コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 1 ‐ 04 ( No.37 )
- 日時: 2010/11/30 19:08
- 名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)
“母さんがまったく驚かずに未彩を見ている=未彩がいるのは普通のことである”。
そして台詞から察するにおそらく未彩は同居している可能性が高い。
閻魔さんはいったい何をしたっていうんだろうか。頼むから俺の予想を裏切り、コイツと一日中一緒にいるなんてことには——
「あ、真斗、ジジイによるとあたしは色々あってこの家に住んでるみたい」
その小声で囁かれた情報は俺の心をめった切りにし、代わりにこれから気力を失わずに生活していけるのかという不安を大量生産しやがった。不安なんてものじゃ俺の心の傷は治るどころかバイ菌投入されてますます悪化していくぜ。
「ほらほら、朝ごはんできてるから。それにしても朝一緒に散歩なんてそんなに仲良くなったのねえ、貴方達」
嬉しいわとか言いながら笑っている母さん、よく聞いてくれ。俺達は一緒に散歩なんてしてないのさ。俺はコイツに拉致られ、今日初めてコイツと出会ったんだ。母さんの記憶はどうなってしまったんだい。閻魔さんは何をどうしてしまったんだい。
ダメだ。そろそろ思考回路がオーバーヒートしてしまう。こうなったら俺がやるべきことはただ一つ!
「真斗、食器置くの手伝って——って真斗?」
俺の砦(自室)に閉じこもり、現状整理をするだけだ。
「未彩ちゃん真斗は?」
「二階にあがってったよー。というわけだからちょっと待っててお母さん」
なのになんでその重大な作業を行うここに未彩がついてきたんだろう。
**
未彩はずかずかと部屋の主の了承も取らずに俺のベッドに勢いよく座り込み、反動で後ろへひっくり返りそうになった体を持ち直している。
もうそれを注意するのは面倒くさいのでとりあえず今一番聞きたいことを問い詰めよう。
「今すぐ状況を説明しろ。なぜお前はここで住んでることになっている? 早く閻魔さんを呼び出せ」
「仕方ないなー、ほんとに我儘だね。まあ混乱するのも当然か」
そうさ当然さ。俺だけ置いてかれた気分だよ。全然話についていけない。
「馬鹿だしね、あたしがそれなりの対応をしなきゃいけないのは当たり前——て真斗何してんの」
「いい加減その口を封じたくなってきたんだ。ちょっとガムテープを探していてね」
ガムテープを発見次第コイツの口を押さえて窓から放り出してやる!
……って落ち着け俺。あくまで相手は女の子だ、手をだしたりしてはいけないな。そんなことをしたら大人気ないじゃないか、
「あー失敗したな、こんな大馬鹿の相手をずっとしなきゃいけないなんて」
「違う意味で理性が吹っ飛びそうだ……!」
俺を抑制するリミッターがどこを探しても見つからない。なんとかしないと俺はコイツを殴ってしまう。
「じゃあ冗談はこれぐらいにしてジジイに説明してもらうね」
「全てを冗談で片付ける気かてめえ。まあいい、早く話を聞かせてもらう」
未彩はけろっとした顔で銀色のペンダントをぴん、と指で弾いた。キィンというような鋼鉄音とフォワッというような不思議な音が混ざり合い、狭い部屋の中に響く。
……あんなんでいいんだろうか。だがその心配は杞憂で、すぐに頼れる低いバリトンのきいた声が流れ出てきた。
- 1 ‐ 04 ( No.38 )
- 日時: 2010/12/03 17:34
- 名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)
『では早速説明をさせてもらおう』
「さすが閻魔さん、一言も言わない前に事情を察してますね」
『まあそっちの様子は見させてもらってるからな』
そうだった。すっかり忘れていた。でも別に忘れててもそれぐ「そんなことも忘れてるとかありえない」……幻聴だ。
『えーとだな。日由未彩は平咲家のいとこで、親がしばらく海外に仕事で行ってしまうため親が帰ってくるまで平咲家で預かっているということになっているんだ』
なるほど。いとこっつー設定か……。ちなみに俺に本当のいとこはいない、親に兄弟がいないんだよな。……それにしても結構いじくっちゃってんのかー。情報操作? とかいうんだっけ。
「いやあ、こんなこともできるなんてやっぱり閻魔さん凄いですね」
『まあ人間達はワシが管理しているからな……本当はもっと色々できるが、特に必要はないから使っていないだけだ』
ふむ、もっと色々できるのか。凄すぎる。今まで魂の行き先を決めるぐらいかと思っていたが……つまり俺達人間はでかいマンションに住んでて、そこの管理人が閻魔さんみたいな感じか。なんとなく掴めてきた。
『で、日由未彩は遠い県に住んでいた設定なんだ。つまりここに住むということは必然的に転校する。結構最近この家に来たということだから、明日明後日ぐらいに正式に転校することになる』
あれ? 危うくサラッと聞き流しそうになったけど今なんだか危険なオーラを纏った言葉がでてきたような?
