コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: ある日の放課後の魔科学 ( No.9 )
- 日時: 2010/12/03 17:47
- 名前: 遮犬 (ID: XvkJzdpR)
「やっと、きてくれたね?」
殺風景な教室の中。その中で黒板が左右に大きく開き、奥は闇のみとなっている。
何とも見る限り異様な雰囲気を醸し出している教室の中、伊集院は目の前にいる美少女、瀬菜に声をかけた
「……杜坂 木葉のこと?」
瀬菜の回答に笑顔で頷く伊集院。どうやら回答は正解だったようだ。
「瀬菜ちゃんがずっと待ち望んでいた、"救世主"だよね?」
伊集院は笑顔で言うことに対して、瀬菜は返事もしなかった。だが、否定もしない。
そんな態度も、一瞬だった。すぐに悩んでいるような表情に変わる。
「私との、記憶はない。……ううん、取り戻せないから」
「え? 何か言った?」
瀬菜が小さく呟いたために、伊集院は聞き取れなかったみたいだった。
そんな伊集院に苦笑し「なんでもない」と、言ってから黒板の奥にある闇へと向けて歩き出した。
「行くの?」
伊集院が首を傾げながら聞く。
予定では、まだもう少し時間が経ってから行くということになっていた。
「一応、ね」
素っ気無く後ろを振り返らずに闇の中へと、瀬菜は消えていった。
夢を見た。
それはそれは綺麗な雪景色で
延々と、雪が降り注いでいる世界だった。
そんな世界の中、一人の少女が泣いていた。
「どうしたの?」ってわけを聞くと「わからないの」と、答える。
その返答の意味が分からなくて戸惑っていると、少女は涙を拭いて言った。
「この世界が、壊れることがわからないの」と。
ドスッ!
……いてぇ。腹がものすごく。
その痛みのおかげで目を覚ます。痛みというか、驚いたという方が合ってるか。
「……誰?」
俺の腹を跨いで座っている——女の子。
え、何この展開。
「救世主っ!」
「は、はいぃ?」
いきなり救世主と指をさされながら言われる。
戸惑う他にどうリアクションとったらいいんでしょうか。
「えーとな……まず、どいてくれないか?」
正直この女の子、かなり可愛い。
目が大きくて、くりっとしている。まさにこれが美少女というものか?
その可愛い目だけではなく、顔も端正良く、体も細身で胸は……まだ子供だからな、うん。
「ど、どこ見てるんですかぁっ!!」
ゴスッ!
……鈍い音が俺の胸と腹の中間、いわゆる「みぞおち」と呼ばれるものをされた。
「………」
「あ、ご、ごめんなさい! 救世主、大丈夫ですか?」
「はは、はははは……」
もう、笑うしかなかった。
とりあえず、俺の腹の上からどいてもらい、落ち着いてから話を始めること10分ほど。
「……それで? 俺が倒れていたのを助けて現在に至る、と?」
「はい! 感謝してください!」
普通、口に出して感謝しろとか言いますかね、この小娘。
それも自信有り気に無い胸を張りながら言うものだからたまったものではない。
「はぁ……ありがとう」
「何で最初にため息をついたのかは永遠の闇ですが、どういたしましてです!」
永遠の闇ときたか。知られたら色々とマズい気もするので逆に好都合といえば好都合だが。
それにしても、だ。
どうして俺はこんな寒くて一面雪平原の中にたってあるテントの中にいる?
さっきまで、俺はどこにいた? 無論、学校に決まっている。
俺のフリーダムな放課後を返してくれ。今すぐ家にも帰してくれ……。
「なあ、これって何かの撮影?」
あまりに帰りたいという気持ち上にこんなことを聞いてしまっていた。
俺の言葉を聞いて少女は首を傾げて、呆けた顔をする。
「さつえい? 何ですか? それ」
どうやらこの世界には撮影というものがないようで。
ていうかそれがこの世界を認めてしまっているようで自己嫌悪に入りそうだ。
「家に、帰してくれないか?」
俺はため息をついた後にそう告げる。
この少女には悪いとは思うが、俺はハッキリ言って帰りたい。
大体行きたいとか言ったわけじゃなく、俺は帰ると言った。
だからこうしてこの世界から帰ろうとするのは必然だろうと思う。
「だ、ダメですっ!」
「う、うわっ!」
またしても少女は俺の腹の上へとのっかかってきた。
体の中がムッとして一瞬、息が止まったりするのでやめて欲しいことこのうえないのだが。
「予言の通りなんですっ!」
「よ、予言?」
少女の柔らかい足に挟まれているためか、何だか恥ずかしくなってくる。
体勢的には少女が木葉を襲っているような形。
「とりあえず! ど、どいてくれっ! でないと話もできないっ!」
必死で少女をどかそうとするが、少女は力を入れた手で俺の制服の首元らへんを掴む。
「うおっ!」
そして上に引っ張りあげられるような形に。
苦しいし、恥ずかしい。少女の顔がもう鼻の先ほどにある。息も当たるかどうかぐらいの近さ。
「この世界を救ってくれますよねっ!?」
「いや、だから……」
「ねっ!?」
どうやらこのまま世界を救うことを了承しないとこの妙に力のある手を離してもらえないようだ。
「はぁ……」と、ため息をついた俺は仕方なく了承した。
するとすんなりと腹の上からどいてくれて、ついでに手も離してくれた。
さらには満面の笑顔で俺へと微笑む。凄まじい可愛さだった。
「さすがは救世主ですっ!」
少女は横暴なやり方で世界を救う条約を口約束という何とも頼りない方法で確かめたことに安心したようで
「……そういえば、お互い名前を教えていなかったな」
ずっと忘れていた。
さすがに世界を救うとかそんなことを言ったりもしてしまったことだし、聞いておいたほうがいいだろう。
すると、少女は自信ありげに胸を張って立ち上がった。
「私は白雪っていいます! 救世主!」
白雪……か。確かにこの少女の格好といい、外見とかからして似合っていると思った。
「あー……救世主って呼ばれるのは嫌だから俺も教える」
「はいっ! 救世主!」
救世主って呼ばれるのが嫌と言った傍から……! この小娘……。
「俺は、木葉」
「このは?」
「そう。このは」
俺の名前が相当珍しいのか何度も「このは……このは……」と、連呼している。
「木葉っ!」
そして満面の笑顔で俺の名前を言われるのだった。
ていうか、言葉通じるんだな。世界違っても。
やっと落ち着いたと、そう思っていた矢先。
ドンッ!
という、ものすごい地響きの音と共に、外から怒号が聞こえてきた。