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Re: ある日の放課後の魔科学  ( No.46 )
日時: 2010/12/23 23:07
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: XvkJzdpR)

「し、シヴァン……!」

ご子息3人はとてもむず痒い顔をしてシヴァンの顔を見る。
今まで憎しんでいた人から助けられたのがとても居心地を悪くしていた。
だが、シヴァンはそのことについて何も言わず、ただこう言ったのだ。

「よかった……! 三人共無事で……」

いつだって、シヴァンは兄弟としてみていたのだった。
どれだけ憎まれようとも、シヴァンは家族としてみていたのだった。

「シヴァン……俺たちを許して……くれるのか?」

三人は涙が自然に溢れた。
こんなにも、兄弟というものが温かいものとは知らなかったのだった。

「あぁ、もちろんだよ」

シヴァンは、ボロボロになった体で三人に微笑んだ。




「エルゲート将軍!」

兵士達は急いで黒コゲのエルゲート将軍を救護施設へと運んだ。
既に和解した王国兵士もいつの間にやら手伝いをしている。
先ほどまでは憎み、戦っていた相手だというのに。

「包帯、いるか?」

「あぁ! ありがとう! 出来れば薬草も採ってきて欲しいんだが……」

「薬草なら城内にたくさんある! 取って来るよ!」

こんな感じに双方本当に敵同士だったのか定かではないぐらいの仲直りぶりだった。

「ぐぅ……!」

エルゲート将軍は黒コゲになりつつも、まだ微かに意識はあった。
見るだけで痛々しい火傷の痕に皆悲しみを隠しきれない。
常人ならばレールガンをまともに受けたりすると即死並であるが、エルゲート将軍は耐えたのだ。

「この……鎧のおかげだ……」

今はもう、粉々に砕け散った王からの授かり物の鎧の欠片を大事そうに手に取り、見つめる。

「守れて……よかった」

心から安堵し、しばらく目を閉じることにした。
——目を覚ましたら、木葉殿に礼を言わなくては……。そう、思って痛みより嬉しさが増したのだった。




「お父様っ!」

その後、白雪は聖獣が突然光を放ったと思いきやその光の中から姿を現した。
目を閉じており、ゆっくりと目を開けてその突如、状況の確認を俺たちに攻め寄ってきた。
俺たちはゆっくりと状況を説明してやると、白雪はすぐさま笑顔になったと思ったら次は
「お父様っ!」であった。

牢屋へと向かった白雪は感動の再会を果たす。
痩せこけた王と思わしき人物が牢屋の中、一人寂しく閉じ込められていた。

「おぉ……白雪か……しばらく見ない内に大きくなったな」

「お父様……!」

笑顔が本当に優しくて、あぁこれが父親なんだなって思った。

「父親……か」

俺はポツリと呟いて白雪とその父である王が涙ぐみながら抱き合っている姿を眺める。
ここは素直に俺も笑顔で居たい所だったが、突如として俺は思い出したのである。
父親という存在を。