「ちょっと待ってください。その転校先の学校とは……」
『平咲君が通う藤満学園に決まっているだろう』
……ふっ俺の耳もだいぶおかしくなってきたな。コイツと同じ学校=本気で一日中一緒、じゃないか。そんな(悪)夢みたいなことあるわけないだろ。
「というわけだから、きちんと設定を理解したうえで学校でもよろしく真斗」
「あれおかしいな? さっきの幻聴が現実というかのように会話が進んでいるぞ?」
……そんな……コイツと同じ学校? 恐ろしい、きっとあいつが学校に行ってしまったら翌日には校舎が破壊されていることだろう。人類滅亡の危機。その一番が俺達の学校だっていうのか……なんて神様は酷なんだろう。って閻魔さんか。
「ちょい、今失礼なこと考えてたでしょ?」
まるで人間ではないかのような鋭く恐ろしい勘——あ、死神か。
「いやいやいや、とても綺麗な未彩様のことですから学校に行ったらモテモテで戦争が起きてしまうなと不安になっていただけです」
「……へーそー、いや、その……事実だけどね、そのね」
まあ本当のことを言ったら五体不満足になる気がするので、誤魔化すために俺の限界を超した笑顔をつくる。どうやら誤魔化せたみたいで、未彩は顔を赤らめえへへーとか言っている。未彩がこの上なく単純で本当に助かった。
『はっはっは、大変だとは思うが頑張ってくれ。……そうだな、いちいちフリーテに頼んでワシに連絡するのもあれだし、平咲君にもこれを渡しておこう』
「え?」
——閻魔さん厄介払いができたからって上機嫌だな——ごほん、閻魔さんの言葉が終わると同時に俺の右手首が光った。
ぼんやりとした霧のようなものが手首を白銀に染める。一瞬激しい光が走って思わず目を瞑ってしまい、おそるおそる瞼を開いてみると、手首にはいつのまにか銀色のブレスレットがついていた。未彩がつけているペンダントと同じ色、光沢。
『まー似ているが、フリーテのペンダントとは能力は違いワシに連絡をとれるだけだ』
ほお……まあそれでもめちゃくちゃ凄いよな。だいたいいきなり物を創りだすなんて閻魔さんは本当にヤバい。
『うむ、あの能力は人間に持たせたら危険だし……いや、フリーテでも充分危険か……』
「待ってジジイ。それってどういう意味?」
『とりあえずフリーテは黙っていろ』
ひとりごとにも鋭く言葉を挟む(正に地獄耳のような)未彩を一蹴した閻魔さん。……あらゆる意味で凄いぜ。
まだ姿も知らぬ閻魔さんを心の奥底から称え尊敬していると、下からおっとりとした声が響いてきた。
「二人とも、朝ごはんよー? 早く下りてきてねー」
『……だそうだ』
だそうだな。……ま、気になっていたことは聞けたし今は素直に下に下りるか。結構腹も空いてるし。
未彩を見るとこくりと頷いた。黒いスカートをぱんぱんと払ってしわを伸ばしながらベッドから立ち上がり、うーんと伸びをする。
「んじゃ、地上での初めての食事をありがたくいただきますかー」
……そういや、冥界では食事とかどうしてるんだろうか。
そんなことを聞く暇もなく、未彩はとんとんとリズムよく階段を下りていった。
* 1 ‐ 04