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Re: 蒼穹、紅く燃えゆ ( No.12 )
日時: 2010/12/19 22:06
名前: No Ink Ballpoint (ID: uUme72ux)

Part5 僕の恋路の応援団─Advisers─

時刻は午後。
昼時の現在、学校の生徒達はそれぞれに昼食を食べている。
そんな中、鴉間 翔は弁当を片手に教室を出て、校舎の最上階である屋上を訪れていた。
真っ青な快晴の蒼空が、変わらず陽光で眼下の大地を照らしている。
だが、早朝の時よりもマシになっているのか、灼熱の陽光は、春を思わせる暖かい陽光と化していた。
そんな暖かい陽光に照らされて踏み入れた屋上には、三人の少女が待ち受けている。
一人は、麦藁帽子を被って車椅子に乗っている、妹の志織。
そして、その車椅子の取っ手を握っている、クールな雰囲気を漂わせる紺色の髪の少女。
その二人の背中に隠れるように翔の方を伺っている、オドオドした雰囲気を放つ、亜麻色の髪の小柄な少女。
それぞれに弁当を片手に、此方を見て、

「兄様ー、こっちですよー」

「…遅いですよ、翔さん」

「あぅ…」

ごめん、と会釈をすると、翔は志織達の方へと距離を縮めた。
三人の傍まで距離を縮めると、志織は微笑を湛えて、

「それではー、”兄様の恋愛に助言をする会”の第13回会議を始めまーす」

志織の言葉に、二人の少女は、おーッ、と妙に気合の入った声を上げる。
誰にも聞こえてませんように、と戦々恐々とする翔など気にせず、三人は妙な意気込みで会話を始めた。

「兄様は、攻めの姿勢が足りないと思うんだけどー」

「だけど、攻めばっかじゃ嫌われるよ。偶には引いて、相手の出方を見るのも良いと思うけど」

そんな風に翔の現状を冷静に分析する、クールな雰囲気の少女。
彼女は志織のクラスメイトで、名前を錦織 香苗と言う。
クールな雰囲気が示している通り、性格はクール&ドライなのだが、根は優しい娘だ。
事実、友人の兄の恋愛について真摯に考えてくれている所が、そんな優しさの表れだったりする訳で。

「だ、だけど…、せ、攻めは大事です。お、女の子って攻められる事に惹かれる人とかもいましゅ…」

最後の言葉を噛んで、妙な言語を発した為に顔を真っ赤に染める、小動物を思わせるオドオドした態度の少女。
彼女も錦織と同様に志織のクラスメイトで、名前は茜原 姫子。
引っ込み思案で、喋るのが極度に苦手らしく、言葉を掻みまくる事から、彼女の口調は”カミカミ口調”と呼ばれる。
そんな三人は、弁当を摘みながら、口々に意見を交換した後、

「そういえば、兄様の今日の成果を聞いてないねー」

「…そうだった。翔さん、今日は咲原先輩と会話はできましたか? どんな会話をしたんです?」

「き、今日の成果を、しょ、詳細に述べてくらしゃい…」

またも最後の言葉を噛んだ茜原は、ボンッ、とまたも顔を真っ赤に染め上げる。
あぅぅ…、と恥からか両手で顔を覆っている彼女を、翔は微笑ましく感じ、遂々、表情が緩んでしまう。

「…兄様、鼻が延びてますよー?」

「…翔さん。やめてください、情けなく感じます」

「う…。ご、ごめん」

こほん、と。
一度だけ咳払いをすると、翔は今日の成果を三人に報告する。
今日の、咲原 廉那との会話を。
…とはいえ、会話と言えるほどのものでは無かったのだが。
一連の会話とも言えない会話を報告した後、三人はそれぞれの意見を述べてくる。

「駄目だよー。兄様、それは駄目の極みだよー。攻めの姿勢が感じられないよー?」

「偶には引くべきだと言いましたが、それは攻めの姿勢が無さ過ぎです。…まずは会話の成立が第一目標ですね」

「そ、そ、そうですね。まずは会話を成立させるのが第一段階でしゅ」

「だねー。まずは兄様が咲原先輩と会話を成立させる、これが大事ー」

うんうん、と頷き合って、三人は弁当を相変わらず食べ続けている。
かくいう鴉間 翔は、三人の言葉を真摯に聞いていた為に、弁当に全く手を付けられなかった。
が、彼女達はちょくちょく弁当を食べていた為、既に弁当の殆どを食べ終えている訳で。
彼も弁当に手を付けていない事に気づき、弁当箱の蓋を開けるも、その刹那。

何と意地悪な神の悪戯か、昼休みの終了の合図であるチャイムが鳴り響いた。