コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

 2 ‐ 04 ( No.93 )
日時: 2010/12/21 14:11
名前: 夢久 ◆inazumaCHw (ID: yjS9W/Zh)

「う、うう……?」
「やっと起きたわね豚男め」 

 まだ重い瞼をなんとか開けると、眩しい蛍光灯の白い光に一瞬目が眩んだ。瞬きを数回していくうちに視界がハッキリとしてきて、そこに映っていたのは未彩達。
 よかった。ひとまず安心する。ナイフのような鋭さで投げられた空橋の言葉には安心できないが、俺は冥界には逝ってないようだ。……ああ、それにしても俺の周りにいる女子は何でこう色んな意味で兵器ばかりなんだろう。

「……で、ここは? 今何時だよ……」

 落ち着いて周りを見まわしてみよう。俺の下には白く硬いベッド。微妙に生温かい。……そうか、俺はここで目を覚ますまで気絶していたのか。他にはつーんとくる薬臭い器具。ああ、ここ保健室だ。
 確かあそこに時計があったはず、と時計を探すとどうやら今の時刻は九時半あたり。一時間目と二時間目の間の休み時間だろう。俺が意識を失う前はHRの後の休み時間だったから……一時間ぐらい気絶してたのか……。

「保健室のせんせーはどっか用事があったみたいだからさ。ちゃんと様子見てあげてたんだから感謝してね」
「……感謝も何も、こうなったのはお前のせいなんだが……」

 もの凄く偉そうな未彩の態度に若干カチンときたが、これぐらいでそうなってたら俺はこの先ストレス死するだろうから我慢しておくことにする。

「じゃ、早く教室もどろ? もうすぐ授業も始まるしね」
「ん、ああそうだな」

 笹本がにこっと笑ってドアに手をかける。なんて優しいんだろう、本当に未彩達とは大違いだ——なんて言ったら殺されるな。
 俺も幸い体は動くようだし、ベッドから降りる。いない先生に向かって心の中で軽くお礼を言い、笹本が開けたドアからぞろぞろと廊下に出。すると天埜宮がふと何かを思い出したのか、「あ、そういえば」と声をあげた。

「ええとですね、『昼休み、日由に学校を案内してくれ』って先生が仰ってましたの。皆さんで一緒に行きましょう?」
「ああそうそう、平咲を運んで行く途中廊下で重村先生とすれ違って、そう言われたのよね」

 ふむ……重村は運ばれている俺についてはスルーしたのかと少し疑問に思ったが、それはいいとして。何か心配の言葉ぐらいかけてくれたはずだと思うことにする。
 ……学校案内か。まあいいよな、もう今更未彩が変人と皆に認識されたことに変わりはないし、コイツが何をしようと俺には関係ない! ……はずなんだ。

**

「かえ「私の半径一キロメートル以内には入るなと申したはずですわお兄様」グふっ」

 今変な会話が聞こえた気がするがきっと気のせいだろう。もう俺はいちいち突っ込まないさ。……でも半径一キロメートルってもう椿先輩この校舎には入っていられな——ハッ突っ込まないと今決めたばかりじゃないか。

「ごめんなさい、最近は虫がやけに寄ってきまして……それで日由さん、」
「未彩でいーよ? 堅苦しいし」

 兄を虫と思っているとはなんて奴だ——ではなく、何かを言いかけた天埜宮の言葉を遮る未彩。良い意味でまったく重さがないというか、何度も言うがこういうところは本当良い性格だと思う。今はこんなあっけらかんとした人って結構減ってるもんな……。それにしても裏表がないのはいいんだがストレートすぎる俺への暴力行為はやめてほしいぜ……。
 
「あ、そうですか? それでは未彩さんと呼ばせて頂きますわね。私のことはお好きに」
「じゃあ私達のことも好きに呼んでね」
「うん!」

 にこっと笑いかける女子達。うんうん、普段は見ることのできない貴重で微笑まし——

「あー、真斗の友達とは思えないほど良い人達だねー」
「ちょっと未彩冗談はやめてね、あたしは平咲の友達じゃないから」

 まったく微笑ましくなかった。

「そういやアンタの名前はまだ聞いてなかったよね」

 未彩が首を捻った方向を見ると、それは、まだ扇子に叩かれた赤い痕が頬に残っている椿先輩だった。さっきから一言も喋ってないからすっかり存在を忘れていたが……(椿先輩は天埜宮が黙れといったら一日中黙っている場合もある)。

「あたしのことは未彩でいいけど、アンタはなんていう名前?」
「僕は「お兄様、いつ私が喋っていいと言いました?」すみません」
「……妙に素直なんだね……まあいいや。でも名前がわかんないと困るよー」

 ごきゅ、と変な音をたてた椿先輩の体を見て、冷や汗を一筋垂らしながら未彩がそう言うと、口から白いぼやけたものがでてるような椿先輩の代わりに天埜宮が(どす黒い)笑顔で答えた。

「この虫は天埜宮椿っていうんですわ。言っておきますけれど私とは何の関係もありませんのよ? 名字はたまたまですわ」

 ……どうしても兄とは思いたくないようだ。天埜宮という珍しい名字をたまたまという一言で片づけるほどだからな。なんて恐ろしい女なんだろう。
 改めて天埜宮の恐ろしさを再認識しながら未彩の方を見ると、なぜか未彩は向日葵のように明るく綺麗な笑顔だった。え。なぜだ?

「よかった。名称がわからなかったら処理にも困るしね」
「あら、ゴミ処理なんて未彩さんはしなくてよろしいですのよ? いえ勿論私もしませんけれど」

 どうやら恐ろしい女はもう一人いたようで。なんだコイツら椿先輩を完璧に人間としてみてないよな。いや、そりゃあ確かに人間じゃなく妹大守護神だけど……。

 
 そんなこんなでやっとこさ教室に着き。
 黒板を見て次の授業を確認し、——家庭科なら先生がユルいから寝れるな——教科書やらなんやらを取り出す為にロッカーのある廊下へ向かう。
 ふああ、と自然に口が開いて欠伸をしてしまうが、我慢をする状況でもないためそこらへんは体に任せる。さっきまで寝ていた(というより気絶していた)のにさがってきてしまう瞼をなんとか定位置で保ちながらロッカーの中を探り。

「——……って、ん?」

 一瞬後ろからの気配と視線を感じた、ような気がする。が……後ろを振り返っても、こっちを見ている奴など誰もおらず、適当にだべってる奴らしかいない。
 まあ気のせいか。そういうことはよくあるし。それに見られてたとしても特に意味はないだろうしな。

 

「……なんで、あの子が……?」


更新遅れてすみません><

謎の人物ご登場。さて、誰でしょうねー。