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 第一色 * バランスゲームをしに来た死神 ( No.7 )
日時: 2010/11/27 16:34
名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)

第一色 * バランスゲームをしに来た死神
 
 朝目が覚めると、

「というわけで今日からよろしく」
「すまない。まず状況を説明してくれ」

 目の前に、にかっと笑った少女がいた。


 腰まである、絹糸のようにきめ細やかな銀髪を右側で無造作に一つに結び。宝石のように透き通った、それでいてどこか謎めかしい紫色の大きな瞳を幼いいたずらっ子のように光らせて。黒と白銀で構成された服から伸びるすらっとした手足は不健康そうに見えない程度に白い。
 そんな美少女が俺の目の前にいる。そして俺はなぜか路地裏にいる。しかも体を電柱にくくりつけられ、すなわち拘束されている。さて、これはどういうことだろう。よーく落ち着いて考えてみよう、俺——平咲真斗。
 まず一つ目。これは夢であり、今見ているものは全部夢の中のものということ。
 二つ目。これは現実の出来事で、寝ている間に俺は誰か(この少女だろうか)に連れ去られ、この路地裏で拘束されている。
 三つ目。大がかりなドッキリ。
 さあ、どれが正解だろう。まあ一つ目だろう。一つ目じゃなかったら三つ目だ。絶対に二つ目は違う、と信じたい。俺は誘拐されるほどの凄い奴でもないしな……。
 そう考え、頬を思いっきり抓ってみた。さあ覚めろ俺の夢!

 が、瞬きをしても視界に映るものは変わらない。しかし代わりにじんとした痛みが頬に攻撃を仕掛けている。おかしいな、なぜ覚めないんだろう。夢じゃないからか? じゃあここが現実、と。ふむ……。

「ないな」
「君の脳が?」

 まさか出会って一分以内に馬鹿扱いされるとは予想外だ。うん、これはやはり夢なんだろう。こんな奇妙な夢、あまり見ていて面白いものではない。

「なあそこの君、俺を殴ってくれないかな」
「……え、何? もしかしてM? まあいいけど」
「断じてMじゃない。早く——うぉぉおッ!?」

 他人をいきなり馬鹿扱いに続き性癖症扱いという非常に失礼な声と共に、脳天に凄まじい閃光のような痛みが走った。そして痛みに耐えているうちに手足が次第に痺れてきて、視界はちかちか、くらくらと……。
 そうさ、そのまま意識を手放し、このよくわからない夢から覚めるんだ、俺。
 
 ああ、視界が暗くなっていく……。

 もう少しして瞼を開ければ、いつも通りの現実が目の前に広がっているはずだ。
 ほら、何かが見えてきた。あれは——大きな川。そして、綺麗なお花畑。川の向こう側から誰かが微笑み手招きをしちょっと待てぇぇぇえ!?

「行くな俺! 逝くな俺! そこは渡っちゃダメだろ!」

 慌てて瞼を開ける。よかった、さっきと同じだ。まだ俺は死んでいないはず。危なかった……あやうく三途の川を渡りそうだったぜ……。

「……君さあ、何一人で言ってんの? もう目、覚めた?」
「そうかお前か俺を死の世界に連れ去った原因は」
「はあ? いや、そっちが殴ってって言ったよね?」
「う……」

 まあ確かにその通りだ。だけど、だけどな、初対面の人にあんな力で殴るなんておかしいだろどう考えても。……しっかし、あの力で覚めないとなるとやはりこれは夢じゃないということか。これが現実……?
 よくわからなくなってきた。そもそもまだ俺は睡魔が脳内を旋回しているのであって思考があまり上手く働かないんだ。よし、ひとまずこの身を自由にしていただこう。

「な、とにかくこれ解いてくんねーかな」
「しっかたないな。逃げだしたら承知しないよ?」

 少女は面倒くさそうにそう言うと、手際良く俺の体を縛る縄をはずし、ぽいっと投げ捨てる。……うん?
 ダメじゃないかポイ捨てしちゃ。俺は環境保護を支持する善良な市民なのだからきちんと注意してやらなくてはな。……善良だぞ? ほんとに善良だからな?

「おい、ごみはきちんとごみ箱に捨てるべきだ」
「じゃあごみ箱ってどこ?」

 すると少女は予想とは違い素直に聞き入れてくれた。

「おお、素直じゃないか。えーとだな、ごみ箱は」
「うん、君を早くごみ箱に捨てなきゃいけないからね」
「前言撤回。お前はその腐った性格をごみ箱に捨ててこい」

 1 * 銀髪少女は冥界の ‐ 01 ( No.8 )
日時: 2010/12/01 17:45
名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)

 ……こんなことをしてる場合ではなかった。よし、もう一回落ち着いて考えてみよう。そうだ、俺だけで考えていては埒が明かないかもしれない。仕方ないしこの失礼な少女にも聞いてみようか。まずあれだ。そう、あの5W1Hとかいう奴を使うんだ。

「なぜ俺はこうなっている?」
「あたしがこうしたから」

 これで「なぜ」と「誰が」は解消された。「なぜ」の方はあまり釈然としない答えだが気にせずにいこう。「誰が」の方は今すぐ110番してコイツを警察に渡したくなったが落ち着いていこう。えーと、「何を」はいらないな。

「いつこうした?」
「うーん、今日の朝早くかな」
「どのようにして?」
「窓から入って呑気に寝てる君の首根っこを掴んでここまで来て電柱にくくりつけた」
「そうか、詳しい説明をどうも有り難う」

 さあ問題はなぜコイツがそんな不法侵入及び暴行をしたかだ。さすがに気にせずにはいられない。なぜなんだ。なぜ俺はこんな奴に拘束されなくちゃいけないんだ。なぜこんな……こんな、犯罪行為をさらっと爽やかな笑顔で言える奴に拘束されなければ……!

