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Re: ある日の放課後の魔科学  ( No.35 )
日時: 2010/12/15 22:51
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: XvkJzdpR)

しばしの沈黙の後、王国側の指揮官辺りの怒声によって戦いは始まった。

「打てええええっ!!」

騒音と共に放ち飛ばされる火の玉。それを必死に大きな盾のようなものでガードする反乱軍。

「魔導師か……いいだろうっ! 俺が相手をしてやろうではないか!」

エルゲート将軍は自分が指揮官という立場だということを忘れたかのように敵陣へ歩いていく。
味方は——誰も止めない。それは彼にとって無謀ということばでも勇気という言葉でもなく
信頼という思いがエルゲート将軍を、兵士たちを突き動かしていた。
エルゲート将軍は背中の大剣を抜き、構えるとその場で静止する。
王国の無数の軍勢は止まることなく猛進してくる。
動じることもなく、恐れることもなく、エルゲート将軍はその場で止まっていた。

「構わんっ! 突撃しろぉっ!!」

エルゲート将軍には遠すぎて届いていないが、ジースが立ち上がり、叫んだのだ。

王国の兵士たちは勢いをそのままにしてエルゲート将軍に斬りかかっていく。

「——ぬんっ!!」

たった一振りだった。
エルゲート将軍のたった一振りの攻撃で敵数人は吹っ飛ばされる。
大剣を軽々と振り回すとそれを王国兵士に向けて斬り付ける。

「ぐああああっ!!」

様々な叫び声と共に王国兵士たちは吹き飛んでいく。その姿はまさに将軍という名にふさわしかった。

「今は王国を離れているが……俺の忠義は未だにかつての王へと忠誠をくだしているっ!!」

大剣をまるで槍のようにして振り回し、敵を圧倒していく。
その姿を見て王国兵士たちはたちまち恐ろしく、畏怖することになる。

「こ、これが……! 元王国の将軍……!!」

「か、勝てっこねぇっ!!」

終いには逃げ出す兵士さえもいた。
戦場の中に煌く白い鎧。そして黒々と、そしてまた白々と光る大剣。
それらがエルゲートを将軍たるものに彩る。

「さぁ……どうした? かかっこいっ! 小童共がっ!!」

味方にとっては何たる心強さか、そして敵にとっては何たる畏怖すべき化け物か。

「は、放てええっ!!」

次にエルゲート将軍に飛んできたのは——火の玉の連続である。
一斉に魔術師にエルゲート将軍のみを狙うように指示したのだろう。

「ッ!! ……はああっ!!」

エルゲート将軍は構うことなく、その火の玉を切り裂く。
だが次から次へと火の玉が襲ってくる。これでは幾らなんでも防ぎきれるはずはなく、いくつか直撃する。

「くっ……!」

直撃した後から火傷の損傷が少しはあった。鎧のおかげなのか随分とダメージは少なかった。
この鎧は——自らが忠義を誓ったかつての王からいただいたものであった。

『この鎧は、おぬしのために使った最高峰の鎧じゃ。魔法さえも威力を半減する力を持つ——』

ふと、忠義を交わした王の言葉と姿が目に浮かんだ。
その王は、今は城の牢屋に一人寂しく閉じ込められているのだ。
どういう扱いを受けているのかも分からない。それだけでも心が苦しかった。

(王様……! お待ちくだされっ! 私は……白雪様とシヴァン様をお守りし、貴方様を……!)

心でもう一度忠義を交わす。あの優しき王の笑顔がもう一度見たかった。
自分の大切な守るべき白雪やシヴァンのとびっきりの笑顔も、また。

「かかってこいっ! 貴様らごとき、このエルゲート・グランセルが葬ってやろう!!」






「走れ走れっ!!」

俺たちは一方——王国兵士に追いかけられていた。

「そこから先へは行かせんっ!!」

兵士の一人が俺たちに叫びながらも全速力で追ってくる。
俺と瀬菜、白雪が向かっている場所は無論、あの柱の立っている場所である。
戦場と幾分離れた場所でも、この綺麗な渓谷では高い場所から見ると一目瞭然に見つかってしまうわけで。

