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マイクテス。番外編【晴×秀 少女マンガ談義】 ( No.23 )
日時: 2010/12/17 19:59
名前: むーみん ◆bbb.....B. (ID: 20F5x0q3)


マイクテス。番外編【晴×秀 少女マンガ談義】



「あの……面白いですか? それ」

今、部室には俺と秀先輩しかいない。
よく考えると、二人きりになったのは初めてだ。
しかも仮にも先輩。
あの何とも言えない気まずい空気を打破するために出たのがその言葉だった。
それ、というのは言うまでもなく——

『ぼくときみのふぉーりんらぶ☆』



「前から貸してあげるって言ってるじゃん☆ 貸すから読んでみなよ」

「あ、いや結構です。なんていうか……どんな話かなーて聞いてみたかったりしてですね……」

この言葉を、俺はのちに後悔することになる。

「読むのが一番早いんだけどねー。しょうがないから僕が87巻分説明するよ」

「……え、幻聴ですかね? 今87巻って聞こえたんですけど」

「今のところ87巻まで出てるよ」

「某有名海賊漫画より長いじゃないですか! 恋愛マンガで87巻!? どんだけ長い片思いですか、主人公可哀そうすぎるでしょ、それ!」

「告白シーンで5巻分使うからね」

「テンポ遅すぎ!」

そう、なぜならこの先輩に少女漫画を語らせたら止まらないから。
なんせ87巻分。
下手すれば朝を迎えることになるかもしれない。

「まず一巻。主人公のもあちゃんが生まれます」

「なんで誕生からなんだぁああ! 一般常識では遅刻しそうな主人公がパンくわえながら走るシーンからでしょうが! 角でぶつかって恋に落ちる的な展開でしょうが!」

「古すぎるよ、そんな始まりかた。ぼくふぉー☆はこの斬新な始まりかたで多くのファンが出来たんだ」

ぼくふぉー☆とはおそらく題名を略した言い方なのだろう。
秀先輩は、腕を組み目をつむりながらそう言った。
ツッコミどころがありすぎて俺は突っ込むことを諦めた。

「2巻になると、もあちゃんは小学校に入学し、遠足が雨で延期になって悲しい思いをしてしまうのです」

「へぇ、可哀そうですね」

「3巻にやっと遠足が始まります。しかしもあちゃんはお弁当を忘れて周りの人からちまちま貰うという、肩身の狭い遠足となってしまいました」

「あー、それはもう一番いやなパターンですね。もあちゃん不幸ですね」

「そして、そこで卵焼きをくれた慎吾くんに一目ぼれ☆」

「やっと少女漫画っぽい展開きたぁあ!」

「そこから15巻くらいが小学生編。もあちゃんは——」



「ここから伝説の5巻に及ぶ告白シーンが始まります!」

気がつけば下校時刻。
一時間以上話を聞かされている。
他の部員は、何分かすると部室に来たが、ドアの外から様子をうかがって、皆帰ってしまった。
どうやらこの苦痛を経験済みなのだろう。
俺も帰りたいが、まだ45巻。
もあちゃんはその後慎吾君に振られ、購買で焼きそばパンを譲ってくれた圭介くんに片思い中だそうで、秀先輩の言う伝説の5巻に及ぶ告白シーンでは慎吾君ではなく圭吾君に告白するらしい。
ぶっちゃけどうでもいいのだが。

「もあちゃんは圭介くんと付き合うことになります!」

「そうですかー、よかったですね。では、さようなら」

「まだ50巻。ここから二人はいろいろな苦労を乗り越えていくんだよ! ここがぼくふぉー☆の深いところであり素晴らしいところなのに」

「さようなら」


気がつけば、空には月が浮かんでいた。