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- Re: 蒼穹、紅く燃えゆ ( No.2 )
- 日時: 2010/12/17 21:27
- 名前: No Ink Ballpoint (ID: uUme72ux)
Part2 五年後の僕の現在─Every Day─
夏は酷く億劫だ。
燦々と陽光が照らす通学路を、妹の車椅子を押しながら移動する鴉間 翔は疲れた表情で呟いた。
暑いのが苦手な彼からすれば、夏は最も億劫な、憂鬱な気分になる季節である。
特に、この日は猛暑と言っても過言では無い暑さで、翔の気分は酷く沈んでいた。
「…夏は僕の天敵だ」
無慈悲に陽光で大地を照らす蒼穹へ、彼は睨みを効かせてみる。
この猛暑に対し、特に何かできる訳では無い、無力な人間の、実に無力な抵抗だ。
そんな彼の耳に、聞き慣れた声が届く。
「暑いねー」
妙な安心感を与えてくれる間延びした声。
その声の音源は、車椅子に乗っている人物からだった。
綺麗な黒髪の上から、防暑用の麦藁帽子を被った、非常に小柄な体型の少女。
人形を連想させる可憐な顔立ちに、喜悦の微笑を湛えた彼女は、翔の妹の鴉間 志織だ。
彼女は猛暑に苦しんでいる兄に対し、
「ちょっと休憩する?」
と、述べた。
相変わらず間延びした暢気な声だが、彼女なりに兄への配慮をしてくれているのだ。
だが、翔は彼女の配慮に首を横に振ると、変わらず車椅子を押し続けた。
「その提案は素敵だけど、休んでたら学校に遅れるだろ?」
「あ、そっか」
現在の時刻は、翔と志織の通っている中等学校の登校時間に当たっている。
このまま休憩を挟まずに歩けば学校の登校時間には間に合う。
が、逆を述べれば、このまま彼女の提案に従っていれば登校時間には間に合わない訳で。
結果、休憩という魅力に溢れた提案を蹴ってでも、前に進まなければならない。
「うーん。兄様、熱射病で倒れないでねー?」
志織の心配を含んだ言葉に、翔は適当に頷くと、前に前に進んでいく。
家から学校までの距離は遠くないのだが、この猛暑である。
ただでさえ、暑さに対する耐性が並の人より低いのに、神様は何たる試練を与えてくれるのか。
冗談を抜いて、これは倒れるかも知れない。
だが、
(ああ…、ダメだぞ、鴉間 翔。妹の前でぶっ倒れるなんて絶対に嫌だからな。倒れるなら、志織をクラスに届けてからだ…!!)
せめて、両脚が不自由な妹をクラスに届けてから。
そんな義務を己に架して、翔は邁進する。
住宅地を抜け、進路に立ち塞がった坂を越え、ギチギチと歯を噛み締めながら。
前へ、前へ。
「頑張ってー、兄様ー」
鬼の形相で車椅子を押し続ける翔の耳に聞こえたのは、相変わらず間延びした暢気な声だった。
灼熱の陽光が降り注ぐ中、翔は妹の為に前へ突き進む。