コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 2 * ハリケーンの日常は、さらに ‐ 01 ( No.65 )
- 日時: 2010/12/08 19:04
- 名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)
「行ってらっしゃい、真ちゃん!」
朝。千春が向日葵のような笑顔で玄関先から俺を見送る。千春も学校の準備をしているのにこうやっていちいち玄関まで来てくれるのは、やはり嬉しいと感じていいんだよな。真ちゃんと呼ばれることをなしにしたらとても可愛い妹なわけだし。
「お姉ちゃんも今日から真ちゃんの学校行くんでしょ? 真ちゃん楽しみ?」
「ははは、楽しみなわけないじゃないか」
千春と同じく俺も笑顔で受け答えをする。正直なことを笑顔で言うっていうのはなんて素晴らしいことなんだろう。
そう……今日は月曜だ。休み明けというただでさえ憂鬱な日なのに未彩の転入というまったく嬉しくない出来事が待ち構えている。最悪だ。
幸い、今日未彩は転入生ということで早めに行ったため、登校は一緒じゃなくなったが……。
「そーなの? ……まあ、それでも別に千春は……」
「え? どうした?」
「ううん、なんでもないよ! じゃあ行ってらっしゃーい!」
最近よく見せる、無邪気さとかけ離れた微かに黒い表情。……どうしたんだろうか。
まあいいや。こんなとこでグダグダやってても遅刻するだけだし。
「んじゃなー」
今日も天気は昨日と同じ快晴だ。ドアを開けた途端視界に眩しい日光が入ってきた。
腕で影をつくりながら、家に向かって手をふる。
今思えば、これは本格的に平和な日々とおさらばしてしまった印だったのかもしれない。
**
のんびり。
という擬音語が大好きな俺は、当然登校ものんびりとする。
予定だったのだが。
今俺は猛烈に急いでいる。逃げている。誰からかって? ……あいつは人間じゃない。悪魔、いや魔王。
折角綺麗な顔をしているのに台無しだと思いながらも、まああの鉄壁は魔王には似合っているかもしれないと納得する。いや、せくしぃな魔王だって妖女という感じでいいのだが……げふんげふん、落ち着け。そんなことを考えていたらあいつに見透かされてまた体罰を行われてしまう。
「今日こそあんたの骨という骨、関節という関節を折ってあげるわ。今すぐ止まりなさい平咲」
体罰どころではない。処刑じゃねぇかそれ。
後ろから猛然と近づいてくるその声から逃れようと、足の力を強め地面を勢いよく蹴っても、哀しいかな日頃の運動の差でまったく足は速くならない。このままじゃ奴に追いつかれてしまう。そして骨と関節を折られてしまう。つまり俺を待ち構えているのは残酷なる死。……死んでたまるかァッ!
自分の死に際を想像し、吐き気がこみあげてくるのを抑えて、全ての力を足に込める。もうここで助かっても翌日筋肉痛で死亡するんじゃないかというぐらいの力だ。それほど頑張ったからか、なんとか速度はあがったが——
「あんたがあたしを鉄壁っていうんなら、鉄壁の恐ろしさを思い知らせてあげる」
——やはり、勝てなかった。
**
……腹が……痛い……。
隣でそっぽを向いて歩く女子、空橋柚葉の蹴りが俺の鳩尾にクリーンヒットしたのだ。くっなぜ俺はいつまでたっても奴に勝てないんだ……! たった二日間で人体の急所を二回も蹴られるなんて思ってもいなかったぜ……。
空橋をじっと見てみると、改めて美少女だと実感させられる。綺麗な浅葱色のツインテール。ライムグリーンというのが相応しい、薄い緑色の瞳は透き通っている。華奢な体。手足はすらりと細く何もかもが細いスレンダーな美少女。……いや、今のは褒め言葉だぞ? 褒め言葉だからな?
「学校に着いたら、馬鹿な男子共への見せしめとして校庭で処罰を与えるわ。それまで待ってなさいよ」
空橋はずっとそっぽを向いたままだ。そりゃあ、そりゃあな、わかってるぞ? それが空橋のコンプレックスであり人には言われたくないことだというのは。だが、やはり俺は正直な人間なんだ。優しい心で空橋と接するようにしてもどうしても本音がでてしまう。あまりの俺の正直さに口が嘘をつくことを許さな首がぁぁあ!!
「あんた全てが顔に書いてあるわよ。ね、今何を考えたのかきちんと言ってくれないかしら?」
顔に書いてあるだなんてそんな俺は単純だったのか。いや、コイツ(と未彩とか)の勘が鋭すぎるだけなんじゃ……?
と、首を絞められ呼吸困難という状態に陥りながらもそんなことを考える。その余裕がある理由は未彩に色々やられてだいぶ慣れてきたからである(慣れてしまう環境はまったく嬉しくないが)。ああ、コイツの手、なんでこんなに力があるんだろう……。
「……まあいいわ。どうせ学校でやるつもりだし」
すると前触れなしに手を離され、俺の体は勢いよくアスファルトの地面に落ちた。
ここで安心できないのが悲しい。学校でやられるんならたいして変わらないじゃないか!
「あんたの態度次第で許してやらないこともないけどね」
「え、ほんとか? どうすれば許してくれるんだ?」
「そうねー……いっぺん死んできたら一応許してあげる」
それって許してもらえたっていうんだろうか。
* 2 * ハリケーンの日常は、さらに ‐ 01