コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ある日の放課後の魔科学 第1話(完 ( No.16 )
- 日時: 2010/12/06 19:38
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: XvkJzdpR)
「——ようやく、現れたみたいだよ?」
可愛らしい声で少々男口調の持ち主、それは伊集院だった。
伊集院は、とある学校内部の教室へと訪れていた。
その教室前にかけられた立て札に書いてあるのは文字は、"放課後部"。
つまりはここは放課後部という部活の部室なのだという。
「本当かい? 雪乃ちゃん」
穏やかそうだが、少し口調の軽い返事が返ってくる。伊集院の目の前で少々大きな椅子に腰掛けている少年
この少年こそが、放課後部の親玉たる、部長なのであった。
「うん、本当だよ。今現在、瀬菜ちゃんと一緒に"雪平原の王国"の任務を遂行してるよ」
「へぇ……あの逢風君が誰かと一緒に任務を……」
興味深そうに何度も首を縦に振って頷く少年。
そして次の瞬間、表情を笑顔から崩さないその少年はいきなり立ち上がって言う。
「よしっ! 僕もそこに行こうじゃな——」
ゴスッ!
鈍い音が教室内を響く。
国語辞典がどこからともなく少年の額に向けて直撃したのであった。
少年はそのまま勢いで床へとぶっ倒れる。
そのなりゆきを別に気にしないように笑顔で伊集院は見守っていた。
「そんなことしている場合じゃないでしょうにっ!」
ツインテールの髪がヒョコヒョコと現れてきたと思いきや、怒鳴り声が次に響いた。
身長は高めで、スタイルが良く、足が長いそのツインテールの少女は怒った様子で少年へと近づく。
「仕事があるでしょうがっ! 仕事がっ!」
少年の耳元で、叫ぶ。
少年はその叫び声でやっと気がつき、はっとした表情を見せた後、ツインテール少女に微笑んだ。
「あ、きてたんだ」
「きてたんだ、じゃないっ! このドアホー!!」
ゴスッ!
またしても鈍い音が響く。
伊集院はそれでも見守り続ける。それは分かっているからだった。
——この夫婦漫才ものは毎度のことだ、と。
「な、殴らなくてもいいじゃないか。もう少しで気が飛びそうだったよ」
「さっき飛んでたでしょうがっ!」
胸倉を掴んでツインテール少女は少年をゆっさゆっさと振り回す。
おかげで少年は気分が悪そうに顔を青ざめる。
「あ〜……朔夜さん? もうそのへんでよした方が……」
ちょっとこれは危ないな、というところで止めに入るのが外野の役目であった。
その伊集院の声にこれまたはっとした表情をした後に、目の前の少年を見る。
既に少年は青ざめた顔、というよりもう既に失神している様子であった。
「し、死んでる……!」
「勝手に殺さないでくれるかな……?」
この朔夜と少年のやり取りもいつもどおりであった。
「はぁ……ごめんね? 雪乃。私がしっかりしないといけないんだけど……」
申し訳無さそうに伊集院に頭を下げる朔夜。
「あ、いえいえ。いつものことですから」
そう言っては手を横に振る動作もこれで何度目であろうか。
青ざめた顔からようやく復活した少年は、ため息一つ吐いた後に話を始める。
「とりあえずね……"この世界の救世主"の資格たる人がやっと来たみたいだよ」
少年は笑顔で人差し指を立てながら朔夜に言った。
「え? もしかして……"あの"?」
「そう。"あの"」
途端に朔夜は喜んでいるというか、怒っているというのかどちらの表情なのか分からない微妙な顔をする。
それは朔夜にとって喜んでいるのかどうかは幼馴染の少年でも分からない。
「まあでもこれで……やっと第一歩を踏み出せた、っていう感じかなぁ?」
少年は何度も頷きながら言った。
その言葉に伊集院と朔夜も同じように頷く。
「でもそれと同時に……面倒臭いことになるよねぇ〜……」
朔夜の言葉に少年と伊集院は腕を組んで頷く。
「ま、やるしかないよね」
伊集院の言葉を最後に、三人は一斉に頷いた。
「と、いうことで……白犬。仕事やんないとますますいけなくなったよね?」
朔夜が少年、白犬に向けて言った。
その言葉に「うっ……」と、顔を少々強張らせたような感じを出したが、渋々白犬は了承することにした。
「杜坂 木葉……友達になれるかなぁ?」
白犬はそんなことを呟きつつ、雑務という名の面倒臭さ№1の仕事場へと引きずられて行くのであった。
「ずずー……。お茶ってやっぱり上手いなぁ……」
「お茶じゃなくて、ドンブリ草ですっ!」
「その名前言うなっての! マズくなるからっ!」
「いいから黙って飲めないの!? このどアホっ!」
ゴスッ!
……横暴にもほどがある。
戦闘&自己紹介(俺抜き)を終えた後、白雪が少しのお礼と温かいお茶を出してくれた。
お茶といってもそんなものはこの世界には存在しないらしく、今飲んでるお茶によく似た味の液体は
ドンブリ草とかシュールな名前の液体である。
味はそんなに麦茶やらウーロン茶やらと変わらないのだが……名前どうにかならなかったか。
「ていうか、何でアンタまでいただいてんのよ」
「え? ダメだったのか?」
「私にお礼でってことでいただいてるんだから、アンタ関係ないじゃない」
確かにごもっともです。でも実はというとものすごく寒いんだわ。
時期が春だったから少し厚めの服だけども。やっぱり寒いことには変わりないわけで……。
実際のところ、これ飲んでいなかったらマジでキツかったと思う。
「ドンブリ草は心身を暖める効果がありますから」
なるほど。だからこんなにさっきから体がポカポカするわけである。
といっても……落ち着くなぁ……。これでコタツとみかんぐらいあれば文句無しなんだけど。
「そういえば、これからどうするの?」
不意に俺の想像をぶち壊したのは瀬菜だった。
だがしかし、この質問は俺も聞いておきたかった。そして出来るだけ早く帰りたかった。
「そうですね……まずはこの世界の事柄から説明しましょうか」
俺と二人で居たときはお前こんなにも落ち着いていなかったろうに。
それはともかくとして、白雪はゆっくりとこの世界の事の状況を話し始めた。