コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 私達の図書館紛争 ( No.2 )
日時: 2010/12/17 21:29
名前: 九龍 ◆vBcX/EH4b2 (ID: QB.PitpG)

重い。腹辺りが、とても重い。
そう思っていると、何か甘い香りが鼻をついた。
なんだか、いつもこの香りと同じようなものを嗅いでいるような気がするが……。
なんだか、嫌な汗が頬を伝った。
俺は気のせいだと願いながらも、ゆっくり目を開けた。

すると、俺の目に映ったのは、黒のパジャマを着たクロウ。
クロウの髪の色と、着ているパジャマが夜闇に溶け込んでいるようで、あまりよく見えない。
だが、足元を見ると、俺の腹辺りに、クロウがまたがっているのが見える。
あぁ、そう言うことか。


クロウは、寝相が悪い。
まぁ、普段は普通としか言いようがないのだが、時々、寒い冬であるというのに、目を覚ますと布団をはいでいる、ということがしばしばある。


今回も、そのパターンだ。まぁ、それよりだいぶ悪化しているが。
仕事をしていたら、疲れた、眠い、などというから、俺の部屋にあるいくつかのベッドの一つを貸してやったのはいいが、まさか、俺の腹に馬乗りになるなんてことは、考えもしなかった。
ここまで寝相が悪い人は、そういやしないだろう。


「館長ー」

クロウが、なんともふわふわとした声で、俺を呼んだ。
なんだか、その声にとても寒気を覚えた。
その時、クロウが俺の顔のすぐ横にフォークを振りおろす。
冷や汗が、どっとあふれる。クロウはにこにこと笑いながら、フォークを抜いては、俺を狙って刺してくる。
最初こそあたりはしなかったが、回数を重ねるごとに、俺に近づいてきている。さっきは頬をかすったくらいだ。

「クロウ」
「はい?」
「少し落ちついて。話を聞いてくださいませんか?」

俺がそう言うと、クロウは両腕をダランと下げて、攻撃する気はないということを示した。
俺はほっと胸をなでおろし、話を続けた。

「クロウ」
「はい?」
「なんで、俺にこんなことをするんです?」

俺がそう聞くと、クロウは間髪いれずに、答えを出した。

「きゃらめるー」
「……キャラメル?」

クロウの答えは、とても簡単なものだった。
キャラメル。そう言えば、クロウはキャラメルが好きだったような……。

「きゃらめる、頂戴」

寝ぼけていても、はっきりと言い切るクロウは、とても性質が悪く見えた。

「いや、そもそも、俺はキャラメルは持ってませんし」

俺がそう言ってまた眠ろうとすると、クロウは顔をしかめて、またフォークを持った手をぶんぶんふりまわして、喚く。
あぁ、なんなんだ、この人。
どっからどうみても、まるっきり、だだをこねるガキじゃないか。
だが、ガキはフォークを持って、親を脅したりしないな。子供よりも、性質が悪い。

「解りました、明日、買ってあげますから」
「はい、約束ですよ」
「はいはい……」

俺の答えに満足したらしく、クロウは自分が寝ていたベッドへと戻った。



翌日、約束通り、クロウにキャラメルを一袋買ってきてやった。
昨晩、なぜあのような事をしたのか聞いてみると

「僕の目の前で、館長がキャラメルを食べている夢を見たんですよ。
 あまりにもおいしそうに食べるので、なんだかイラッときまして」

クロウはキャラメルを一つ口に入れて、そう答えた。

あぁ、もう、いいですよ。
どんなに貴方が私を困らせようが、別にいいですよ。

……言い返したら、またフォークで刺されるでしょうしね。