コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ある日の放課後の魔科学 ( No.62 )
- 日時: 2011/03/17 13:49
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: Q2XZsHfr)
「と、いうことだから。犬の散歩、お願いね〜!」
「は、はぁ……」
現在俺は犬のリードを持ち、その繋がれている先には目の前にいる綺麗な女学生の愛犬がいる。ちなみに普通の柴犬だ。
何故こんなことになっているのかというと、簡単にいえば——依頼だ。
あの後、依頼用紙は山ほど出てきて、ほとんどが三日前とか最近の依頼用紙ばかりだったために、部員総動員でこうして依頼を行っているわけだ。
いや、しかし何で犬の散歩まで引き受けるかねぇ?
「はぁ……えっと、ヨッシーだっけ? いくか」
俺の呼びかけに返事もせず、ずかずかと俺の前を通り過ぎて好きなところにいこうとする、ヨッシー。
「あ、私以外には多分懐かないから〜!」
そんな犬を散歩してくれなんて依頼、出してくるなよっ!
そうはいっても三日間待たせてしまったし、何より上級生だった。
「はぁ……どうしてこんなことに……」
何も入りたくて入ったわけじゃない部活、放課後部という謎のネーミングを持つ部。
そこに強制的に入らされたことに少し納得いかない。いや、少しどころか……多大にだ。
いきなり異世界があることを見せられて……御伽話じゃないんだから。とか思ってはいても、現に白雪たちと出会ってしまったのだから仕方がない。
「ったく、一体なんだってんだ……」
ヨッシーに強引に引かれながらも、仕方なくついていくことにする。これも依頼、というより自分の生活費を稼ぐためだ。
これをやったらしっかりとバイト代はもらえるとか何とか聞いたので、仕方なくやっているということは否定できない。
丁度大通りへと入る曲がり角を曲がった時、かなりの美少年の姿が目に映った。
羨ましい。本気でそう思うほどの美少年だが、どこかで見たことがあった。
「ワンワンッ!!」
すると、急にヨッシーがさっきまでお通夜のようにしていた尻尾を激しく左右に振りながら、その美少年の下へと駆け出していく。
「うぉっ! ちょ、待てぇぇっ!」
と、口では言っても言うことを聞かないこの犬めは美少年の足元へと追いつく。
それに気付いた美少年は、顔をヨッシーに向けて逸らす。表情は——にわかに笑顔だった。
「ん……よしよし、可愛い子だね」
美少年はヨッシーの頭を撫でる。「くぅーん」とか甘い声を出してヨッシーは嬉しそうに目を細める。
一体何者なんだ? この美少年。俺が触ろうとしたら「ワンッ!」とかいう拒絶の一言だというのに。
「君が、飼い主?」
「え?」
いきなりその美少年は俺に声をかけてきた。リードで繋いで持っていることから飼い主だと思ったんだろう。
「あぁ、いや。俺は飼い主じゃなくて、バイトで……」
「バイト?」
透き通るような声。そして作られたかのような綺麗な少年の顔に思わず俺の方が恥じらいでしまう。
だがしかし、本当にどこかで見たことのある顔で、そして聞いたことのある声だった。
「ここ、人通りも多いからな。犬を散歩させるなら公園とかそういうルートの方がいいんじゃないか?」
と、美少年から言われたが……このルートはこの犬が勝手に連れて来た場所なんだけどな。
「あまり分からなくて……犬を散歩させるのも、初めてだし」
「初めて?」
何だかいちいち人の言葉を疑問系にする人だとは思ったが、一枚一枚が絵になるような美少年だった。
「なら、俺も丁度人を探していたところなんだ。ついでに散歩も付き合ってやるよ」
「え? いや、別にかまわな——」
「お前も、そのほうがいいよな?」
「キャン! キャン!」
この犬……ッ!! そういえばこのヨッシーとやら、メスだったな。人間の男に惚れたりでもしたか? 嬉しそうな鳴き声しやがって……。
だが、この美少年には一度会った気がする。その真相を確かめたく、俺はこの美少年の同行を了解したのだった。
「あ〜っ!! 見つからないっ! 見つからないっ!!」
その頃、瀬菜は伊集院と共に猫探しという任務をこなしていた。
どうしてこうも動物関係ばかりなのだろう、と瀬菜は不思議に思う。
「まあまあ……瀬菜ちゃん、少し休憩でもする?」
「休憩してたら時間無くなっちゃうじゃないっ!」
今はまだ昼頃だから明るいが、気付いたら夕暮れで辺りは暗いというのはまんざらでもない。
明るい内に探すというのがベストな考えなのであった。
「これが一番、任務の中でも遅め任務って……」
遅めの任務、というのは今日ぐらいに出された依頼だ。
それを忘れた白犬先輩は後ほど朔夜さんに蹴られたことは言うまでもないだろう。
そういう依頼面での情報管理は部長である白犬先輩に任せているということだが、それはどうかと思う。
部長は朔夜さんの方が断然に向いていると思うのが事実だった。
「僕達は異世界の仕事しか手伝ってなかったからね。こんなことまで活動内容に入れてるなんて、驚きだよね」
「驚きも何もないわよ……。てっきり、異世界を救うことだけだと思ってたわ」
がくりと肩がうな垂れてくるのも無理はない。かれこれ何時間と探しているのだが、一向に見つからないのだった。
「猫なんて、どこにでも行くじゃないのっ! 別にほっといたらいいのに……」
「旅行か何か行くみたいで、そこに連れて行きたいみたいだね」
「そんなの知らないわよっ! 全く……」
ぶつぶつ言いながらも探すことは全力でやる瀬菜の姿に思わず伊集院はクスッと笑ってしまう。
「何笑ってるのよっ! 雪乃ちゃんも! ほらっ!」
「ふふっ、分かりましたよ」
どれぐらいかかるのやら。終わらない気がしつつも、二人は猫を探し続ける。
大都会、というわけではないが、なかなかの都会であるところの住宅街で猫を探すというのは困難を窮める。
「あの……すみません」
その時、誰かが瀬菜に声をかけた。それは綺麗な声であった。
顔をあげて、瀬菜がその声の主の方へと向くと——そこにいたのは、花屋の服を着た少女だった。
「はい? 何でしょうか?」
額に浮かぶ汗を袖で拭いながら、瀬菜はその花屋の服を着た可愛らしい少女へと返事を返す。
「えっと、その……」
「?」
花屋の少女は、ゆっくりと口を開く。
「魔術師、ですよね?」
「え——」
放たれた言葉は、瀬菜と伊集院の意表を突くものだった。