静かな、図書館。聞こえるのは、僕が本を動かす音だけ。

「あのですね」

僕は声に笑いを含み、館長の名を呼ぶ。
館長は、自分の名前を呼ばれたことに驚いたのか、少しだけ顔を上げた。
一瞬だけ、目が合った気がした。

「あのですね、僕は……」





笑いを含んだその声は、その明るい声とは裏腹に。


僕にとって、そして、誰にとっても、最も残酷な言葉を発する。


『僕、あなたのことが、出会ったときから大嫌いだったのかもしれません』