「………」

「……何?」

そしてそんな中、横からの鋭い目線に気付いた。
それは10人見れば9,8人が美少女と呼ぶほどの見栄えの持ち主、逢坂 瀬菜であった。

「何、じゃないわよっ!」

「何でいきなり怒るんだよっ!?」

怒る理由が分からないために何も言えない。
そうしているとふと気付いたことがあった。

「あれ……? 瀬菜! お前、頭怪我してるじゃねぇかっ!」

「え……? あ……」

「あ、じゃないだろっ? 血出てるし……! 包帯で巻いてやるから来いよ!」

俺が瀬菜の手を引こうとした時、俺の手を拒むようにして背中に手を隠した。

「ば、ば、バカッ!! 別にこんなもの、唾でも塗っておけば大丈夫よっ!」

「年頃の女の子がそんな療法言うもんでもやるもんでもありませんっ!」

それに部位が頭だぞ? 頭に唾塗ってる奴、どんな時代劇でも何にせよ見たことねぇよ……。

「と、とにかく! いいから! ほっといてよっ!」

瀬菜はそうして俺から背をそむけてしまった。
その姿に俺はため息を一つ吐く。

「いいわけないだろ?」

「……え?」

瀬菜は俺の一言で再びこちらを向いた。
今度は怒った顔でも、赤面した顔でもなく、驚愕したような顔だった。

「俺の頼みを聞いてくれたし、瀬菜がいなかったら俺はあんなこと出来なかったし……」

「木葉……」

あれ? 今初めて名前で呼ばれた気がしたんだが……。
それよりも、この続きを言うのがなんだか照れくさい。なので誤魔化してみることにした。

「その怪力を評して、俺が優し〜く包帯をだな……ぶはぁっ!!」

「このバカァッ!!」

今世紀最大のダメージで俺は壁へと顔からダイブしていくという恐ろしいことになった。
その時の瀬菜の赤面顔と一瞬だけ見えたパンツの色は忘れない。




その後の話を語ろうじゃないか。

白雪はそれから安心したのか、泣き疲れたのか眠りについた。
エルゲート将軍は黒コゲの状態から奇跡の回復を見せ、今では筋トレも出来るほどにまで回復したそうだ。
シヴァンはご子息3人と敵であったご子息らの父親と和解した後、囚われていた父親と再会を果たした。
王国軍兵士と反乱軍兵士は王のその優しき心により誰もが許され、平和を誓った。
ちなみにだが、ジースらも許されたそうだった。
その慈悲深い心に感動したのはいいものの、大臣の座から下ろされたのは言うまでもない。

とりあえず、一件落着はしたのだった。
元から平和な国だというのに、ここまで戦争が続いたのもおかしな話だとは思う。

そして、ようやくだった。

「帰れるのかっ!?」

「うるっさいわね! 朝なんだし、静かにしなさいよっ!」

荷物を整理しながら瀬菜は俺に怒鳴る。
声量的にいえば瀬菜の方が俺より響くのだけどもね。

「やっと……やっと俺のフリーダムが戻ってくるのか……!」

俺は嬉しすぎて感極まり、涙が零れそうになる。

「大袈裟ね……あ、それと……この世界にはもう来れないから、見納めしておいた方がいいわよ?」

「え? もう来れない?」

俺はつい、聞き返してしまっていた。
先ほどまで感極まって涙すら流そうとしていたというのに、その言葉には納得がいかなかった。

「救った異世界には二度と帰ってこれないのよ」

ということは、もう白雪やエルゲート将軍にシヴァンや反乱軍の皆にも会えないということか?
そう考えると、寂しい感じがした。

現在、朝方。
皆、昨日の戦争の疲れで寝入ってる頃だろう。俺だってさっき瀬菜に起こされたばかりだ。
瀬菜は昨日の疲れなど全く無い様子で俺を起こしたのだ。本当、ここまで来ると尊敬するよ……。
その間に俺たちはさっさと撤収を図ることにした。
荷物をまとめ終わると外に出る。

「何か、色々あったけどな……」

最初は帰りたくてたまらなかったが、いつしか世界を救ってしまっていた。
こんな話、現実に戻って話しても誰も信じないだろう。
俺たちは、ゆっくりと白銀の世界を歩んでいく。
その時だった。


「木葉〜〜!! 瀬菜様〜〜!!」


どこからか、聞き覚えのある可愛らしい声が聞こえる。
俺たちが後ろを振り向いた瞬間、花火のような爆音がしたかと思えば、まんま花火の如く青空に綺麗な色が混じる。
朝にやるものか? とは思ったがとても綺麗だった。
そして、白雪の姿だけではなく、皆いたのだ。

「またいつか! 必ず会えますよねっ!?」

白雪の声。どこか、震えているような声。
涙ぐんでいるようだった。
それに対して俺は、出来る限り笑顔で答えてやることにした。

「あぁ、もちろんだっ! もし、また泣いている時があったら俺達が飛んできてやる!」

そうして手を振る。それに手を振り返して来れる。

「何で私まで……」

と、瀬菜がぶつぶつと何か言っているが否定はしなかった。

「それじゃぁ、帰るわよ」

「あぁ。……でもどうやって?」

するといきなり、地面に魔方陣が現れたと思いきや

「え、ちょ……! 嘘だろぉぉぉぉッ!?」

その中に、吸い込まれていった。




「必ず……会えますよね……」

白雪は、胸にある秘宝たるペンダントを握り締めて呟いた。




「うぉぉッ!!」

俺はヘッドスライディング。それに比べて瀬菜悠々と両足着地。

「何か理に合わねぇよっ! ……ここ、どこだ?」

気温がまず違う。それに何か雰囲気も全く違う。
先ほどまで銀世界にいたというのに、今は古ぼけた教室の中だ。

「あんた、遂にボケた? ——あんたが帰りたがってた世界じゃない」

「あ……」

瀬菜に言われてようやく気がつく。
そうだ、ここは全て始まった所。アルバイト会場たる教室であった。

「あ、やっと帰って来たね」

そしていきなり、俺の頭上に笑顔を崩さないハンサムスマイルが映る。
その男は、ゆっくりと手を差し伸ばして言った。


「——おかえり。そしてようこそ、我が放課後部へ」


「——へ?」


新たなる状況把握には、しばらく時間がかかりそうだった。