コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

 2 ‐ 03 ( No.82 )
日時: 2010/12/14 17:53
名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)

 来てほしくなかった時間がついにやってきてしまった。
 ホームルーム。奴が、奴がこの教室に入ってくるという世にも恐ろしいイベントが用意されている時間。
 周りの奴らはどんな子だろうかとわくわくした表情で、重村——先生が転校生のことについて話すのを今か今かと待っているが、俺はもう腹痛と嘘をついてトイレに逃げこみたいほど未彩が来るという現実を受け入れたくなかった。ああ、なんだか本当に腹痛が……。

「あーそれではな、突然だが」

 教卓の上で何か資料を整理し終え、重村が教室中を見回してそう言葉を発した。
 その途端クラス中が待っていた展開にざわっとなり、なんともなしに顔を見合わせ、期待に満ちた目で隣の子と何かを話しだす。俺も普通ならそういう光景の一部になっていたはずだが、転校生が未彩となるとそんなことはできない。期待など全くできないのだから。

「今日、このクラスに転入してくる生徒がいる。では、入ってくれ」

 重村は皆が求めていた台詞をすらすらと言い、ドアの方を向いた。ドアの向こうでかさ、と何かが動いた音がし、数秒呼吸を落ち着けるような間が空く。
 そして、がらりと勢いよくドアは開き——、

「彼女は「色々あってここに転校することになった日由未彩だよ! これで覚えなかった奴は死刑!」」

 未彩の方を指して説明しようとした重村を押さえつけ——大声で自分の名前を告げ——非常に勝手な死刑宣告を言い渡した。

 ああダメだ。初っ端からコイツ、やらかしやがった。

 僅かにあった希望は無残に打ち砕かれ、代わりに絶望感が押し寄せてくる。ただでさえ馬鹿騒ぎをしていた俺の大切な日常は、コイツが乱入してくることによって、地球崩壊のような騒ぎに変わることだろう。
 ……楽しいっちゃ楽しいが、絶対俺……疲労死するな……。

 唖然としているクラスメイトをよそに、つかつかつかと空いていた席に向かう未彩。ははは、未彩の隣になった奴は可哀想だな。たまたま自分の隣が空いていたから——てあれ? 

「真斗、よろしく頼むよー」

 目の前にあるのは、楽しそうな未彩の顔。
 ……ああ、可哀想に、誰よりも可哀想に、俺。



二日にわけて投稿いたします

Re: 銀色、まいんど! ( No.83 )
日時: 2010/12/14 21:07
名前: 玖夙友 ◆LuGctVj/.U (ID: Omw3dN6g)


 おおー、更新しましたかー!
 毎回素っ気ないコメントで申しわけありませんが、
 やっぱ「面白い」の一言に尽きますねえ!

Re: 銀色、まいんど! ( No.84 )
日時: 2010/12/15 19:07
名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)

えっと更新は明日になりますかね……

>>玖凪友さん
いえいえ貰えるだけで充分ですよ! しかも褒めてくださってるのですから!
面白い、のでしょうかね……やっぱりそう言われるとやる気がでてきます^^

コメントありがとでしたー

Re: 銀色、まいんど! ( No.85 )
日時: 2010/12/15 22:40
名前: ねす (ID: F.0tKRfu)

いやー、相変わらずフリーテは個性的ですねw
自己紹介でいきなり電波発言とか、どっかのハルh(ry みたいです。
次更新は明日ですか。お待ちしてます。

 2 ‐ 03 ( No.86 )
日時: 2010/12/17 22:14
名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)

「ねーねー、日由さんってどこから来たの? さっき色々あってって言ってたけどー」
「ね、すっごい可愛くない? どうやったらそんな可愛くなるのー? ていうか絶対彼氏いるでしょー」
「日由さんって面白い人なんだねーっあんなこと言われたら皆覚えちゃうよ」
「それよりさあ、もしかして平咲と知り合いなの? さっき真斗って呼んでたよね?」

 未彩の席——俺の隣の席はあっという間に女子に囲まれ、次々と質問がふりそそいでいる。さっきのが軽い冗談、ユーモア性と捉えた呑気なクラスメート達は、何も知らずにこにこと未彩に笑顔を向けているが……。
 答える暇もなく次から次へと押し寄せてくる質問に対し、特に戸惑う素振りも見せず、未彩は楽しそうに無邪気な笑顔をつくって答えた。

「冥界から来た死神だよ! 真斗はあたしの下僕!」

 実に楽しそうだなおい。

 待て待て待て、ちょっと待て。さすがに皆も少しひいている。ダメだ、死神だなんて言ったらもうアウトだ! ほんとに何考えてんだよコイツは……! 前代未聞のアホだろ! 空前絶後の馬鹿だろ! 

「しにっ……あ、あはは、もーやめてよー日由さん」

 女子の一人が苦笑いをしながら汗をたらす。「この子頭大丈夫かな」と思ってるんじゃないだろうか……?

「なんかすっごい冗談得意なんだね、ちょっとびっくりしたけど」

 いや、大丈夫だ。まだアメリカンジョークのようなノリで受け取ってくれている。まだ、大丈夫だろう。あまり心配する必要はない。……って、うん? 何かおかしいぞ?

「死神なんて、あははっほんと面白いんだからーっ」
「俺が下僕と言われたことに対しての突っ込みはないのかお前ら」

 面白くない! 全然面白くない。まったく……まるでそれが当たり前だとでもいう感じじゃないか。俺は下僕というものにぴったりというような。ははは、まあこのクラスメート達もそこまでひどくは、

「何言ってんの? 日頃からあたし達の召使みたいな行動をとってるくせに」
「空橋。俺はお前のような友達を持ったことを今非常に後悔しているよ」

 もうコイツは友達じゃない……! 俺を対等な目で見ない奴はクラスメートでもない、悪魔だ! だいたい無理矢理にパシられてるわけであって俺は自主的にお前らのパシりをしているわけではない!

