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Re: ある日の放課後の魔科学  ( No.55 )
日時: 2011/03/17 17:28
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)

「ただいまー……」

俺の気だるそうな声が6畳の部屋、つまり俺のマイルームに響く。
部屋は散らかり、他人が見るとまず最初に出るであろう言葉は汚いということは容易に考えられる。
そしてまたそれと同時に面倒臭がりな男の一人暮らし感満載だといっても過言ではない。

「お邪魔しまーすっ!」

元気の良い挨拶が俺の後に続く。

「うわっ、汚い……ちゃんと掃除しときなさいよ」

何とも無愛想な挨拶でもない罵倒が元気の良い挨拶の次に続く。

「僕もお邪魔します。やっぱり大変そうですね……一人暮らしは」

僕っ娘な可愛らしい声が罵倒の言葉の次に続く。

「お邪魔するわねー。あーやっぱり一人暮らしって大変そうねぇ」

僕っ娘な可愛らしい声の次に近所のおばさんのような口調をかましている声が続く。

「お邪魔するよー。きっといい部屋なんだろうなぁ」

近所のおばさんのような口調の次に部屋を目の前にして言う言葉ではない声が続く。
ていうかだな……。

「まだ入ってきたらダメって言ったでしょうがっ!」

「「え? 言ったっけ?」」

「来る前に何度も言ったよっ!! 10回ほど言ったよっ! 片付けるからまだ入らないでって!」

そんな俺の声などまるで無視して中に入り込む一同。

「客人を外で待たせるなんて外道のすることよ」

瀬菜がそんなことを言いながら勝手に座り込む。

「当然のことだったんだから仕方ないだろっ! だから日を改めようって言ったんだっ!」

「うるさいわね、この外道」

「外で待たせてないよねぇっ!? 外道って言われる理屈はいずこにっ!?」

「はいはいっ! せっかくの歓迎会なのにケンカしなーい」

俺と瀬菜が言い合っていたらまた拍手が二度ほど聞こえた後に朔夜さんが沈めた。
とは言っても俺の人権というものをことごとく無視するからな、この娘。

「でも狭いなー。木葉君ボンボンかと思ってたのに」

「なわきゃないですよっ! 一人暮らしでアパートで学生っていったらこんなもんでしょうっ!」

「まあまあ落ち着いてー。とりあえず酒飲もうか、皆」

と、白犬先輩が酒をどこからか取り出す。無論俺の家に酒などない。

「どこから取り出したですかっ! てか100%酒じゃないですかっ! 未成年で飲んだらダメでしょ!」

「はは、当たり前じゃないかー。冗談だよ、木葉君」

ぐっ……とてもムカつくことこのうえない。
俺が握り拳を作って怒りのあまりに震えていたら横からトントンと肩を叩かれた。
見るとそこにいたのは真っ赤な顔をした白雪。

「えへへ、木葉の家は狭いですけどいいですね」

ちょっと待て。白雪の顔が真っ赤だし、酒臭いんだが……。

「おま、まさか……?」

手に持っているどこから見つけ出したのかコップが握られてある。その中には半透明の液体……。
そこから漂う匂いは間違いなく酒の匂いだった。

「白犬先輩っ! 何飲ませてんすかっ!」

「え? あぁ! ジュースと間違えちゃったみたいだね」

「間違えるも何もジュースなんておいてないんですけどっ!?」

何故ジュースという未成年のためにあるともいえる美味しい飲み物ではなく、酒を持ってきたのか。

「あ、安心してください。僕がちゃんとジュース持ってきてますから」

「おぉっ! ナイスっ! 伊集院!」

伊集院の何ともファインプレーだと思えるジュースを手に取る。

「……ちょっと待てええええッ! これチューハイじゃねぇかっ!!」

見るとラベルにはしっかりと酒の有名メーカーと宣伝見たことあるチューハイの名前が記されていた。

「あ、アルコールとか全然ないんでジュースと変わらないです」

「そういう問題かっ!? でも少量はあるんだろ!?」

「無礼講、無礼講」

もう何を言っても無駄のようで伊集院もグビグビとチューハイを飲む。

「私、酔ってきちゃった……」

突如として瀬菜が赤い顔をして俺に攻め寄ってきた。いい香りが俺の鼻元にちらつく。

「え、瀬菜……?」

「木葉ーっ!」

「ま、待てっ! 白雪っ!?」

どんどんと俺に詰め寄ってくる二人。
待ってくれ、これは——。




「おーい。木葉くーん、大丈夫?」

「はっ! こ、ここはっ!」

白犬先輩の言葉で目が覚めた場所は俺の家の中。
どうやらこういうことになるだろうなぁという回想に入っていたらしい。
終盤とてつもなく我ながらアホな回想をしていたものだと思った。
どうやら片付けている最中に回想していたみたいで俺は山となっている洗濯物を抱えていた。
それをなんとか隠し終えると玄関まで走っていく。

