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Re: ある日の放課後の魔科学 第5話なう ( No.51 )
日時: 2010/12/26 18:33
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: S19LK/VD)

目の前には、いつぞやの異世界で出会った白き小さな少女。
見間違えるはずがない。ここまで綺麗な白い髪をして、ここまで可愛いと思わせれる人形のような幼女。
他にはそうそういないはずであった。

「あっ! 貴方はっ!」

と、いきなり白雪らしき少女が俺を指さして叫ぶようにして言う。

「夢の救世主……! そう! 木葉!」

「……これって、どういうことデスカ?」

俺は機械仕掛けの人形のようにして首をゆっくりと放課後部4名に顔を向けた。
4人は皆、それぞれに独特の顔をしていたがそれもう触れないでおこう。
それより、この状況を説明してくれた方が俺は大助かりだ。

「うん。それはね、君の能力のせいなんだよねー」

白犬があくまでゆったりとした口調で言うが、他の女の子たち3人は難しそうな顔をしている。

「その、俺の能力とやらって何なんですか?」

そう聞くと、瀬菜がため息を吐いた後に言う。

「魔科学の意味から教えた方が早いわね……」

すると瀬菜はそそくさとペンと紙を用意する。
その途中、白雪らしき少女が「あの……?」と近寄ってきたが、朔夜さんと伊集院が相手をしてくれるようだ。
何とも見た目どおりの幼女。すぐに何かの遊びに夢中となっていた。

「いい? 魔科学っていうのは、いわゆる世界の理を司るものなの」

「……いや、全く意味が分かりません」

俺がそういうと睨みつけてくる瀬菜。
いや、だってな? いきなりそんなこと言われても実感湧かないし、第一意味不明だ。

「要するに、絵の具として考えてみればいいよ。絵の具が理、世界が絵を塗るボード」

「ふむ……」

横から白犬が分かりやすいようにたとえを出してくれたために助かる。
とは言ってもまだ意味が分からんことが多いのだが。

「……それで、魔科学ってのは理を使って様々な機械や異物を作り出すものなの」

「はぁ……」

「つまりね、理を使ってってことだから機械とか異物は絵として考えてくれればいいよー」

「あぁ、なるほど」

「何で私の説明じゃあ不服そうで、白犬さんの説明は納得なのよっ!」

随分と憤慨した様子で俺に詰め寄る瀬菜。

「いや、お前の説明かなり難しいんだってば!」

何とかそういって免れる。といっても本当のことなんだけどな。

「魔術っていうのは、基本理を利用して使うんだけど、それは形……いわゆる絵じゃなく、絵の具単体で出してるの」

俺の言葉に少し優しく表現しようとしてくれたみたいで、絵の具やら絵やらを言い出した。
つまり、理=絵の具で魔科学は絵を描く作業とほぼ同等なわけで、魔術は絵の具を出す作業と同等ということか?
うん、ややこしい。

「私達みたいな魔術師は、基本理を利用しているんだけど……絵の具のように、それぞれ色が決まっているの」

例えば赤なら炎とか、青なら氷とか水とかのことを言っているのだろう。

「でもね、アンタはないの。色が全く」

「……ということは色的には白ということか?」

瀬菜がゆっくりと頷く。

「でもそれは、本当なら"ありえない"のよ」

紙になにやら走り書きで書きながら言う。

「普通、どんな人間にも理の色はついているものなんだよー」

後から白犬が追って説明してくれた。
えーと……じゃあなんだ、俺はありえない人ということなのだろうか?

「まあ……簡単に言うとね、君は魔力は異世界一個分ぐらい持ってるんだけど、理の色が白だから……」

白犬の言いたいことがだんだん分かってきた。
つまりだな。俺の魔力とやらはすごく量はあるというのに、その色がないから発動できないと。
白いボードにいくら白を塗っても意味ないもんな。

「俺の能力って……一体?」

俺が自分の手を見つめながら呟くようにして言うと白犬が笑顔で説明をしてくれた。

「君の能力はね、夢想ノ無想むそうのむそうっていうこの世界にとって"ありえない"能力なんだよ」

なんだ、その得たいの知れない単語は。
それが俺の能力とやらの名称なのか?

「元が白ということは、そこから何かを生み出せる。つまり——君の存在は異世界そのものだということだね」

「……聞く限りものすごく大層な存在ですねぇ? 俺」

「うん。ものすごくすごい存在だよ、君は」

「……でも、その能力がどうして俺にあるって分かるんですか?」

何の根拠もなく、俺にその能力がついているとはいえないはずであった。
だが、悠々と白犬は笑顔で説明してみせた。

「彼女が何よりの証拠なんだよ」

「白雪が?」

目で白雪を見る。白雪は楽しそうに伊集院たちと騒いで遊んでいた。

「アンタの力、夢想ノ無想は異世界をこっちに塗り替えることの出来る能力でもあるの」

瀬菜が俺に向けて言い放つ。
理屈はこうだ。
白色の理を持つ俺はその異世界の色をコピーすることが出来るらしい。何せ真っ白の無地の白だからな。
そのコピーをこっちに持ってこれる、といってもまるごと世界というわけじゃなく、理を持つ人物なんだそうで。

「つまり……白雪の他に、エルゲート将軍やシヴァンや反乱軍のおっさんたちもいるってことか!?」

「そういうことになるわね」

よく平然な顔して言えますねぇっ!? 二度と会えないと思っていたのに……。

「あの異世界は、消えて無くなる。だから結果的に君は救世していることになるんだよ」

「あの世界が、無くなる?」

妙にその言葉は俺の心情を貫いた。

「僕達は何も"異世界を救世"しているわけじゃなく、"この世界を救世"しているに過ぎないんだよ」

その言葉の意味がよく理解できなかったが、すぐさま瀬菜が説明を入れてくれた。

「この世界は異世界と繋がっている。そしてこの世界にも理はある。異世界の不祥事がこの世界の理を傷つけることになってるの。だから私たちは異世界を救うのよ。この世界を救うために」

理屈は合ってるとは薄々分かる。だがしかし、俺は納得がいかなかった。

「この世界の理が壊されたら、どうなるんだよ?」

「——この世界が消えてなくなるわ」

即答だった。
異世界を救わねば、この世界は消える。だが、異世界を救えば異世界は消えるというのが言いたいことらしい。

「——だからね、君の能力は双方の救世になる」

白犬は俺に優しい口調で言った。
まるで諭すようだったので癪に障ったが、心を落ち着かせてくれた。

「君の能力を使えば、異世界の人は少なからず助けられる。こっちの世界も、異世界の人も助けれるんだ」

双方どちらも助けられる方法。それはどうやら俺の能力にかかっているらしかった。

「俺は、一体何なんだ?」

俺は自分を指さして白犬へと問う。
白犬は笑顔で、右手の親指を立てたのを俺に見せながら


「救世主だよ」


と、言った。