「ところでえーと、日由さん? あたしは空橋柚葉、よろしくね」

 俺の悲しみを込めた発言を軽くスルーされたのは仕方ないからおいておくことにして、そんな風に挨拶された未彩の反応を窺うと。まあ予想通りにかっと元気に笑って「よろしくね柚葉ー」と答えていた。こーゆー明るくて裏表がないのはいいと思うんだがなあ。

「あ、わたくしは天埜宮楓ですわ。よろしくお願いします、日由さん」
「僕は笹本遥だよー。ほら、真斗も」

 すると天埜宮が女子の群れからでてきた。やわらかく丁寧に微笑みかけた天埜宮に続いて笹本がぺこりとお辞儀をする。のを見ていると、急に袖が引っ張られ。なんだ、挨拶しろってことか。
 
「俺は平咲……て、俺は言う必要ねーじゃんか」

 っとと、何やってるんだ俺は。もうコイツとは知りあってるんじゃねーか。空気に乗って誤って普通に挨拶しそうになったぜ。……ん、あれ? なんで皆俺を不思議そうに見てるんだ?

「平咲、さっき下僕とか言われてたけど……え、もしかしてほんとにそうなの?」
「あー……、違う! そうじゃない! だからな、えーと」

 疑うような目で見てくる空橋の言葉でようやく気付く。さっきも同じようなことを思った気がするけど、俺と未彩の関係はまだ言ってないんだよな。確かいとこって設定なわけで。

 2 ‐ 03 ( No.87 )
日時: 2010/12/17 22:14
名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)

「俺とコイツはいとこ! 親が仕事でしばらく海外に行くから、俺の家に来たんだよ」

 閻魔さんに言われたことを頭の中でリピートしながらそう言うと、皆目を丸くする。まあ当然か。でも別にそんな大したことではないし、すぐに驚きは冷めるだろう。それよりも——

「へえ……お、面白いいとこさんをお持ちですのね、真斗君」
「意外……でもないわね。それなら平咲の馬鹿らしさも頷けるわ」

 俺が周りにどう思われてしまうかが問題なんだ……!

「二人ともそれはどういう意味なのかな? 今すぐ説明しろ今すぐ」
「え? あ、別に日由さんはいいのよ、ああいう性格好きだし。でも平咲は……ってことよ」
「説明になってない! その嫌な沈黙のところを言えって言ってるんだよ!」

 空橋が「何か問題でも?」という目をしている傍できょとんとしている未彩の顔が急に憎たらしくなってくる。いや、落ち着け俺。こんなの日常茶飯事だろ、いつものことじゃないか。……それも哀しいものがあるが……。

「ふうん、今一緒に住んでるのかあ。それなら、僕達が知らないことも色々知ってるのかな」

 すると笹本が人差し指をたてた。少しいたずらっぽい笑みを浮かべているのが気になるんだが……。
 段々と湧いてくる不安を押しのけようとしながら、未彩が何か変なことを言わないかと神経を尖らせる。もし変なことを言いそうになったら俺は瞬時に奴の口を押さえなければいけない。

「あ……そ、そっか。ねっじゃあ日由さん、えーと、あたしのこと何か言ってなかった?」
「え? あーうん……空橋柚葉でしょ? 確かね」

 天井を向いて記憶を探り始める未彩の方に、空橋ぐいっと身を乗り出す。
 何か……何か俺、言ってたか? 俺の身に危険が迫るような発言をコイツの前でやったか? 俺も攻撃回避に身を備えるために記憶を探る。何か……昨日……確か……いや、あれはひとりごとだったから未彩には聞こえてないはず、

「『深凪と空橋を見てるとあらゆる意味で神は不平等だとしみじみ思うな』っていうひとりごとがあったよ?」
 
 ……聞こえていやがったのか……! 
 あーさて、それがわかれば俺は一刻も早く逃げ出さなければいけない。未彩に対する怒りなど二の次だ。まず俺は、

「……どういう意味なのかしら、平咲?」

 この無駄に洞察力の鋭い大魔王のような形相をした空橋から逃げなければ今度こそ死んでしまう。

「まあ落ち着いてだな、空橋。何も俺は胸がどうとは言ってない」
「今明らかにその言葉を口にしたよ真斗」

 笹本のそんな声が聞こえてくるがもういい! 俺は弁解しているわけじゃないんだから。これは時間稼ぎであって、この間に脚に全ての力を込め、最大限のスピードを発揮できるようにしているんだ。
 次の台詞を口まで持ってくる。これを言ったら瞬時、逃げ出そう。

「そう、胸じゃなくて——鉄壁かどうかだ!」
「死になさい」

 冷徹な怒りを秘めた空橋の言葉と蹴りを、今までで培ってきた反射神経でなんとか避けながら俺の輝かしい天使の扉——すなわち教室のドアへと走り出す。悪いな空橋! 俺はまだ死にたくないんだ!
 ふっ、さあこのドアを開けて一直線に走りだそう。廊下へ出ればなんとかなる。ドアを開ければそこには輝かしい未来が待って——ふぐォッ!?

「あたしから逃げられるなんて思ってるんじゃないわよ変態が」

 俺を未来に——輝かしい天国に導いたのは、脳天への凄まじい衝撃。


    * 2 ‐ 03