コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

 1 ‐ 03 ( No.29 )
日時: 2010/11/29 18:39
名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)

 俺はすっかり忘れていた。
 
 今、家族はどうしているのだろうかということに。

 だいぶ人がでてきている。空を見ると綺麗な青で、だいたい七時頃だろう。俺はよれよれのスウェットだし、未彩は常識的な服装とはあまり言えない。歩いているだけで奇怪な目で見られる。
 だが問題はそんなことじゃなかった。
 家に俺がいないと知ったら、家族はコンビニにでも行っているかと思うだろう。だがコンビニに行っているにしては長すぎた。それに俺は休みの日はとことん寝る性格だから、おかしいと感じるはずだ。俺の家族はちょっとずれてる母親にめちゃくちゃ子供らしい妹。止めるべきはずの常識人父親に発言権はないため、大騒ぎをしやがるかもしれない。 

 いや、めちゃくちゃ残念なことにこれだけでもないんだ。
 
 未彩はこの地上にしばらくいるはずだ。そうすると住処がなければ困る。とすると、必然的にパートナーの俺の家となる。
 はっはっは、死神だの閻魔だの話したら、あの女どもは色々な意味で大変なことになってしまうじゃないか。信じてくれないわけではない、むしろ信じすぎてしまうから困るのだ。
 ……どうするつもりなんだろう。いや、どうにかしてくれないと俺の立場が大変なことに……。

 そんなことを未彩に説明すると、「じゃあ家のっとれば万事オーケーじゃん」などと支離滅裂なことを言われたため至急閻魔さんに連絡をとってもらい、相談してみた。
 ちなみに閻魔さんへ連絡をとれと言うと心底嫌そうな顔をし、なぜか俺の腕を捻り潰そうとしたのだがそこはもう気にしない。

『あー、わかった。そうだな、平咲君には世話になるわけだし、そこらへんはワシがなんとかしておこう。心配するな』
「はあ、了解です」

 ふむ……まあ閻魔さんがそう言うなら大丈夫だろう。
 ところで未彩、

「なぜ俺の顔を砕き壊そうとしているのかな?」

 頬骨がミシミシという音を立てるのに耐えながら質問すると、未彩はにっこりと天使の微笑みをつくった。

「決まってるじゃん、君に罰を与えてるんだよ」

 俺が何をしたというのだろう。

 1 ‐ 03 ( No.30 )
日時: 2010/12/01 17:46
名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)

 未彩が閻魔さんと何か話してるのをぼーっと待ち、ようやく家に帰ることになった。

「そういえばさー、あたしのフリーテっていう名前、ジジイがつけたんだけどね? どーいう意味だと思う?」

 家まであと数分、というときに唐突にそんなことを口にした未彩。にやにやした表情で、答えを待ちながらこっちをじっと見ている。
 意味か。フリーテ……わかんねえな。でもいきなり言われて簡単にわかるもんじゃないだろ。

「まあわかるはずないか、ごめんね君の理解力じゃ無理だよね。あたしが迂闊だったよ」
「もう一回言ってみろ」
「ふふん、結構ジジイにしては良いセンスなんだよ?」

 なんだろう。どうして無視されるんだろう。そしてなぜつけてもいない未彩が自慢げなんだろう。

「“自由”を意味する“フリーダム”と“リバティ”をあわせたんだって。先入観とかに捉われない、道を切り開くって感じでいいよねー」
「……そ、そうだな」

 ……俺には決まり事を守らずめちゃくちゃなほどに解放的なことばかりやっているから皮肉を込めて閻魔さんがつけたんじゃないかとしか思えない。
 まあそう言ったら「じゃあ君も解放的にしてあげるね」と言って指の一本でも折られそうだからやめておこう。それに——楽しそうに答える未彩がちょっと可愛いし。ていうのは永遠の秘密。
 それよりも聞きたいことがあったんだ。

「あのさ、さっき閻魔さんが事情があって、とか言ってたけどどうして死神になったんだ?」

 そもそも人って死んだらどうなるんだろうか。死神って何人もいるっぽいよな。そういうのって誰が決めてるんだろう。
 ……あれ? もしかして俺、今まで誰も知らなかった秘密を誰よりも早く知ろうとしてるのか? え、待て俺やばくないか? ……まあいっか。あ、もしかしてこういう考え方が適当といわれるのか。いや、深く考えない方が人生楽しく生きていけるような気が……そんなことは今はどうでもいい。

「あー、えーとね、あたし前世が何だったかジジイが教えてくれないからわかんないんだけどさ、まあ普通の魂だったらしいんだよね」
「普通の魂? それは特別善でも悪でもないみたいなことか?」
「うんそんなとこ。……だけど、なんかあたし達魂の処理を素早く的確にやってる死神がかっこよくてさ。あたしもこういう風になりたいって、よく覚えてないけどそう言ったんだよね」

 記憶の海の中を探しまわっているかのように、空を向いて話す未彩。
 ふむ、大層な勇気を持ってるんだなあ。俺だったら絶対そんなことせずに大人しく定められた場所に行くな……。

「で、なんか驚かれたし最初は受け入れられなかったんだけど、えーと……ある人が色々と言ってくれて、ジジイが認めてくれたんだ。本当なら通常通り、輪廻のサイクルに入れられるみたいだったけど」
「ある人? 誰だそれ?」
「君に教えてもわかんないでしょ。そんなことよりさあ、ここが君の家だよね?」

 にかっ、とお得意のいたずらみのある笑みで見事に話を逸らされた。ま、そのうちまた詳しく聞かせてもらえばいいや。
 ……で、俺の家についたんだよな。
 さて、閻魔さんはああ言ってくれたけど本当に大丈夫なんだろうか。とりあえず玄関を開けてみるしかないよな。鍵、あいてるだろうか。

 普通の、一般市民の住む小さいとも大きいともいえない二階建ての住宅。そんな家の茶色のドアから飛び出すドアノブを下に押しながらこっち側に引き寄せる。
がちゃがちゃ。

「……開いてないな」

 じゃあインターホンを押そう。
 そう思い、いっぺんドアノブを握る手を離してチャイムを鳴らそうとインターホンに近付く。

 て、今見てはいけない光景が目の前に映って聞いてはいけない音を聞いてしまった気がするんだが。

 目をごしごしとこすってもう一回よく見てみる。いけないなあ、俺は結構疲れてるみたいだ。だってさ、

「何勝手にチャイム鳴らしてんだてめーッ!?」

 未彩がわくわくとした表情でチャイムを鳴らしていたように俺の目に映っているのだから。
 慌てて止めると(手遅れに決まっているが)、途端に不機嫌そうになってこっちをじろっと睨む。不機嫌になりたいのはこっちだ馬鹿野郎。ひとまずどうなってるのか様子を見るつもりだったのに……!

「ちょっと怒鳴らないでようるさいなあ。お母さんの声が聞こえないでしょ」
「おかッ!?」

 お母さんと言ったのかコイツは。どういうことだ。詳しく説明しろ。一体今俺の周りで何が起こっているんだろう。と、とにかく母さんはコイツに対して何て言うんだ……?
 不安と未彩に対する怒りが混ざって、俺のスピリットが冷たいマグマのような意味不明な状態になってきた時、いつものように呆気なくドアは開いた。

「あ、どこ行ってたのー? 心配したんだから、真斗に未彩ちゃん」

 驚きなどをまったくみせずに、まるで当然の如く俺と未彩を見ている母親の言葉と共に。

 
    * 1 ‐ 03