コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ある日の放課後の魔科学 ( No.18 )
- 日時: 2010/12/08 23:08
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: XvkJzdpR)
「何でアンタに仕切られないといけないのよっ!!」
「ぶへぇっ!」
情けない俺の断末魔と共に体が宙に浮く。
今回は蹴り。凄まじい速度で蹴られたために蹴られた胸辺りがものすごく痛い。
一瞬、母・姉・妹の姿が順々に俺の脳内を駆け巡ったが……あれが噂の走馬灯ですか?
「でもまあ……私も同意よ。貴方の覚悟はよく分かったから」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
俺の時は一言返事だったのにな……瀬菜の時は頭下げてまで……。
でも……いい笑顔だったな。今までとは格が違うようなとびっきりの笑顔。
こんな無邪気な女の子が、王国の姫なんだよな……。
そう思うと、白雪の凄さが分かった。
何事も一生懸命にやる、そんな熱意と思いやりを持っている。そう感じ取れるには充分だった。
「それで? まずはどこから向かうんだ?」
もう冷めてしまったドンブリ草を飲み干しつつ、白雪に聞いてみる。
「まず……目星がついているのは、魔獣の谷と断罪の塔と降臨の峡谷と覇王の狭間と——」
「まてまてまてぇっ!! だんだん物騒になっていっている気がするのは俺だけかっ!」
それと数が多すぎる。5つも回っていたら時間はいくらあっても足りないだろう。
「どれかに絞ったほうがいいわね……」
瀬菜がそう呟くと白雪は深刻そうな顔で頷く。
「実は、反乱軍が押され気味で……このままだと、本当に負けてしまうかもしれません」
つまりはタイムリミットは一刻と近づいていっているということだった。
本当、ゲームの世界だよな……これって。
「じゃあ急がないと……。どこか一つに絞らないと間に合わないわね」
「そうですね……」
しばらく白雪は黙り込んだ後、何かひらめいたかのように話し出した。
「……降臨の峡谷……! 降臨! そう、降臨ですっ! お父様がいってました!」
何をだ。
「降臨は召喚獣のあらゆる召喚の仕方を示すものとしてあると! つまりは……」
「そのキーワードの降臨のある峡谷が一番納得できるというわけね?」
「はいっ! その通りです!」
なんともまあ単純な考えだとは思ったが、言ったら即座に壁に頭がめり込んでいることだろう。
「なんていうか……単純な考えだとは思うけど、そこしか目星はないから……行くしかないわね」
言った。言いやがったよ、この野郎。
俺が言ったら壁に顔面めり込ませるくせに……!
「では早速準備をいたしましょう!」
てなことで準備が始まった。といっても俺は荷物運びをさせられたぐらいだが。
荷物の多いこと多いこと。食料やら玩具らしきものやら……本当にいるのか? これ。
馬車のようなものに乗せていく。そういえばこの馬車のようなもの、見覚えがあるな……。
馬車というほど大きくはなく、小さめの馬車のようなもの。
一体何が運ぶのだろうか、と思っていた時にその答えが自らやってきた。
「わんっ! わんっ!」
遠くの方から狼以上にでかい体の大きさを誇る二匹のハスキー犬みたいなのがやってきた。
どうやらあの二匹が引きずって運ぶようだが……
「ライ! レイ! ありがとう! ちゃんと届けてくれた?」
「わんっ! わんっ!」
嬉しそうに飼い主である白雪の手に甘えている二匹の犬で本当にこの荷物の量と三人運べるのかと思う。
「あぁ、大丈夫ですよ。これでもライとレイはかなりの力がありますから」
と、わざわざ白雪は説明してくれた。ちなみに王国から逃亡してきた時もこの二匹のおかげなんだそうだ。
「二人とも! もう出発できるわよー!」
瀬菜の声が聞こえてくる。その格好はコートやらなにやらを着て完全に防寒服装である。
対して俺は……
「ヘックショイッ!!」
「うるさいっ!」
「くしゃみぐらい許してくれよっ!!」
防寒服装など、全くなかったのである。
白雪は女の子ということもあって荷物は皆女性物。なのでマフラーだけ貸してもらった。
俺の装備、マフラーのみって……。
馬車こと犬車に三人とも乗り込み、荷物も完備してようやく出揃う。
まだ辺りは明るく、昼頃なのだろうか、俺のお腹がさっきから鳴いていて正直キツい。
「わんっ!」
一声、泣き声が前方から聞こえたと思うと、ものすごい勢いで犬車は走り出した。
「うわっ!」
あまりの勢いに転げそうになる。
白雪の言ったとおり、見た目以上にかなりの力があるようだった。
「そういえばさ。今気付いたんだけど、瀬菜——」
ゴスッ!
「何故叩きますかねぇっ!?」
「い、いきなり名前で呼ばないでよっ! バカッ!」
わけがわからん……。てか教えてもらったのは瀬菜っていう名前だけだ。
ちゃんと自己紹介もしてないだろうが。俺のことだけ知ってるクセに。
「……お前、あの蒼い剣どうしたんだよ」
何故か少し赤面していた瀬菜は我に戻ると、俺の質問に無愛想な顔に戻って答える。
「あぁ、あれ? もちろん、なおしたに決まってるじゃない」
「なおしたって……あんなバカでかいもん、どこになおすんだよ?」
すると瀬菜は自信に満ちたような顔をして人差し指を立てる。
「それが魔科学よ」
そういえばここに来る前に魔科学とかなにやら言ってたのを思い出す。
「それ、一体何なんだ?」
この世界に来たとしても何が何だかわからなかったんだが。
「魔科学っていうのは、その言葉通りに魔術と科学を合わせたものよ」
「えっと……つまりどういう意味だ?」
魔術と科学を合わせたものといわれても、いまいち実感が湧かないというものだ。
「そうね……例えば、剣の刀身に炎が宿ってるとか。科学によって生み出された物に魔法がついてるの。
そのようなものを魔科学と呼ぶし、魔法と科学を合わせ持つ異能の能力とか……種類は様々ね」
「へぇ〜……なんとなく分かった気がするよ」
珍しく瀬菜は分かりやすく説明を始めてくれた。
つまりあれだな。ゲームでいうRPGの特技か何かである奴だよな。
「その魔科学を使うものを総称して魔術師とも呼ぶわ」
何だかそれっぽくなってきたな。犬車に揺られながらも思う。
横では白雪も瀬菜の説明に夢中だった。だからだろうか、瀬菜がここまで丁寧なのは。
「魔術師には魔術師の専用の名前も付くの」
「へぇ……お前は何て魔術師名なんだ?」
まさか自分が言われると思ってなかったのか、少々驚いた顔をして自分を指をさす瀬菜。
「私? 私の魔術師名は……"憂鬱"っていうの」
「憂鬱……か」
——何ともお似合いな魔術師名だな。なんて言ったら何されるかたまったもんじゃない。
それより"横暴"の方がいいだろう。そっちの方が似合ってそうだが。
周りは一面雪景色。これが世に言う銀世界というものなのだろうか。
ガタゴトと猛スピードで駆けていく犬車の目指すは——降臨の峡谷。
そこには何が待ち受けているのか。それはこの世界の物語が急展開に差し掛かるものだとは
誰も思っていなかっただろうな。