コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ある日の放課後の魔科学 第5話なう ( No.52 )
- 日時: 2010/12/29 22:33
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: S19LK/VD)
——救世主
俺にとって、その言葉は全く馴染みのないものだった。
俺は、普通の高校生。それ以上でも以下でもない。
世界を救う? 救世主? 能力? さっぱりだ。
いきなり救世主だといわれて「はい、そうです」と答える人間がこの世に何人いるのだろうか?
それはふざけか何かの間違いだと笑って言われる言葉であるに違いないだろう。
だが、目の前には異世界にいたとされる少女がいる。
それはまぎれもない真実だった。
さらにはその少女をこちらの世界へ来させたのは自分だという。
信じられるか? 目の前で無邪気に笑っている女の子は本来ならば消えるべき存在だったことが。
こんな無垢で無邪気な笑顔が失われるというのは何故だかとても悲しく、とても辛く感じた。
なら、俺はどうすべきか?
「ふう……」
俺はため息を吐いて頭を抱える。
その行動はいつもどおりの面倒臭いことに巻き込まれたという雰囲気たっぷりのもの。
だがしかし、今回ばかりは何かが違った。
自由に自分の生きる道を生きたい。それは確かだ。
でも、それを理由にしてこの笑顔を奪うことは絶対にしたくないと思った。
だから——俺は。
「ったく……半分強制じゃねぇか」
俺はそういって無理矢理に指ハンコをさせられた紙を取り、その上にさらにハンコをつけた指を押し当てる。
そのせいでそこだけインクが滲み過ぎて指紋が見えにくくなってしまったが、これは俺の入部の決意だ。
「ということは……入ってくれるんだね!?」
白犬は笑顔をより満面に近い笑顔へと整えると俺に向かってどこから取り出したのかクラッカーをぶちまけた。
「うおっ! どこから取り出したんだよっ!?」
その瞬間、鋭い一撃が俺を襲った。
それは何かここ最近で一番馴染みがある感覚だった。
「先輩に何タメ口聞いてんのよっ!」
案の定、俺を蹴り上げたのは瀬菜であった。
顔は何故か少しばかり紅潮しているようにも見えた。俺はそんなことなど気にも入らず、ある単語に反応していた。
「……先輩?」
俺の言葉に呆れた顔へとみるみる内に豹変していく瀬菜。
「あんた……先輩って知らずにタメ口してたの? 白犬さんと朔夜さんは二年生よ?」
「い、いや……朔夜さんは分かるけど……白犬……さんも?」
俺の言葉に顔は笑顔だが肩をすくめる白犬……さん。
「ひどいなぁ。これでも僕は君より年上だよぉ?」
そして、またクラッカーを鳴らしてくる。……俺の耳元近くで。
耳がジンジンして頭がクラッとくるように頭痛が走る。
「鼓膜破れるわっ! ……いや、破れますよっ!」
何か調子が狂うのだが……どうやら本当に先輩のようだった。
バッジの色で学年が判断されるのだが、一年は青、二年は緑、三年は赤となっている。
信号かよ、とツッコミたい気持ちは大いに分かるが心の奥底に閉まっておいてほしい。
つまりは、白犬がつけているバッジの色は緑。
とはいってもさん付けはやっぱりキツいな……。
「あ、別にさん付けしなくていいよー」
「しなくていいんですか!? ヒャッホウッ!」
「何かな、その喜び様は」
しまった、思わず心の中の叫びが出てしまったじゃないか。
微妙な顔をして白犬が俺の方へ向いている。
「さすがに呼びつけは失礼なんで、白犬先輩って呼ばせてもらいます」
「それが普通なんだけどね……?」
「いや、生理的に無理かなぁって」
「どういう意味かな……?」
そうこう俺と白犬先輩がやり取りをしている間に「はいはいはい!」と、朔夜さんが手を叩く。
「とにかくっ! まず自己紹介しましょう! 新規加入者だけね」
「え、あ、はい」
いきなりだったので俺は勢いで答えてしまった。だがここで少し疑問が浮かびあがってきたのだ。
「そういえば、瀬菜と伊集院も一年だよな? それにしては初対面って感じじゃないんだが……?」
瀬菜と伊集院は顔を見合わせる。
てかもっと早くに気付けよ、俺。
「あぁ、それは私達は入学する前からここにアルバイトとして仮入部してたからね」
「へぇ……って、それって仮入部ってことにならないんじゃないか? 高校に入ってもないのに……」
「細かいことは気にしないッ!」
と、バッサリと朔夜さんに会話を打ち切られた。
随分と無茶振りな気もするが、まあいいだろう。
「あ、でも今日か前に正入部することになるから…… 新入部員と変わらないんじゃ?」
伊集院がボソリと呟くようにして言った。
「あーそうだねぇ。……それじゃあ、木葉君と白雪君と一緒に自己紹介しようか」
「「え?」」
瀬菜と伊集院の声がピッタリと重なる。
二人はその後、顔を見合わせたと思ったら伊集院は笑顔で了解を告げる。
瀬菜はというと、ため息を一つ吐いて「分かりました」と、仕方のないような感じで答えた。
「えーと、じゃあ俺から。……杜坂 木葉っていいます。宜しくお願いします」
こんなものなのかと思いつつも横に視線を促す。
そこには可愛らしい白き少女が立っていた。
さっきまで、伊集院と朔夜さんに遊んでもらっていた白雪たる少女だった。
「あ、私ですか?」
容姿に全然負けないほどの可愛い声をあげて自分を指さす白雪。
声、全然変わってないな。まあそりゃそうか……。
何だか異世界の時の白雪とは別人な気がして怖い。そんな思いが俺の心の中で四散する。
「私は白雪っていいます!」
ハッキリ言ったが、苗字が抜けている。
「なぁ——」
「わ、私の名前は逢坂 瀬菜っていいます。これからも……宜しくお願いしますっ」
苗字を教えてほしいと声をかけようとしていた刹那、横から妙に緊張した声で瀬菜が自己紹介を始めた。
顔がほのかに赤い瀬菜はとても可愛く見えた。
こんなことを口で話したらまた殴られると思ったので言わないでおくがな。
「僕は伊集院 雪乃っていいます。色々とご迷惑おかけすると思いますが、宜しくお願いします」
完璧な口調、それに加えて表情に姿勢で自己紹介を伊集院は言う。
とりあえずこれで全員の自己紹介は終わった。とはいっても白犬先輩と朔夜さんはしていないが。
どうせならばすればいいのにとは思ったが、面倒なので黙っておくことにしよう。
それよりもこの白雪に似た少女というより、白雪と名乗るこの白き少女と話したいことがある。
俺がこっちに連れてきてしまったらしいしな。苗字を名乗らないということに対しても気になる。
無垢に笑っている少女の心情がどんなものなのか俺は知りたいんだろうな、きっと。
今までだったら面倒臭がっていたのにな、こうも変わるものなのかと俺はため息を聞こえない程度に漏らした。
「うーん……もっと面白いこととか聞きたかったけど、今はそれぐらいで大丈夫かな」
朔夜さんが時間をチラチラと見ながら話しているのに気付いた。
「あの、何か用事でもあるんですか?」
「え? 何を言ってるのよ」
と、素っ頓狂な声が朔夜さんから返ってきた。
「歓迎会するんじゃない。このメンバーで」
「「歓迎会?」」
俺たちの声が異口同音となって教室に響いた。