「どーゆー目的だよ? というか……お前、ほんと誰だ?」
「クソハゲジジイ——じゃなくて閻魔様に命じられたから。あたしはフリーテ、じゃなくて日由未彩」
「名前とお前が口悪女なのはよくわかった。それ以外の情報をくれ」

 日由未彩、か。聞き覚えは全くない。それにこんな口の悪い知り合いがいる記憶はない。それにしても閻魔? って、あの地獄にいる奴のことだよな? ……何だろう、この子もしかして妄想癖だったりするんじゃないのか。大丈夫だろうか。

「あ、そーだ、さっき死の世界とか言ってたよね? でっかい屋敷、見えた?」
「俺の要求は無視かよ。……まあ、そういわれればあったような気がするでもないな」

 花畑の中にどかーんと建ってた気が。でかい屋敷。ああ、あった。でもそれが何なんだろう。とにかく俺はこの子がどういう目的で俺をこうしたのか教えて欲しいんだ。

「あーそっか。じゃあほんとに逝っちゃったんだー。まあ君なら完璧地獄行きだね。……となるとジジイが困るわけか。くっ、ちゃんと殴って逝かせればよかった、そしたらもっとジジイを苦しめられたのに」

 ぶつぶつと何かを呟いている少女——えっと、日由未彩。ふむ、この子はよほどそのジジイと俺を嫌っているようだ。ジジイって閻魔のことだっけ? ……ああそうだ、

「閻魔ってどういうことだよ?」
「それぐらいも知らないの? うわあ……」
「おいやめろその目は。質問に答えろ。閻魔に命じられたとか、その命令の内容も」

 コイツに馬鹿にした目で見られるというのは、今までで一番の侮辱な気がする。

「えーと、そーだなー、一言でまとめるとしたら奴の育毛剤と脱毛剤をすり替えたってことかな」
「それでわからない俺がおかしいんだろうか。それともコイツがおかしいんだろうか」
「前者に決まってるじゃん」
 
 どこまでも俺を馬鹿にする未彩。可愛らしい顔と声とは全然違うという情報が俺の脳に重要情報としてインプットされる。
 それにしても俺がおかしいというのならば、それはこの世界の人間全員がおかしいことになると思う。どんな天才でもあれでわかるはずがない。

「じゃ、これで理解できたよね? というわけで早速——って」

 理解できるわけねーじゃねーか、と止めようとすると、タイミング良く未彩が首にかけている銀色の石のペンダントが紫色の光を発した。
 え? 何が起きたんだ?
 戸惑っているうちに、未彩はふぅーっとわざとらしく溜息をついて、ペンダントを軽く叩く。

「もっしもーし閻魔大王様、御用件はなんでしょーか、こっちは順調に進んでますが」
『お前のやったことは全部監視している。どこが順調なんだ。あとワシをこれ以上侮辱するなら——ちょ』

 どこからか聞こえてくるおじさんの声。年齢は四十代後半ぐらいかと推定していると突然声がぶちっと切れた。
 驚いて未彩の方を見ると、にこやかにして晴れやかな笑顔を浮かべてペンダントを強く握りしめている。白い手に血管が浮かんでいるから相当な力を込めているようだ。まるで、そう、ペンダントを握り潰そうとしているかのように。

「さ、話を続け——くっしつこいジジイめ」

 未彩が眉間にしわを寄せ、さらに力が込められた手の隙間から、紫色の光が洩れだした。

『いい加減にしろフリーテ。お前には任せていられない、ワシが説明する。……そこの少年、ちょいといいか』

 するとまたもやおじさんの声が聞こえてくる。なんというか、脳に直接響くような感覚だ。
 ハッもしかしてこのおじさんが閻魔だったり? 未彩が「ジジイコロス……」とか極悪人のような顔をして言ってるし。
 あれ、どうでもいいけど閻魔だから殺せはしないと思うんだが……やっぱり未彩は馬鹿なんだ。

『あー、えーっと、平咲真斗君だね? 男、十七歳、家族構成は父と母と妹。今までの悪事は……ふむ、特にたいしたものはないな』
「え? あのちょっ何でそんなことを?」

 するとぱらぱらと何かを捲る音と共に、そんな俺の個人情報をすらすらと喋り出すおじさんの声。間違いない、これは閻魔だ。きっと捲っているのはあれだ、閻魔帳だ。

『ワシはお察しの通り閻魔でな、冥界を取り仕切っている。そこにいる阿呆は死神の見習い、フリーテという奴だ』
「やっぱりそうですか。……え? コイツが死神の見習い?」

 予想通りということもあるが、そんなに驚かずにすんなりと受け入れてしまった自分に少し驚く。それにしても死神の見習いとな。コイツが。

『有り得ないだろう。まあ色々と事情があってな』
「ジジイ、なんで有り得ないのか教えて欲しいんだ」
『さて、それで冥界には天国と地獄があってな。最近——』

 まさに流れるようなリズムで未彩の台詞をスルーした閻魔さん。未彩と長く一緒にいるからこその技なんだろうか。
 芸術性が溢れているなあ、と感嘆している俺をよそに、閻魔さんは丁寧に説明を始めていた。

  
    * 1 * 銀髪少女は冥界の ‐ 01