「はぁ、はぁ……!」

白雪の顔はものすごく辛そうである。
見た目と同じぐらいにか弱かった。そんなか弱い体でたった一人頑張ってきたのだ。
それだけでもかなり苦痛だというのに。

「大丈夫か? 白雪」

「は、はい……はぁ、はぁ……大丈夫です……」

口ではそう言うが、言いぶりといい、また様子からして辛いのは見ただけで分かった。
本来ならば「休むか?」と、言いたいところだが生憎後ろからは追っ手が全力で向かってくる。
重い鎧をつけているが速度的には疲れている白雪には申し分ない。

「くそっ……! 犬コロっ! まだか?」

俺は隣をせっせと走る標準サイズではない白い犬、ライとレイに話しかける。
だが双方して小さく唸るだけで、まだ先のようであった。

「どこも同じ風景だから見分けつかねぇよ……!」

綺麗すぎて、見分けが付かないということがあった。
それに、丘が思った以上に多く、大きな柱といってもそのいくつもの丘で隠れてしまっている。
これでは柱に着く前に白雪がパンクしてしまうだろう。

「あっ——」

そしてその時は突然にして現れた。
白雪がコケたのである。

「白雪っ! 大丈夫か?」

「はぁ……はぁ……すみません……迷惑をおかけして……」

もう、限界のようだった。
白雪を俺は腕で抱きかかえる。今の状況は俺が白雪をお姫様抱っこしているような形だ。

「やっと観念したかっ!」

王国兵士たちはすかさず俺たちに追いついた。向こうも息切れをしているが圧倒的にこちらは不利であった
疲れている上に弱っている女の子を抱きかかえているのだ。

「ッ……!」

何故だか瀬菜が怖い顔をして俺の方を睨んでくる。
後ろでは王国兵士がだんだんと近づいてきているというのに。

俺は、ある決心をした。
この目の前で、辛そうにしている女の子も覚悟を決めているのだ。
俺も、覚悟を決めないと見せ場ないだろ?

「瀬菜」

「な、何よっ!」

ゆっくりと王国兵士たちが近づいてくる中、俺は出来るだけ真剣な顔で瀬菜に言った。

「瀬菜の力で、足止めしてくれないか?」

「それって……身代わりってこと?」

瀬菜の声は震えていた。
あぁ、俺は最低な奴だとは思った。だけどこれしかない。
これしか、エルゲート将軍との約束が果たせない。
——ごめん、こんなアホ頭で。と、何回も何回も心の中で謝った。

「必ず戻る。だから……瀬菜! お願いだ。こいつは今必死で頑張ってる。
エルゲート将軍も、反乱軍の人たちも、皆! 瀬菜の力が必要なんだっ!」

「ッ!!」

瀬菜はその顔と口ぶりによって顔を思わず驚愕させてしまう。

『頼む。お前の力が必要なんだっ! 瀬菜!』

——まるで、あの時と同じように。

「……分かったわよ」

「本当かっ!?」

俺が瀬菜に感謝の礼を言おうとした時、既に王国兵士たちは俺たちの元へと駆け寄っていた。

「何を呑気にお喋りしてやがる!」

そんな王国兵士の声も耳にせずに瀬菜はそっぽを向いて俺に言う。

「は、早く行きなさいよっ! ここは任しなさい!」

顔を何故か真っ赤にしつつ言う瀬菜に感謝でいっぱいだった。
俺はその言葉を受け取ると、白雪をお姫様抱っこしながら駆け出した。

「何してんだっ! 逃が——!」

王国兵士の言葉が詰まる。
何故かというと、答えは明確だった。
顔を真っ赤にして今にも泣き出しそうな瀬菜の姿があったからだ。
そしてその顔の他に、右腕から蒼い魔方陣が発動されていた。

「木葉なんて……木葉なんて……! バカああああっ!!」

瀬菜は自分でもよく分からない感情に任せて剣を振るうのだった。




「大丈夫だからな……! 白雪!」

俺はただひたすら走る。
腕の中で苦しんでいる小さな少女を抱えながら、ただただひたすらに
——俺の、出来ることはこれぐらいしかないだろ!!
そんな気持ちを胸に駆けていく。目指す伝説の場所へと。