「もう入っていいよ」

そういうとぞくぞくと中に放課後部メンバー一同が流れるように押しかけてきた。

「うわー汚いわね」

とか予想通りの言葉をくらったことはくらったが回想ほどひどくはない。

「白犬先輩。もしかして酒とか持ってきてないですか?」

俺がそういうと白犬先輩はキョトンとした顔をして

「え? お酒? もってきてないよー。未成年は飲んじゃいけないってきまりだよ?」

と、当たり前のことを言われた。回想通りじゃない……これは喜ぶべきなんだろうな、うん。
一同は俺の部屋にあがりこんだかと思えば狭くてもとりあえず一人一人座った。

「で、なんで俺の家で歓迎会なんすか」

俺の言葉に白犬先輩がどこから取り出したのかクラッカーを鳴らす。

「っていちいちうるさいですよっ!!」

「はは、僕はクラッカー大好きだからね」

これまた奇妙なものが大好きなことで。白犬先輩っぽいけどな。

「君の家で開いたのは、色々と事情があってね……」

「「事情?」」

俺の言葉の他に瀬菜の声も重なる。俺と瀬菜はつい顔を見合わせてしま——んで俺は殴られると。

「不公平だーッ!!」

「あんたが私の言うことを真似るからでしょっ! バカッ!」

んなこと言われても……直しようがないじゃないか。

「えっとねー……」

と、白犬先輩が言おうとしていたが朔夜さんが横から白犬先輩にチョップした。
いや、もうわけわからんが朔夜さんが口を開いた。どうやら言いたかったことなのだろう。


「白雪を、木葉の家で預かってもらおうと思ってるのよ」


「……えーと? 理解が全く出来ないんですが……?」

いや、まてまてまて。
俺のこの狭い6畳の部屋で白雪を預かる? てか預かるってなんだ。言い方違うくない?

「白雪はね。孤児なのよ」

……え? どういうことだ?

「孤児? それってあれですよね? 親がいない子の……」

瀬菜も驚きを隠せない様子で言った。
そりゃそうだろうな。いきなりこの子孤児なんですとか言われたらビビるきまってる。
その話を平然と聞いてる白雪もどうかとは思うけどな。

「まーつまりね……白雪君には帰る家がないっていうのかな」

白犬先輩が補足をする。孤児ということを突如としてたたきつけられた俺たちは一体どうすれば?

「一人暮らしだし、そもそも杜坂君が呼んだんだから責任取りなさいということで……」

朔夜さんがそう言うが俺は納得が無論できない。

「そうは言われても……俺たちで決めることじゃなくて、白雪に決めさせたほうがいいんじゃないですか?」

その俺の言葉に一同は頷く。

「そうだね。その方が白雪ちゃんのためになるかな」

伊集院がそう微笑しながら言った。
なるほどな。苗字がないというのは孤児という理由があってこそか。
そんなこと、微塵も考えられなかった。何せ異世界にいたときは親がいたんだ。それも王女だったんだぜ?
もしかすると、異世界に居た時から白雪は孤児だったのか……?

「白雪。お前はどっちがいいんだ?」

俺はとりあえず白雪に聞いてみる。
第一、白雪が何故この部を選んだのかの動機すら定かではないというのにこんな勝手に決めるのはおかしだろう。
返事を待つこと数分して白雪は俺の顔をじっと見つめる。
透き通った目だった。綺麗だと感じさせるほどに。

「私は……木葉の迷惑になるので、遠慮しておきます」

そう言っていつの間に出したのかお茶を啜った。
その言葉にとても痛烈なものを感じたのは俺だけか?

「まあ……食費とかも難しくなるかもしれないしね……」

白犬先輩が「ふむ……」と、考える仕草を出す。
いや、でも待て。
俺は白雪を守りたいと思ったんじゃないのか? それは異世界を救うということが最大の目的であったけど
実際のところは白雪を守るということは真の目的だったんじゃないのか?

——「姫様を頼みましたぞ、木葉殿」
突如としてエルゲート将軍の言葉が思い出される。

白雪の顔を見ると、その顔はどこか不安がっている顔のように感じた。
はぁ……俺はなんて約束をしちまったんだろうと心の中で思う。
だが、その約束をしたことについて後悔はしない。ただ、大きすぎる約束だと思ったからだった。

「待ってくれ」

俺の言葉に一同は俺に振り向く。

「別に構わないよ。白雪を預かる……っていう言い方はおかしいけど、大丈夫だ」

と、言った。別に言う必要はなかったのに。あの約束は異世界までだというのに。
俺は現実のこの白雪を守ってこそが本当に守るべきものなのかと思った。だから言ってしまったんだ。

「え、でも……」

白雪が戸惑いというより、あたふたと動揺した仕草をする。

「木葉君なら言ってくれると思ったよ」

とかなんとか本当かと疑いたくなるようなことを白犬先輩は言った。

「給料はずむからね、安心して」

「そうしてくれるとありがたいんですがまだ給料もらったことないのでなんともいえないですよ」

と、返してやった。

「あの……いいんですか?」

白雪が俺の表情を伺うかのようにして言った。
このまま孤児院かどこかに預けるぐらいならば俺が預かってやろうじゃないかと思った。

「あぁ、大丈夫だよ」

すると白雪は華やかな笑顔を見せた。
預かる期間はとりあえず白雪が自分の家を見つけるまでのこと。つまりまあ、アパート探しということか。

(でもなぁ……)

そうは言っても他に色々と気になることがあった。




そんな木葉の気持ちなどとは裏腹に瀬菜は一人、とても複雑な思いのままでいた。