コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 毒舌裁判官の日常 ( No.1 )
- 日時: 2011/01/07 15:30
- 名前: 黒蝶 (ID: /gz88uq5)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode=view&no=22337
十二月の都会の風は冷たかった。
頬に冷気を残しながら風は横を通り過ぎていく。
座っているベンチもプラスチック素材でいながらジーパンを通して冷たさをじわじわと伝えてくる。
自分の座っているベンチを取り囲むように鳩たちは群がっていた。
さっきパンくずを与えたのがいけなかったのだろうか?
両手には何も持っていない。というアピールのつもりで両腕を上げるが、それはどう見ても鳩たちに両手を挙げて降伏しているようにしか見えなかった。
人の脳は不思議なものだ。無意識にその場から立ち上がっていた。
鳩たちがいっせいに灰色の空に向かって飛び上がる。
そこからどこかにゆくわけでもないのに『寒い』
という理由だけで体は勝手に動き出す。
ゆっくりとベンチから立ち上がり、手に持っている
空になったブラックコーヒーの缶を自動販売機のわきに在る共通のゴミ箱へと投げ入れた。
歩くごとに顔に風が当たる。『寒さ』というものは残酷な奴で、自分が歩けば歩くほど冷気を顔に当ててくる。
人は寒いとなぜかポケットに手を突っ込みたくなるらしく、実際に自分も何も入っていない赤と緑のクリスマスカラーのジャンパーのポケットに手を入れる。
あったかくなるわけでもないのになぜかそうしてしまう。
しばらくはそのままの格好で歩いているがこれは第一段階。最終的にはジャンパーのエリに顔をすぼめる。なんて奇妙な格好なのだろう。と思うかもしれないが大抵の人間は同じ格好をして歩く。
これは人類の思考に学ばずとも考え出される知恵なのだろうか。
しかし、おしゃれ重視の女子高生なんかは
ミニスカートやミニズボンをはいて、さっそうとジャンパーに首をすぼめる自分とすれ違う。
この差は何だろう。
さらに首をすぼめて先ほど座っていたベンチからそう遠く離れていない、小さな『小波Ⅰ』というアパートの出入り口の前で方向転換をする。
カン、カン、と金属製の階段を上る音は凍った耳に響いて痛かった。
『132号室 斉藤 昌明』と表示されたいつもと
変わりない表札の前で鍵を取り出す。
さっきまで寒いところにいたせいか、手の感覚が鈍かった。鍵穴に鍵を入れて、鍵を回す。
それだけの動作のはずなのになぜか二分もかかってしまった。