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Re: 蒼穹、紅く燃えゆ ( No.6 )
日時: 2010/12/18 20:27
名前: No Ink Ballpoint (ID: uUme72ux)

Part4 この感情の正体─Unknown─

授業中。
数学の担当教諭が風邪で休んだ為、現在は自学自習。
真面目に勉強する者もあれば、友人と喋っている者もいる。
そんな中で、鴉間 翔は何処か憂鬱な表情で窓の外の景色を眺めていた。
自分が、咲原 廉那に抱いている感情について考えながら。

(…僕が彼女に抱いている感情は、恋情なのだろうか)

彼女と喋っていると鼓動が高鳴って、頬が紅潮する。
そして、心がとても幸福な気持ちになってくるのだ。
一般的に、これだけの特徴を挙げれば、この感情が何なのか簡単に答は出てくる訳で。



結論を述べれば、鴉間 翔は、咲原 廉那に恋をしている。



(…と、思う)

これだけの兆候が出ていながら、彼は自分の感情を恋情と確信する事ができなかった。
それには明確な理由が存在する。

(僕を救ってくれた、”あの人”)

五年前、この街で大惨事が起きた。
街中が焔に包まれ、たくさんの人が死亡した、あの大惨事。
当時、公園で遊んでいた彼は、焔に巻き込まれ、身体に怪我を負った。
一人では、動くことが叶わなくなるほどの傷を。
公園は焔の抱擁を受け、残された彼は、あの五年前の日に、あの公園で焼死するはずだった。
だが、その運命を、一人の女性が変えたのである。

焔すら霞ませるほどの紅色の髪の女性が。

見目麗しく、紅色の髪を靡かせた女性は、鴉の身を抱き上げ、あの公園から脱出した。
それから、意識を失った彼が、次に目を醒ましたのは病院のベッド。
あの日、あの時から、あの女性には逢っていない。
しかし、彼の記憶には依然として、彼女の姿が焼き付いている。
もう一度逢いたい、と幾度無く願ったが、彼女は見つからなかった。
結局、諦める以外の選択肢を無くし、彼は遂に、彼女を探すことを諦めたの訳なのだが。

中学校に入学してから一年後、とんでもない出逢いをしてしまう。

それが、咲原 廉那との邂逅だった。
何処か似ている…、の次元では無く、あの女性に完全にそっくりさんな彼女。
それこそ、彼女を見ているだけで、あの女性を彷彿とさせるほどに。
気が付けば、彼は何処にいても彼女を視線で追ってしまう癖が付いていて。
また気が付けば、こんな感情が芽生えていたのだ。
これが理由だった。

(僕は”あの人”の姿を彼女に面影を見て、ただ羨望を抱いているのか)

それとも。
僕が抱いている感情は。

(彼女を…。咲原 廉那を、好きだと思っているか…)

なぁ、どう思う?
誰にも聞こえない声で、窓の外の光景に彼は問い掛ける。
…答が返ってくるはずも無いのだが。
小さく溜息を吐いた、その瞬間。
授業終了を知らせるチャイムが教室に響き渡った。