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Re: ある日の放課後の魔科学  ( No.37 )
日時: 2010/12/16 23:42
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: XvkJzdpR)

シヴァンは走っていた。
白雪を探すためということもあるが、近くから戦いの音が聞こえてきたのである。
武器と武器が触れ合う音。魔法が地面を壊し、破壊している音。
この丘を抜けた辺りにから聞こえる。
息を荒げながら、丘を越えていく。そして、見つけたのだった。
——倒れこんでいる白雪と、その傍で見守る少年。その少年の目線の先に巨大な大砲があることを。






——しまった。瀬菜は後悔の念と共に焦りが出ていた。
木葉に任せるべきでは、やはりなかったのだ。
これは守る守れないの問題ではない。
守るといっても加減というものがある。いわば相手の隠し持っているとされる兵器とやらのこと。
それで狙い撃ちをされるとなると——結果は頭に浮かべるだけで恐ろしい。
そんな恐ろしい出来事が今目の前で起ころうとしていた。

「木葉っ!!」

再び出会って、ちゃんと木葉宛に名前で呼んだの初めてだろう。
その"二度目の初めて"がお別れになるということは考えたくなかった。

(どうして自分は……!)

そう考えてももう遅い。
昔のような人柄のままで安心したということが招いたことだった。
確かにあの状況はこうしたほうが効率が良かったかもしれない。でも、離すべきではなかったのだ。
また失うのだろうか。大切な人を。
大切な、今は"亡き姉"の姿が瀬菜の目に浮かんだ。

「木葉〜〜ッ!!」

虚空へと、目の端に涙を寄せた瀬菜の叫びが戦場を響いた。




「……ッ!」

その事実はまた、エルゲート将軍にも壮絶が走った。
木葉は普通の人間。それは知っていたことだ。
だがしかし、エルゲート将軍は木葉に全てを託した。自分が守るべき主君、白雪を。
それは救世主としてではなく、男として頼んだことだった。
——きっと、木葉殿ならば白雪様を……!
エルゲートはそう信じていた。

「どうか……どうか……!」

エルゲートは、戦場の最中で祈りを告げる。
——ご無事でいますように、と。可能性の限りなく低いことをただひたすらに。

その二人の行動は、一瞬だった。
無情にも、レールガンは発射される。


「木葉〜ッ!!」「白雪様っ!!」


二人の言葉が虚空を舞う刹那、

「はああっ!!」

レールガンは、直撃する。
だが、その直撃する瞬間に——少年らしき声が響いたことも知らずに。






俺は何が起きたのか全く理解不能だった。
ただ、目の前が真っ白になった。そんでもって今は真っ暗である。
——あぁ、これ死んだのか?
そう思った。だが、手元に温もりが感じられる。
その温もりを感じた時、自分が目を閉じているということが感覚で分かった。
おそるおそる、目を開けてみた。

そこにいたのは、白銀の色をした髪とマントを煌かせ、両手剣を握り締めている——美少年がいた。

「はぁ……はぁ……」

その少年は見ると鎧を着ているが既にボロボロの状態で、満身創痍に近かった。
ふと、横を見ると息切れが少々収まった白雪がいる。
少しばかり柱から後ろに遠ざかっているということは吹き飛ばされたか何かしたのだろう。
そういえばさっきから耳がキーンってなっているのにも今更だが気付く。
とにかく、今分かっているのは——助かったのだった。

「あんた……一体?」

俺は、目の前の美少年に呟くようにして言った。
見る限り、この少年がレールガンとやらを止めたと見て間違いなさそうであった。
だけど、どうやって?

「こっちが逆に聞きたい」

その美少年は後ろを振り返ると俺を睨むようにして見る。

「お前は、白雪の何だ? 場合によっては……」

め、目が怖い……! 美少年というより、今は鬼人のように見えるのは目の錯覚だろうか?
口に溜まった唾を一気に飲み込む。俺は目の前でチラチラと見える剣から目を外し、美少年の顔を見る。

「俺は……」

決心したような顔で、立ち上がり、言った。


「この世界の救世主だっ!」と。


「………」

美少年は、そのまま黙って数秒間、俺の顔を睨むようにして見つめるとため息一つ吐く。

「俺が来なかったらどうなっていたか分からないのにか……?」

「うっ……」

それを言ったらお終いでしょうよ……。
俺は不思議な力が使えるわけでもなく、また飛びっきり強いわけでもない、通常の男子高校生なのだから。
俺が思わず言葉を詰まらせてしまうと美少年は何故か手を俺の方へと差し伸べてきた。

「俺の名はシヴァン。お前は?」

美少年が言った。表情はクールといった表情のままだが、それがこのシヴァンという奴のキャラなんだろう
俺は、相手の手を握り締めると出来るだけ顔を綻ばせながら言ってみる。

