コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

 1 ‐ 02 ( No.17 )
日時: 2010/12/01 17:46
名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)

『死んだ魂はな、まず冥界に送られる。それでそこにある屋敷の中で、ワシがその魂の善悪とかを見極め、天国に送るか地獄に送るか決めるんだ』
「ああ、そういうの聞いたことあります」

 ペンダントから低く太い声が聞こえてくる。未彩はもう諦めたのか(ペンダントを握り潰すのを)、大人しくその話を聞くことにしたようだ。
 ……善悪を見極め、ってさっきの閻魔帳を使ってだよな。人の一生が書いてあるノート。

『だが最近地獄への逝き人が多くてな。原因は黒心——というのは負の感情のワシら風の呼び方なのだが、それが妙に増幅しているんだ。一定以上の黒心があると、地獄へ逝くという決まりなんだよ。それで天国と地獄のバランスが今とれていないんだ』
「でもどっちに送るかは閻魔さんが決めてるんですよね? じゃあ多少その黒心? が多くても天国に送っちゃったらいいじゃないですか」
『そういう訳にはいかない。そこらへんはきっちりしておかないと、その魂の来世にも繋がってしまう』

 どうやら俺の案は無理のようだ。閻魔さんはかなり悩んでいるようで、心なしかさっきよりも声が低く重苦しくなっているように感じる。
 しっかし、きちんとしているんだな閻魔さん。似たような役職でも未彩とは大違いだ。

「大変なんですね……気苦労ご察しします」
『そう言ってくれて嬉しいよ。出来の悪い部下もいるしな』
「ジジイ、それあたしのことじゃないよね?」

 どう考えてもお前のことだと思う。

『それでだ、フリーテ……ああ、言うのを忘れていた。フリーテとは日由未彩の冥界での名前だ』
「冥界の名前、ですか」

 まあそんなとこかなーとは思っていたが。俺は未彩と呼ぶことにしよう。

『で、フリーテにな、地上に行って黒心を減らし、白心——明るい感情のことだ——を増やす任務を頼んだんだ。そうしたらバランスも良くなると思ってな』
「ああ……閻魔さん頭もいいんですね。でも未彩にそんなことできるとは……」
『勿論現時点ではできるはずがない。どころかむしろ戦争を巻き起こしそうだ。だからこれはフリーテの修行も兼ねているんだよ』
「素晴らしいアイディアですね!」

 未彩の修行か。ここで修行されたらハチャメチャなことになるだろうなと思いながらも、閻魔さんの発想力には感服する。うんうん、未彩は一から修業しなきゃいけないだろうしな。

「……ちょっと二人とも何仲よさげに話してるのかな? なんだかあたしが当たり前のごとく侮辱されてる気がするよ?」
『お前も当たり前のようにワシを侮辱しているけどな』
「ななな何を言っているんですか? あたしは閻魔大王様をとっても尊敬していますよ?」

 本人は真剣な(弁解をしている)つもりでもこっちから見れば嘘らしさしか見えてこないんだが。

『ま、でも一人じゃ見てるこっちが不安だからな。違う死神を連れていかせてもよかったんだが、ここは人間とやった方がよりよい修行になるだろうと思って、誰か適当な人間を探し手伝ってもらえと言ったんだが——』

 そこで閻魔さんは一旦言葉を切った。どうしたんだろう。あれ、というかその人間って……。

『なぜ、その重大な役がこの平咲君なんだ。……フリーテ、お前は本当に馬鹿だな』
「失礼な! 馬鹿なのはコイツです!」
「一人にはさりげなく馬鹿だと言われ、もう一人にはストレートに馬鹿だと言われてしまった俺はどうすればいいんだろう」

 閻魔さんの言葉の意味はどういうことだ。いや、まあある程度はわかってるんだけど認めたくないというか……。

「だって閻魔様、“適当”な人間って言ったじゃないですか。コイツ、超適当に毎日を過ごしてますよ」
『確かにお前の解釈ではこの少年はぴったりだが、ワシが言った“適当”は“適切”という意味だ。なぜそれすらわからないんだ……これでは力になるというかフリーテの馬鹿さを増幅させるだけな気が』

 そうか、俺は適当な奴だったのか。前々からなんとなく自覚はしてたけど閻魔さんがそう嘆いているならこれは絶対にそうなんだろう。……どうすればいいんだ。認めた途端哀しくなってきちゃったじゃないか。
 海に向かって「バカヤロー!」と叫びたくなってきた己を落ち着かせていると、閻魔さんがまたもや溜息をついた。

『あー……それで、だからなフリーテ。早く違う人を見つけてこい。面倒くさいならワシが探すから』
「……い、嫌です」
『え?』
「あたしは……この真斗がいいんです」

 すると未彩は——もじもじ、とした感じで形の良い口から言葉を発した。
 未彩……? 俺がいいって、それはなんだ、その……

「だって、コイツならたくさんストレス発散ができそうですから!」

 期待した俺が馬鹿だった。

『あのなあフリーテ、そんな理由でいいわけないだろう。これは重大な任務でもあるんだぞ?』
「でもよく考えてください閻魔様。コイツはどうしようもないほど馬鹿じゃないですか。だからコイツが将来悪人にならないために、あたしがずっと監視して修行させるんです」

 どうすればいいんだろう。こんな奴に馬鹿にされた俺は世界一馬鹿だというのだろうか。
 だいたい、お前も修行する身だっつの。そして俺が監視する側だろ……多分。

『……まあそれも一理あることはあるが』
「でしょ!」
『馬鹿どうし、良い経験になるかもしれんな』
「だから馬鹿なのはコイツだけ!」

 最後は俺と未彩の声がぴったり被さった。俺のことはおいといてとにかく未彩は絶対に馬鹿だぞ! いい加減認めろ! そして閻魔さん頼むから認めないでくれ! 俺の中の大切な何かが崩壊してしまう!

『わかった、もうそれでいい。危険なことになったらすぐに違う死神を送るしな』
「やった! これで思う存分ジジイからのいじめのストレスを発散できる!」
『…………』

 もう突っ込むのに疲れたのは、閻魔さんも同じのようだった。


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