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Re: ある日の放課後の魔科学  ( No.19 )
日時: 2010/12/09 19:42
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: XvkJzdpR)

「寒っ……!」

寒さにより、目が覚める。
どうやらいつの間にか寝入ってしまっていたようだ。速度はこんなにも速いというのによく寝れたな。
あ、そうか。寒いからか……。寒いとすぐに眠気くるもんな、うん。
とはいってもマフラー一つだけの防寒では寒いのは当たり前だろう。
何か無いかと寝ぼけた顔で少し暗い犬車の中を手探りで探す。

「ん……」

すると、近くからとても甘い匂いと共に色っぽいような声が。
男からはまず発しないこのダブルパンチに俺は少々寝ぼけた頭で考える。

「えっと……?」

そういえばさっきから肩が何か重いような気もする。だけどもいい匂いがするので離したくない。
ついでにいうと少し温かい。これはまるで人間の体温のように——人間の体温?

「……マジでか……!?」

今の状況。
それは、その温もりのする方向へと横目で見ると分かった。
——肩の上に、美少女こと瀬菜の顔がある。

「すー……すー……」

静かな寝息をたてている。少し薄暗いとはいえ、その寝顔はハッキリと見ることが出来た。
まてまてまて。この状況は一体なんですか?

(う、動くに動けねぇ……!)

少しでも動くと、肩から頭が離れて目が覚めてしまうだろう。
それにしても甘酸っぱい匂いはおいといて……すごく寝顔は可愛かった。

「大人しい性格だったら大層モテるだろ……これ」

10人に聞いて8、9人は瀬菜のことを美少女と総称することだろう。
その美少女は……今現在俺の肩の上で睡眠中です。
対して、白雪の姿を探してみる。すると真正面でこれまた可愛らしい顔で眠りに入っていた。
横になっており、荷物を抱き枕代わりに抱きついている姿からみて、到底王女などとは思えない。

「つーか……健全な男子高校生をここにおくなよ……! 今更だけど、この組み合わせダメだろ!」

美少女二体と健全な男子高校生。それが一つ犬車の中で眠りに入っている。
……この世界に警察なんかがいたら間違いなく俺は掴まるだろうて。

「ふぅ……まあいいか」

温かいものを探す気がだんだんと二人の寝顔を見ていると失せてきた。
てか今は素直に健全な男子高校生としてこの幸せの温もりを感じていたい。
起きたらまたどうせ俺にとっては猛獣となりうるのだから。

「わんわんっ!」

犬の鳴き声がしたかと思いきや、いきなり犬車はその場に停止した。

「うぉっ!」

急ストップするわけだから、その不可抗力で俺はよろける。
そのよろけた先には、瀬菜。

「きゃっ!」

可愛らしい叫び声と共に俺はすごい勢いでもつれていく。

「いてて……ん?」

何だか柔らかいものが俺のおでこに。
何だろうと思い、顔をあげてみると——イッツ、太もも。

「あ、えっと……その」

視線をゆっくりと上の方にあげますと、そこにはまさしく10人中10人が呆けた顔と言える顔をしていた
その顔は段々と綻んでいき、とんでもない赤面状態になる。

「イヤアアアアッ!!」

「ぐへぶぁっ!!」

ものすごい勢いで俺は犬車から吹き飛ばされ、地面一面埋もれている雪へとダイブした。




「ふんっ!」

「ぞんなおぼんばいべぶばばい(そんな怒んないでください)」

俺の頬は上手く喋れないほどに膨れ上がっていた。
もしかしてこれ、顔の骨歪んでる?

「木葉、こっち向いてください」

「べ?」

バキッ!
目の前が真っ白になる。そしてその次に真っ黒に。頬を思い切り殴られたと知るのに時間がかかった。
てか音がひどくないですかっ!? 絶対これ俺の顔半端ないことになってるよねぇっ!?

「何するんだよっ!」

「ほら、治りましたでしょう?」

「え? あ……そういえばそうだな」

白雪に蹴られた衝撃に治るって……俺の顔はギャグマンガか何かか。
ていうかあんだけ膨れてたものが治るってどんな蹴りを喰らわせたらそうなるんですか。

「大体、アンタが悪いんじゃないのっ! 思い出しただけで気持ち悪い……!」

「やかましいっ! 俺は好きでああなったんじゃないわっ! それにお前——!」

と、言いかけて直前で黙る。
これを言ったらそれこそ思い切り殴られる、というか原型をとどめてはいないだろう。
俺の肩に頭をのせて寝ていたことは瀬菜自身も知らないことなのだった。

「な、何よ?」

寒さのせいか、少し頬が赤くなりつつも瀬菜が俺に睨みを利かせて聞いてくる。
なんて答えようか……? 相手を怒らせない、そして機嫌がよくなる言葉といえばっ!

「お前の寝顔の可愛さに見とれてたんだよ——ぶはぁっ!!」

またしても俺は宙へと舞い、白雪に殴られ、なんとか原型をとどめた。
蹴る直前の瀬菜の顔がさっきよりもかなり赤かったのが謎だが気にしないでおこう。


降臨の渓谷というのは想像以上に綺麗だった。
一面、銀世界というのもあると思うがそれ以上に渓流がものすごく透き通っていて綺麗であった。
この場所ならば伝説の召喚獣の一体か二体かはいてもおかしくはないだろうと思えるぐらいだ。

「ライ、レイ。ありがとうね」

「わんわんっ!」

嬉しそうに目を細めて主人の白雪の手に甘えるバカ力の犬二頭。

「それじゃあ、いきましょうか」

白雪の言葉に俺と瀬菜はゆっくりと頷いて答える。
自分用の荷物——といってもほとんどは瀬菜と白雪の荷物を持つ、荷物持ちでしかないのだから。

「だってアンタ、まだ魔科学とか使えないじゃない」

反論、全く出来ません。そんな力、昨日今日でいきなり使えといわれても出来るわけがない。
よって、俺の荷物持ちは確定となった。

身軽な瀬菜と白雪は意気揚々と綺麗な渓谷を歩む。
俺も後ろで鼻息の荒い犬二頭と共に歩く。
渓谷に入る瞬間、何故だか入ってはいけないような気がした。
それは危険を察知するのか、それとも別の何かかは全く分からない。
とにかく、入ってはいけないような気がしてならなかった。