「俺は杜坂 木葉。救世主だっ!」

「二度も言わなくていい。それになんだその表情は。やめておいたほうがいいぞ」

あっさりと斬り捨てられた俺は呆然と美少年の顔を見る。だが、それも一瞬であった。

「白雪っ!?」

美少年はものすごい速度で傍で眠っているに近い状態の白雪に声をかけた。
そして、体を揺さぶり始める。
ていうか、今まで気付いていなかったのかよ……。それこそ、問題だと思うが。
クールに見せかけて実は天然とか? ……そんなまさかな。

「ん……おにい、様……?」

少し激しいとも思えるシヴァンの揺さぶりに目をゆっくりと開ける白雪。
そしてその可愛らしい口から出た言葉に俺は驚愕しないわけがなかった。

「お、お兄様!? てことは……5人いるご子息の内の……一人?」

「あぁ、そうだが? それより、どうして白雪にここまで無茶をさせたんだっ!」

当たり前のように言われる。そして最後の方の言葉に多少ムカついた。
お前こそ、今まで何をしていたんだと言いたかった。
お前がいない間、白雪はずっと頑張っていた。それを悪く言われているような気がしてならなかった。
だが、すぐにシヴァンは顔を俯き、歯を食いしばった。

「そうか……。俺が、悪いのか……」と。

気付いていたのだ。自分が一人にさせたからということを。
だが、白雪はゆっくりと手を挙げると笑ってシヴァンの顔に触れる。

「お兄様……? 私は、大丈夫です。聖獣を召喚し、この戦いを治めて……また……」

白雪はゆっくりと呟いていく。
その言葉でシヴァンは震えていたが、それを堪えてなにやら瓶を取り出す。

「これを飲むんだ、白雪。きっとすぐに良くなる」

そうして、シヴァンに渡された薬を飲む。ゆっくりと、慎重に。
すると、白雪の体が光ったような気がした。RPGのゲームの回復魔法みたいに。
この時、そういえばあのライとレイの姿がないことに俺はこの時、気付かなかったのだった。




俺たちがそうこうしている間、王国側は騒然としていた。

「ば、バカな……! 防いだ、だと?」

ジースは予想外の出来事に開いた口を閉じることが出来なかった。
双眼鏡で確かめてみるに、止めたのは美少年。それもハッキリと見覚えのある美少年であった。

「し、シヴァン……! あの剣は……まさか……"破魔剣"……!?」

「破魔剣? それは一体何なのですか?」

ジースの言葉に側近の兵士が近寄り、尋ねる。

「魔法を防ぐ唯一の剣だ。伝説の剣とも呼ばれる……魔法を破壊する剣のことだっ!」

ジースはやけくそになったかのようにして再び新しく持ってこさせていたグラスを床にたたきつける。
床に響く鋭い音はまるでジースの怒りを示すかのようだった。
だが、その次の瞬間、ジースは狂ったように笑い出した。

「じ、ジース様……?」

側近の兵士たちは強張った表情でジースを見る。
あの冷静かつ、政治に頼れる元大臣の姿などもはやどこにもなかった。

「破魔剣には、一つ弱点があるのだっ!」

「弱点……と、言いますと?」

側近の兵士が呆けた声で聞くと、ジースは一つ深呼吸をした後、元の椅子へと座りなおす。

「魔法を破壊するためには自らの魔力も必要なのだ! あれは諸刃の剣。すなわち……繰り返しレールガンを放つとあやつの体の方が先に壊れてしまうということよっ!」

と、言って邪悪に、不気味に笑い声をあげる。
兵士たちはそんなジースをただ不気味な顔をして見つめるばかりであった。




「よかった……」

瀬菜は、その場で脱力して冷たい雪の地面にへたり込んだ。
少しだけだが、見えたものがあった。
それは、突如として別の丘から舞い降りてきた美少年の姿。
そして、信じられないことに剣を振るうだけで美少年はレールガンを消え失せさせたのだった。
つまり、これが意味することは
——木葉は、生きている。それを知った時に不意に力がだんだんと抜けてきたのである。
それから数秒経った後、瀬菜は立ち上がる。
——その瞳には、怒りの炎が燃えていた。
瀬菜は猛烈な走りを繰り出し、エルゲート将軍のいる戦場下へと舞い戻る。




「おぉっ! 神よっ! 貴方様は私たちを、姫様を、木葉殿を見捨てなかった!」

エルゲート将軍もまた、喜びの声を挙げた。
その声と共に傍にいた兵士たちも歓声を挙げる。
そして、同時に別の何かの感情が不意に湧いてきた。
それは、怒りだった。


「許せん……! 許せんぞっ! ジースっ!!」


「心配して……損したじゃないのよ〜〜ッ!!」


「「ひぃっ!!」」


王国兵士たちは、そんな瀬菜やエルゲート将軍、反乱軍の兵士たちの様子に恐怖するのみであった。