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Re: ある日の放課後の魔科学 2話完結 ( No.21 )
日時: 2010/12/12 01:07
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: XvkJzdpR)

一方その頃。
この銀世界の中心部に位置する巨大な白銀の色をする城では、逃げ帰った公爵おっさんが報告を告げていた

「ふむ……救世主が現れた、と?」

いまや大きな顔をして偉そうに王座に居座っている男が報告を受け、髭を撫でながら答えた。

「は、はい! 確かにあの者たちは救世主と! さらにはあの恐ろしく強い力! 本物かと!」

城の中といえど寒いこの雪の世界で脂汗まみれて必死に先の戦闘のことを話す公爵おっさん。
その様子はただ事ではないことは明らかに見えた。周りを囲む兵士たちはざわつく。
だがしかし、王座に座っている今現在城を制服している最高責任者である大臣は動じない。
右手を挙げるだけで兵士は押し黙る。何も言わなくても既に王としての風格が出ていた。
そして、表情一つ変えないのである。それは我がこの国の王と言っているかのようであった。

「案ずるな。それが本当だったとしてももう遅い。反乱軍はほぼ壊滅に近い。
残りは最後の拠点たる降臨の渓谷を潰すだけだ」

「しかし! あそこには代々封印されてきたとされる伝説の召喚獣が……!」

「黙れっ! ワシに指図するか!」

兵士は大臣の一言で黙る。それほどの迫力があった。
昔から本当の王のために仕えて来た兵士たちだったが大臣の方が魅力的であった。
大臣は、人を使うのが上手く、なお財政などにも積極的でまさに王たる風格を持つ男だった。
それに比べ、普段穏やかで平和な王は大臣のような野心がなかった。
誰にでも甘かったのである。普通ならば打ち首という厳しい処罰を与えるべきものを救うほどである。
正直、兵士たちの大半はそんな甘い王についていけないという部分もあった。
そして、大臣が反乱を決断し、現在は大臣が王の立場に立っている。
財政などは暴政で、いや元から暴政だったのである。
大臣が王の立場について見てようやく兵士たちはわかったのだ。

——あの王がいたからこそ平和だった。野心などとバカなことを考えるのではなかったと。

「さぁ……支度をせよ! これより降臨の渓谷より進行を開始する!」

現在の王、大臣は聖獣とも呼ばれる伝説の召喚獣が封印されているとされる聖なる地をも
——踏み潰そうとしていたのであった。






「追えーっ!」

「そっちに行ったぞっ!」

騒々しい声と鉄と鉄の擦れる音が普段は穏やかな森を想像しく荒立たせていた。

「クソ……!」

少年は木の陰から騒々しく音の響く方へと向く。
王国の紋章を鎧に描いているものを装備した兵士が何人もいた。
手には槍や剣やら武器を持たれている。
キョロキョロと周りを見た後「こっちだっ!」と言ってどこかへ走り去ってしまった。

「ふう……」

ようやく落ち着いた静寂の時に少年は首にかけてある小さな写真入れを開いた。
中には、幸せそうに笑っている穏やかそうな男と少年の姿。そして、可愛らしい白き少女——白雪がいた。

「白雪……どこにいるんだ……!」

写真を強く睨むようにして見た後、少年は立ち上がる。
その端正な顔立ちに綺麗な銀色の髪をし、格好はいかにも剣士といった格好。
後ろ腰には長く、少々大きめの長剣が携えられている。

「父さん……! 白雪……!」

いまや敵となった写真の中に写っている兄弟の姿を見る。
どうしてこうなってしまったのか。大臣が反乱を起こしたかといって此処までなるものなのか。
——何かが裏で動いている?
そう、感じ始めていた。
この少年、王国の子息の内の一人であるシヴァンはいまや子息の中で唯一の味方である白雪を探す。
ただ一つの目的地である、降臨の渓谷へと向かっていった。






「つきましたっ!」

白雪が大きな声で言った。
そこは巨大な石……じゃないな。堅い何かの物質で作られた柱が聳え立っていた。

「ここが……その召喚獣が眠ってるという場所?」

その巨大な柱を見上げる形で瀬菜は白雪に言った。

「はいっ! そうです!」

白雪はその言葉に笑顔で返事をする。そして、決意したような顔を見せる。

「……俺を忘れていませんか?」

「……あ、生きてたの?」

「死んでたまるかっ! ていうか人に荷物持たせてたクセして何その態度っ!」

俺は息切れしながら瀬菜に思い切りツッコむ。
今現在瀬菜は荷物を持っているが白雪の荷物は未だ俺が持っていた。
正直、この重たい荷物の内で瀬菜の荷物は10分の1程度の重さである。
全く重さなど変わるはずはなく、少しは減ったかもしれないが全く関係なかった。
だというのにあの言い様。この野郎……少しは感謝しやがれっ!

「それで? ここで一体何を——」

ヒュン!
目の前を風が切るような音が通過した。いや、音ではなく、正確に言うと——弓矢である。

「……え?」

ダメだ。俺の脳内が事の事態に追いついていけない。
弓矢の放たれた方向をゆっくりと向いてみると、そこにはゴツいおじさんが10、3人ほどいた。
手には物騒な武器がわんさかと。

「お前ら……何者だっ!!」

その中でも特に若い男が怒鳴った。
瀬菜はいつの間にか剣は出していないが動じることなく、相手を見据えていた。
白雪は「あっ!」とでも言いたげな顔をしている。

「あっ!」

本当に言ったよこの子。

「違うんですっ! 将軍! 私です! 白雪です! この者たちは救世主です!」

ちょっと待てええええっ! あんな怖い人らにこんな少年少女が救世主っていっても……!

「な……! そうとは知らず! 申し訳ございませんでした!!」

え、えぇ〜〜……。
今更ながらこの世界の人って皆信じやすくないか? 基本いい人だからなのだろうか……?

「私の言葉は反乱軍の方たちには絶対なのです」

白雪はこっそりと俺に言った。
そうか、そういえば白雪は王女だったな……。
何ともこの光景は滑稽だった。年端も行かない少年少女に頭を下げているゴツいおっさん達。

「申し遅れました。反乱軍総司令官、エルゲート・グランセルと申します」

どうやらこのゴツい男の人たちは反乱軍だそうだ。
その爽やかとも言える笑顔を放つエルゲートはどこか親近感が湧いた。

「ようやく……我らの反撃の時でございますか!」

エルゲート将軍は白雪に興奮した様子で言った。
その言葉に大きく頷く。
それだけで他の兵士、反乱軍は大きな歓声をあげた。

白雪は本当に王女なんだとこの時ハッキリと認識できたほど、どこか小さき少女に風格が出たのだった。


——戦いの時は一刻と一刻と迫っていた。
……俺は果たして生きて帰れるのだろうか。