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Re: ある日の放課後の魔科学  ( No.44 )
日時: 2010/12/23 18:27
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: XvkJzdpR)

焼き焦げた後が所々見られ、手につけられていたガントレットはもうボロボロだった。
シヴァンは、既に限界が来ているのだと分かった。

「シヴァンっ!!」

俺はすぐさまシヴァンの元へと駆け寄る。
剣を地面に突き刺して、なんとか状態を保ているが剣という支えが無くては今にも崩れ落ちそうだった。

「離れていろっ!」

だがしかし、シヴァンの口から出たのは辛辣な言葉であった。
その瞳は、何かが秘められた目であることに間違いない。

「俺は……守らなければならないものがあるんだ」

シヴァンはその傷つきに傷ついた痛々しい体をゆっくりと持ち上げる。

「背中に、守るべきものがある。俺は……約束したんだ。必ず守ってみせるとっ!」

背中に守るべきもの。それはきっと白雪のことだろう。
白雪は全身を召喚に集中しているようで何も聞こえていないようだった。
ただ一心に詠唱に力を入れている。そんな懸命な姿が白雪にはあった。

「俺は……守るべきものがある限り、守る!」

そして、再びシヴァンは剣を構える。
——あぁ、なんて俺は無力なのだろう。
守られて、守られて。それで俺は、何も返すことが出来ない。
俺は、歯を食いしばった。そして、拳を力いっぱい握り締めた。
何も、出来ないのか? 俺は——!




「もう既に、シヴァンは力尽きそうであります!」

伝令がジースの耳に届く。
その報告に今にも飛び上がりそうに体を前のめりにして笑う。

「——よし、もう一回レールガンを打て」

「……は?」

兵士は一体、この人は何を言ったのだろうという表情でジースを見た。
ジースは、俄然笑顔をやめない。

「で、ですが……このまま放っておいても戦力には——」

「早く打て。命令だ」

ジースは、冷たく言い放った。
その時、兵士は知った。
——この方は、異常だと。

「………」

「早くしろっ!!」

ジースに怒鳴られ、慌てて出て行く兵士。
いつまでも、ジースの笑い声がそこには響いていた。

レールガンを発射することを聞いた兵士は驚愕と困惑の表情を浮かべたが命令に従うことにした。
でなければ、自分の命も危ないと感じたのだ。
魔石という魔力を秘めた宝石を使えばレールガンを短時間で発射することが出来る。
やるせない顔で、兵士たちは魔石を使い、レールガンを発射するのだった。




「ま、また……!」

俺は目の前に光を帯びる、大砲を見て言った。
もう、こんなにボロボロだというのに。立ち上がることすら、かなりキツいのに。
俺に出来ることと言ったら、シヴァンを止めること。
このままだと、確実にシヴァンはもたない。
だが、止めてどうする? 止めたら白雪はどうなる?
多分、このままレールガンは白雪へと当たるだろう。そうなれば白雪もどうなるか分かったものではない。
結局は、シヴァンが止めなくてはどうしようもないのだった。

そして、閃光は迸る。考える時間など、与えてくれるはずもなかった。




「し、シヴァン様……!!」

レールガンを受けたシヴァンがボロボロの状態だというのを確認したのはエルゲート将軍だった。
あれからまた猛追を開始したが、レールガンが再び放たれたのがシヴァンだと知った時にまた戻ってきたのだった。

「あの状態では……ッ!!」

エルゲート将軍も分かっていた。
あの状態では、もう一度レールガンが来たら耐えられないということを。
そして、その恐ろしいことが今まさに行われようとしていた。
レールガンが、もう一度シヴァンに向けて放たれるのである。

「じ、ジースッ!! おのれええっ!!」

戦場最中で叫ぶが、届くはずもなく爆音の中に叫び声は消えていく。
目の前で、自分が忠誠を交わした方が死ぬかもしれない。
そんなことが脳裏をかすめた。考えたくもなかった。
——何か出来ることはないのかっ!?
そうして考えた策。それは——己の覚悟を決めてのことだった。




レールガンが勢いよく放たれる。それは一直線にシヴァンが待ち構える方へと向かっていく。
ボロボロのシヴァンは、案の定その速度についていけなかった。

「シヴァンッ!!」

俺が、声を荒げて叫ぶ。
だが、突然目の前が真っ白に覆われて何もかもが分からなくなったのだ。
一体何が起きたんだ? 俺はゆっくりと目を開ける。

「あれは……!」

俺が見た光景。
それは、高い丘の上に登って大の字にして構えるエルゲート将軍の姿。
それも、全身黒コゲの姿であった。
隣のシヴァンは、呆然とその光景を俺と同じく見ている。

その光景が意味するもの。
それは、エルゲート将軍が体を張ってレールガンを受け止めたのだ。
ボロボロになり、砕け散っていく王から授かりしエルゲート将軍の誇りの鎧は崩れ去っていく。

「え、エルゲート〜〜ッ!!」

シヴァンが膝から崩れ落ちながら叫ぶ。
その言葉に呼応するかのようにエルゲート将軍は——その丘から崩れ、落ちていった。

エルゲート将軍は、主君であるシヴァンを、白雪を守ったのだった。自らの体を犠牲にして。
——そんな、バカな話があってたまるか。

「——許せねぇよな、こんなの」

「——え?」

俺は、一人決意を固めていた。
突如として呟いた俺の言葉にシヴァンは呆然とした顔で俺を見上げる。
俺は、大きく口を開けて息を吸い込み、そして——


「ふざんけんじゃねぇっ!! 人の心を踏みにじりやがって!!」


俺は、大きな声で叫んでいた。




「何だ? あの小僧は」

その声はジースの声にも僅かに聞こえていたほどだった。
だが悠々とした様子で、ジースは新たな指令を告げる。

「あの小僧と共に、シヴァンも倒せ。エルゲートしか倒せておらん」

兵士は、その言葉一つ一つに怯えながらも従うのであった。




「木葉……? お前——」

「シヴァン、その剣貸してくれな?」

俺はそう言った後、シヴァンの手元にある透明に光る綺麗な銀色の剣を手に取る。

「何を言って——!」

「お前さ、言ったよな? 平凡な住民って」

その言葉に「あぁ……」とシヴァンは呆然と生返事を送る。
気にせず俺は剣を構えながら言う。

「俺はその通り、平凡な住民だよ。高校一年生だ。本当なら今頃家で寝てるだろうな。実際のところ、俺はぶっちゃけると救世主でもなんでもない」

わけがわからない顔をシヴァンはしていたが俺はまだまだ続ける。

「でもな、約束しちまったんだよ。白雪と。この世界を救うってな」

その言葉に、シヴァンは訝しげな顔をして呟くように言った。

「お前は……一体——」

俺は、この問いにはもう自信満々で答えることが出来た。
かっこよく、微笑を浮かべながら言ってやったさ。


「ただの世界を救うアルバイトをしにきた一般高校生だよ」


と。


その瞬間、目の前に閃光の光が迸り——放たれた。