コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ある日の放課後の魔科学 ( No.8 )
- 日時: 2011/01/21 12:44
- 名前: 遮犬 (ID: .pwG6i3H)
「あの……帰っていいか?」
そんなこんなで、こういう言葉が出たわけだ。分かってくれるだろう? 理不尽じゃない人は。
大抵のことは大体、俺は受容できる。これもそれも母・姉コンビのせいなんだけど……。
だが、今回は違う。世界を救うことがアルバイト? 何それ。
「何で帰んのよ」
平然な顔、というより無愛想な顔で瀬菜とやらが俺を睨みつけてくる。
顔的には早く帰りやがれ、みたいな顔をしていらっしゃいますけど。
だからこそ俺はため息混じりと半笑いで言ってやる。
「だってな? 世界を救うことがアルバイト? それ初めて聞いてはいそーですかってなるか?」
我ながらこの意見はごもっともだとは思った。
いきなり「そこの貴方。世界を救ってみませんか?」って言っているようなものである。
——そんなムチャクチャな救世主あるかぁぁぁっ!、と言いたいところだ。
「あー確かに……最初は、信じてもらえないかもしれないですね……」
伊集院がなにやら呟き、そして俺の顔を見据える。
その顔はどこか凛々しく、何ともいえない美形だった。
その姿に少し見入ってしまったりもするが何とか煩悩を振り切る。
「あの黒板の向こうには、貴方が既に知っている世界があります」
俺はその伊集院の言葉に黒板に目を向けてしまった。
左右に開いている黒板の奥は、暗闇で何も見えない。
「この奥に、別世界があるとでもいいたいのか?」
「その通りです」
即答された。いや、あの、だから……。
そんなものをすぐに信じろといわれても信じられるわけがない。
何せこの学校は普通の高等学校で——
「この学校は普通じゃないわよ?」
何で瀬菜とかいう奴! 俺の心読めたんですか!
別世界がどうたらこうたらより、貴方のその心理術が怖すぎてたまりませんが。
「いや、口から漏れてるから」
「えぇっ!!」
どうやら知らぬ間に思っていたことが筒抜け状態だったようで。
え、てかいつから筒抜けだったんですか? それによっては俺、マジで帰りたいんですけど。
「……まあいいわ。それで、この学校は普通の学校じゃないの」
「うぐぅ……。な、何で?」
「貴方は、魔科学って知ってるかしら?」
いきなりわけの分からん単語が生み出されたぞ、おい。
「あの……」
「何?」
「もしかして、厨ニ病で——ぶはっ!」
殴られた。厨ニ病っぽいじゃねぇかよ……。絶対外野から見たら確実に厨ニ病だろ……。
ゴスッ!
もう一回鈍い音が俺の頭に響く。
「いってぇっ! 何するんだよっ!?」
「口から漏れてんのよっ!」
「えぇっ!!」
ちょっと待ってくれ。いつからそんなに俺の心内状況が漏れ出した? Why?
「ま、いいわ……。じゃあ本当かどうか、自分の目で見てもらおうじゃない」
瀬菜とやらは黒板の方に指を向けて、言い放つ。
「入れ」
単刀直入すぎやしないか?
まあいいか、と心を落ち着けて黒板へと近づいていく。
これで学校とかだったら本気で笑えるけどな。
ていうか、魔科学とかいうの、まだ説明してもらってなかったような……。
「魔科学は、この世界に行ったら分かるわ」
そう、後ろの方から瀬菜とやらが声をかけてくる。ていうかだな……
「一緒にきてくれないのか?」
後ろを振り返りながら俺が言うと、呆けた顔をして瀬菜とやらが
「小さい子じゃあるまいし、一人でいけるでしょうが」
「これって一応アルバイトだよな?」
確認のために言っておく。呆けた顔で一人で行かせる発言をしやがった腹いせもあるが。
「その通りよ? 行ったら分かるから。はい、早く行けっ!」
ゴスッ! 鈍い音が俺の腰か背中辺りから鳴り、その後に続いて痛みが。
「ちょ、まっ——!」
後ろから思い切り蹴られたようで、その勢いで俺は暗闇の中をこけるような形で——
「うわああああっ!!」
消えるように、進んでいった。
「あーくそ……いってぇー……!」
ぶつぶつといいながらも俺は立つ。
そしてそこが学校でないことがすぐに分かった。
「えーと……雪?」
季節はずれもいいところだ。確か、春だったろ? 俺のいたはずである世界は。
それが何だ、この見渡す限り雪平原は。
「マジかよ、おい……」
そして急に寒気が襲ってくる。
春の格好だからまだ少しは厚着だが、寒いものは寒い。何せ周りは全て雪なのだから。
「うん……?」
そしていきなりの眠気。
そういえば、雪とか降ってたりするところで寝たらダメなんだったか?
てかその前に、この状況を説明してくれる人を誰か一人くれ。
俺は、何をすればいいんだ?
「ねむ……」
寝れば夢は覚めるだろうか?
この寒い世界から元の世界に戻れるのだろうかと思った。
「本当に、寒いところって……眠くなるんだなぁ……」
と、言った所で倒れこんでしまう。そして意識が朦朧となり——
最後に見えたのは、可愛らしいフリフリをつけた白い毛布のコートを着こなす少女の姿だった。
「この人……? あ……! 予言の人!」
その可愛らしい少女は倒れている木葉を必死で起こして自分が乗っていたソリに乗せる。
傍では白い狼のような犬が二匹、せわしく白い息を吐いている。
「ライ、レイ? 二人共、行ける?」
そうやってその犬に少女は呼びかける。その二頭の犬は鳴き声で返事をした。
「よし、行こう!」
少女は木葉を乗せて、ソリを滑らせた。
予言で言っていたこの世界を救ってくれるという救世主を乗せて。