コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ある日の放課後の魔科学 ( No.20 )
- 日時: 2010/12/11 01:31
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: XvkJzdpR)
歩くこと数分。
目の前で呑気にも談笑しながら歩いている美少女二人を見ながら重たい荷物を背中に背負う俺。
何たる格差とも思うが仕方ないことだとため息を吐く。
(それにしても……あれから何時間経ったんだ? 夜は更けて朝みたいだし……)
日の光で輝かしく銀世界が輝いている。だが、どういうわけか"太陽自体が見えなかった"。
普通、光は太陽から発せられるはずである。だがしかし、この世界は太陽がない。
地面が光っている。そう言った方が正しいのかもしれない。
薄暗くなっていた時はこの光は消えていたのか。いや、かすかに見えたので光が全て消えたわけではない
この世界の正体がますます分からない。何がどうなっているかもわからない。
ただただ、この世界を綺麗と形容する他はなかった。
「いつになったら帰れるんだろ……」
目の前をさっさと行く美少女二人に聞こえない程度の声で呟く。
聞こえたら無論、瀬菜に吹き飛ばされ、白雪に顔を治されるだからだ。
……何か言ってて悲しくなるなぁ……。
ふいにあれだけ嫌だった母と姉の姿、そして唯一の味方だった妹の姿が目に浮かんだ。
(今頃あの三人は俺がいないことでパラダイスしてんだろうな……)
何せ、俺が一番食事代を消費していたからである。
食べ盛りなのだからこれはまた仕方ないことだろう。だがしかし、母と姉は許してはくれない。確かに家計が厳しいというのは分かるのだが……
この空腹に代えられるものはないだろう。健全な男子中学生からすると空腹は一番の敵だった。
そういえば今現在も腹が減っていることに気付く。
こっちに来てからまだドンブリ草ぐらいしか食うというより飲んでないからな。
母と姉の食費削減のおかげ大抵は飯をあまり取らずにはいられることはいられるが……。
さすがに一日茶一杯だとキツいって。
「何かないのか……?」
ガサゴソと荷物を探ってみる。
この荷物はほとんど白雪と瀬菜のものだと知っているがそれは承知の上だ。
食べ物の一つか二つぐらい年頃なのは同じだし、持ってきているだろう。
気付かれないようにこっそりとまずは瀬菜の荷物を探る。
軽めの小型ナップサック形状だった。さて、中身は……。
今の俺にはプライベートなどというものがなかった。かなり腹も減ったことだしな。
中を覗くと——お菓子が予想通りありました。
クッキーだった。非常食程度のようなものなのだろうがこれでも腹の足しになるのだから食う他はない。
他にもかなりの量のお菓子があるので一つや二つ食ってもバレないだろうと思った。
クッキーのお菓子の袋を開け、口へと放り込む。
……上手すぎる。こんなにも質素なクッキーが上手いと感じたのは今までの中で初めてのことだろう。
よく噛み締める。そしてもう一枚を手にしようとした時だった。
「……何だこれ?」
ナップサックの中から一枚、紙のようなものがあった。
隠していたのだろう。よく見なければ見つけられない。自分でもよく気付いたなと思う。
「もしかして……」
瀬菜の秘密か何かか? ……だとすると立場を逆転することだって可能だろう。
……よしっ! プライベートだろうがこれは俺の権力そのものっ!
俺を信用しすぎたな! コキを使ったのが仇に——
紙のようなもの。それは写真だった。
その中に写っていたもの。それは目を疑うようなものだった。
「何で……
俺が……いるんだ?」
その写真の中には、優しそうに微笑む瀬菜の姿と——俺の姿。俺の姿がそこにあったのだ。
俺は確かに瀬菜とは一つも顔を合わしたことなどないはずだ。だというのに。
「どういうことなんだ……?」
俺は、瀬菜を知っている? 高校という場で会う前から、瀬菜のことを。
俺が忘れている? 俺とアイツの関係は一体?
その他に写ってる人は、俺の姉と妹。そして知らない綺麗な女の人の姿。
「……気のせいだろ。俺に似ている別人。それしかありえない」
そういって写真をナップサックに戻そうとした時
「——何立ち止まってんの?」
「うぉぁっ! な、何でもねぇよっ!!」
こちらに歩いてくる瀬菜の姿を見て咄嗟に写真を押し潰すような形でポケットの中にしまいこむ。
不思議そうに首を傾げ、表情は呆れた顔で俺を凝視する。
「何してたの?」
「い、いや……」
そこでハッと気付く。
(クッキー隠すの忘れたああああっ!!)
手をナップサックとクッキーごと後ろに隠したが時既に遅し。
「………」
クッキー凝視。ナップサック凝視。
「えーと、これはその——」
「見た?」
「……え?」
一瞬、何を聞かれたのか全く分からなかった。
そして、あの写真をふと思い出す。ポケットの中に押し込んだ写真を。
「な、何をだよ……?」
「………」
黙って、さっきまでの呆れた顔などとは違い、鬼の形相などというものでもなく
——不安気な、今にも泣きそうな少女の顔がそこにあった。
「……"逢風"?」
「ッ!!」
苗字で呼ぶと急に目の端に瀬菜が少しの涙を浮かべたような気がした。
そしてどんな野獣よりも速い速度でナップサックとちゃっかりお菓子までもを取る。
「……写真。この中に入ってた写真」
やはり、あの写真のことだった。
白雪が「どうしたんですか?」と、不安げな顔で近づいてくる。
あぁ、こんなことなら空腹を我慢しておくべきだったと今更ながらの後悔。
これはきっと、瀬菜にとっての何かなのだろう。そこに俺似の男が写っているとして……。
あぁ、じゃああれか。昔にフラれたとか? この男に。だから俺に因縁を持つわけで……なるほどな。
「……見てない」
俺は、嘘を吐いた。
それは良い嘘なのか悪い嘘なのかは分からない。ただ、言えることは
今此処で、このことを話すべき時じゃないということだった。
「……まあいいわ。先を急ぎましょう」
俺を少々睨み付けた後、何故か怒った足取りで前を歩きだした。
この行動が、果たしてよかったのだなんて、俺には分かりっこない。
瀬菜とは、つい昨日今日に会ったばかりなのだから。